たったひとつの冴えたやりかた
それは当然じゃないかと思う。
オレたちは大魔王バーンを倒して、地上を魔の手から救ったのだけど、それと復興に手を貸すのとはぜんぜん違う問題だと思う。
「そうそうオレたちは安心して遊んでりゃいいのだるで、こないだから目をつけてる所があるんだけどなー、ダイ」
ポップは軽くそう言う。
どうもオレはポップよりは責任感が強いようで、レオナが長老とかに囲まれて奔走しているのを見ると、少しは手伝わなきゃいけないかな、は思うんだけど、やっぱり面倒くさいよ。
「アッタリマエじゃん。オレたちまだお子様だもの、遊んでたっていいんだよ。レオナは王族だから仕方ないけど、オレたち庶民はせっかく手に入れた平和を満喫せねばならないのだよん」
ちょっとレオナが可哀相な気もするけど、オレもあーゆー書類仕事はゴメンだよ。
それにそんなことまでオレたちにやらせていたら、何のために三賢者やほかの重鎮達がいるんだよ。そんでもってイヤがられるのはオレたちなんだ。
ポップもそれがわかっているからあーやって、ふらふらと遊び歩いているんだろう。
「ほらほらあそこ! あの塔。あたりの人はゆうれい塔って呼んでるんだって。いかにもってカンジだよなー。心なしか空気まで冷たくなってきたような」
ポップに連れられてやって来たのはパプニカのはずれにある、大きな古い塔だった。
いーち、にーい、さーん……五階くらいあるかな?
ちいさな窓がたくさんついているけど、すべて中から板が打ち付けてある。
もとはしっかりしたレンガ造りの外壁も、風雨にさらされて、ぼろぼろに崩れ落ちてる。
「悪趣味だなあ……どっからこんなモノ見つけてくるのさ」
「怪奇だ。ゴチックだ。ロマンだ。おまえにはわからんのか、ダイ。この塔は何百年ものあいだ、我々を待ちつづけていたのだッ」
「なんで何百年ってわかるのさ」
確かに古い塔だけど、そんな年月経ってないぞ。
「雰囲気だ雰囲気。オメーはそういう散文的な所がいかん。さあ行くぞダイ。表の戸、開けてくれよ」
「ホントに探検するつもりなの!?」
「最初からそー言ってるだろうが。鍵も無いし、そしたら力で開けるしかないのだ。ゆけっ、ダイ! 貴様のその人間離れした馬鹿力でとびらを打ち破るのだっ」
「………」
まあ、いいけどね。人間じゃないのは確かだし。
どうもオレは、こういうときの為の要員として連れて来られたらしい。
「なんだよ黙りこくって。早くやれよ」
「はいはい」
オレは気づかれないようにためいきをもらして、とびらに手をかけるべく近づいた。
ふうん。古そうに見えるけど、本当にたいした時間は経ってないみたいだ。
とびらは木で出来ているけど、くさってもないし鍵もさびついてない。
「よいしょっと」
オレは力をこめてとびらを押した。
錠前がはじけ飛んでねとびらがいやあな音をたてて内側へ開く。
「開いたよ、ポップ」
「やったあ、一番乗りっ」
ポップが喜びいさんでオレの横をすり抜けて、塔の中へと入っていった。……はずなんだけど。
「ポップ?」
あれ?
オレは思わずふりかえる。
この塔は、気味悪がって周りに誰も人が住まないので、けっこう広い敷地にぽつん、と建っている。
「ポップ、どこ?」
外にポップはいない。……すると、ポップはやはり中に入ったのだ。
でもここから見るかぎり人の姿なんて見えない。どこへ行ったんだろう? ポップは。
「ポップ……」
言いながら、オレは塔の中へ一歩ふみだす。
とたん、ストーンと体が落ちていくような気がした。
「な、なんだよこれ。どうなってんだよ!」
冗談じゃない。本当にオレは落っこちているのだ。
目の前は真っ暗だ。何も見えない。足をばたばたさせてみる。あるはずの床はなく、むなしく宙をかくばかり。
「とっ……トベルーラ!!」
無意識に飛翔呪文を唱えて、なんとか落ち着く。
ポップもこの、穴……か何かにはまって下に落ちていったんだろう。見捨てて帰ろうかという冷たい考えも頭をよぎったけど、あれをほっとくと更にやっかいなことになりそうだ。
上下を変えて、下へ、下へ。下りているのか、上っているのかよくわからない。
目印は何もないし、手をのばしても壁にはぶつからない。
そもそも、方向なんてあるのだろうか。
このままトベルーラを続けても、ポップのもとにたどり着けるとは限らない。
へたに小細工するよりも、自然の法則にまかせたほうがいいかもしれない。
オレは覚悟を決めて呪文を解除した。
やだなあ、けっこうスピードあるよコレ。下に着いたときケガしなきゃいいけど。
目を閉じてその時を待つ。しかし、いつまでたっても下に着くようすは無い。
滞空時間長すぎないか!?
「何やってんだ、ダイ」
聞きなれた声が耳をうった。
「ポップう!?」
驚きに目を見開いてオレはポップを見た。
「遅いから迎えに来てやったぞ。早く帰らんとお茶の時間が終わっちまうだろうが。こっちとあっちでは時間の流れが違うんだから」
ポップはすたすたと、オレの手をとって歩きだした。
「ま、待ってよポップ! 足が……」
「足が、なんだ?」
「………」
いつのまにか、オレの足は地に立っていた。
「まったくう、それでよくここまで来れたなあ。だーからちゃんとついて来いって言ったろーが。ヒトの忠告を聞かないおまえが悪いんだぞ」
「………」
ここでそんなこと聞いてない、と言ってもムダだろうからオレは黙っていた。
ポップにはこういうところがある。自分の知っていることはオレも知っていると思い込んでいるのだ。
今日だってオレは、探検したいトコがあるからついて来い、と言われただけで、そこがどこなのか何をしに行くのか全然知らなかった。
しかも、それがこんなワケわかんないとこだなんて聞いてないぞ!
「あー見えてきたるあそこが出口だよん」
オレの避難のまなざしも何のその、あっかるい口調でポップはその場所を指差す。
「うわあ……」
暗い闇をぬけて辿り着いたところは、碧のじゅうたんにたんぽぽの綿毛が白く散っている世界だった。
>>>2001/3/20up