「ただいまあ。お茶の時間終わっちゃった?」
「心配はいりませんよ。ただいま五時のお茶に突入したところです」
白とピンクの、でっかいウサギみたいな人が返事をする。
おもちゃのようなガーデン・セット。
そのウサギの人の座っている椅子の横には、特大のワニが寝そべっている。
クロコダインみたいなリザードマンじゃない、本当にそのままワニをでっかくしたやつだ。
「起きろよわにわに。お客人がお客人を連れて帰ってきたぞ」
そのものズバリのネーミングだなあ。
オレはもう少しで吹き出す所だったけど、会ったばかりで失礼ではないかと思ってなんとかこらえた。
「いいようっちゃん。オレがいなくなったの十二時のお茶だったじゃん。五時間も待って疲れたんだろう、そのまま寝かせといてやってよ」
五時間だって。五時間もポップはオレを探しててくれたのかな?
いや、あっちとこっちでは時間の流れが違うとか言ってた。
きっともっと短いに違いない。
「こんにちはお客人。私はここのテーブルの住人、うっちゃんです。ウサギだからうっちゃんです。こちらはワニだからわにわに」
ウサギの人の自己紹介を聞いて、お客人はまたもや吹き出すところだった。
さっきと同じ理由でなんとか耐えたけど、顔はひきつっていたことだろう。
ウサギのうっちゃんは顔をしかめて、
「……なんです? この人はお客人。ふつうきここで笑ってくれるはずなんですがねえ。でないとこんな名前つけた甲斐がないじゃないですか。お客人はアゴがはずれるほど笑ってくれましたけどねえ」
そうポップに打ち明けた。しまった。それじゃ笑ってもよかったのか。
「す、すみません。初対面で笑っちゃ悪いと思って。本当は咽喉まで出かかってたんです。それを無理矢理こらえてたから、今ヘンな顔になってたでしょ!?」
「おまえって妙なところで気ィまわすなあ、相変わらず」
ポップが呆れたように言った。
「いえいえ、そういうことならいいんです。私の名前が無駄にならなかったとわかってとても嬉しいです。さあどうぞお客人。おかけになって、このたんぽぽ茶をおためし下さい」
「うまいぞ。いただけよ」
ポップはさっさとあいている席について、うっちゃんのお茶をいれる手さばきを見ている。
オレもその隣に腰かけることにした。
うっちゃんはウサギの手を器用にあやつって、ティーポットにお湯をそそいだ。
そして、オレとポップにカップをさしだしてくれながら言った。
「お客人はふたり目だからお客人二号ですねえ。こちらのポップさんとやらは一号。そういうことでいいですか?」
あちッ!! オレはお茶をとりおとす所だった。
「いいよ」
カンタンにポップは請けあう。物に動じない男だ。
「それでは二号さんが私どもの世界を救ってくださる方なのですね? 一号さん」
へ!?
「そうだよ。ダイはこれでも勇者なんだ。すでに一回、向こうの世界も救っている、全世界公認の勇者だよ。ダイに任せておけばだいじょうぶ」
「ち、ちょっと! なんだよそれ!! 聞いてないよ!」
今度ばかりは言い返さずにはいられない。
「そりゃそうだ。オレだってここに来て初めて言ったんだから」
「勝手に決めんなよおッ!」
いきなりこんな世界に連れてこられたことはともかく、世界を救うなんて話が大きすぎる。
「なんだよ。イヤなのか? ダイ」
イヤとかそおいう意味じゃなくてえッ。
「それじゃお前はこのうっちゃんやわにわにが、世界が滅んで死んでしまってもいいと言うんだな? このきれいなな緑の草原が、たんぽぽ竜に食い荒らされて、はげちまってもいいと言うんだな?」
「………?」
「お願いします二号さん。このままでは私たちの主食であるたんぽぽが、たんぽぽ竜に食べつくされてしまいます。たんぽぽ竜はそう凶暴な竜ではないのですが、竜だけあって私どもでは歯がたたないのです。これはどこか他の世界から力ある方をお招きして、倒していただくしかないと思ったのです」
悲壮な決意をこめてうっちゃんは言った。
「なーるほどー……それで、ポップに白羽の矢が立ったのか。他の世界の祈りを感じとれるヤツなんて、ポップくらいしかいないだろうしね」
ものすごくうなずける話だ。
「でもさあ、別にオレ連れてこなくても、ポップだけでもいいんじゃないの? ポップだって世界最高の魔使いじゃないか。竜の一匹や二匹、どってことないでしょ」
ポップはものすごく意外そうにオレを見た。
「……協力してくれないのか? ダイ」
う……ッ。
ひーっ、そんな目で見ないでくれええっ。でっかいむらさき色の瞳が、すがるように頼るようにオレを見つめてる。ぱちぱちとまばたきの音がしそうだ。
「わ……わかった……」
オレは降参して同意する。
ポップとうっちゃんは、手をとりあって喜んだ。
>>>2001/3/22up