アナライズ・ミー/02
それがあまりにも自然な動作だったので、思わずイギリスは あ、 と声を上げた。
いいのかそれ俺が作ったんだぞ、と言葉を繋げる間もなく、フランスは何の疑いも持たずに一口啜った。
すぐにまずい、とか言って吐き出されるのではないかとどきどきして見ていると、彼は眉一つ顰めることなく二口目を啜る。
(あれ? ……食ってる…よな……普通に…)
フランスがイギリスの作ったもの(ということに気付いているかどうかもわからないが)を文句一つ言わずに食べるなんて、久しく記憶にない。
単に文句を言う気力もないほど弱っていて、他に食べるものもないから仕方なくかもしれないけれど、自分が作ったものを食べてもらえるのは嬉しいものだ。
それだけのことに気を良くしたイギリスは、通常の三倍優しい声音で問う。
「おい、薬はあるのか?」
「うん、……そこ」
フランスの指した枕元に置かれていた薬袋を取り上げ、袋に書かれている一回分の服用量を確認する。
指示通りに薬袋から錠剤二つとカプセル一つを出すと、溢れるくらいコップに水を注いでベッドサイドのテーブルに置いてやった。
彼が食事を摂っている間に洗面器の水を替え、着替えのパジャマを出しておく。
いくら以前世話をしてもらった借りを返すためとはいえ、なんで俺がこんな奴の面倒を見なくちゃならないんだ、まぁ俺以外に頼れるやつなんかいないんだろうけどなこの変態は! とか随分なことを考えているわりに、自ら進んで必要以上に甲斐甲斐しく世話をしていることには気付いていないのだった。
「薬飲んだら着替えろよ」
「うん。……ご飯ありがと」
食事を終えたフランスは素直に頷いて、用意してやった薬を手に取った。
サイドテーブルに置かれたスープボウルは綺麗に空になっていて、それを見た途端、イギリスの胸はきゅうと締め付けられるような温かな感覚に震える。
彼が自分の作った食事を食べてくれたことは想像以上に嬉しいもので、いつもこうならいいのに、と少しだけ早まった心音を抑えるように胸の辺りのシャツを握った。
汗を拭きながら真新しいパジャマに着替えたフランスはベッドに横になると、 ねえ、 と掠れた声を出しこちらに目線を向けてイギリスを見上げる。
瞳は未だ潤んだまま、吐き出す呼吸は短く荒い。
こういう顔、前も見たことがあるな……いつだっけ、とフランスを見返しぼんやり考える。
(ああ、そうだ……この前ベッドで見……)
そこまで思い出してイギリスはぶるぶると頭を振った。
熱に蕩けた瞳と上気した頬、そして乱れた吐息は彼とベッドで抱き合ったときに見る表情とほとんど変わりがないことに気付き、 何考えてんだこんなときに、 と脳裏に浮かんだ生々しい記憶を振り払う。
けれど今のフランスの状態を見ていると、どうしてもセックスのときの記憶と重なってしまい、それを思い出すと自然と顔が熱くなっていく。
「…なに?」
目線だけ向けていたつもりが、無意識のうちにフランスの方に顔を向けて凝視してしまっていたことに、彼の声で気付かされた。
熱に浮かされた顔で、フランスが一言呟いたその掠れた声音を聞いただけで身体の芯がじく、と疼くのを感じた。
かぁ、と頬もますます熱を帯び、病人相手に何を考えているのかといたたまれなくなって、イギリスは彼から視線を外すと勢いよくベッドから立ち上がる。
これ以上ここにいたらフランスの家のトイレで一人でするなんて、ものすごく情けない事態に陥る羽目になるかもしれない。
そんな浅ましい真似は絶対にごめんだった。
「も、もう寝ろよ。俺は帰るからな」
慌てて椅子の背もたれに掛けておいたジャケットを掴み、早足でドアに向かう。
すると 待って、 と引き止めるような弱々しい声と、ぎし、とベッドの軋む音が同時に聞こえた。
イギリスが振り向くより早く、フランスの両腕が身体に巻き付き背後からきつく抱き締められ、突然のことに言葉も出せず息を詰めて彼の次の動作を待った。
「まだ昼過ぎなのに…帰んないでよ、……もう少し傍にいて欲しいなぁ…」
「…、風邪うつるだろバカ」
「はは……、そのときは俺が看病してあげるから。…約束ドタキャンしたのに…イギリスが来てくれて、お兄さん嬉しかったんだもん」
「………そ……そうかよ…」
病気で弱っているせいなのか、フランスにしてはめずらしく甘えた科白を吐いてイギリスの肩口に顔を埋め擦り寄せる。
来てくれて嬉しい、なんて言われて悪い気はしない、どころかこちらの方が嬉しくなる科白だった。
こんなふうに自分が甘やかされることはあっても、甘えられることなんて滅多にないので、どきどきと一気に心音が早まった。
熱があるからだろう、密着するフランスの身体はお互いの服越しでもやけに熱いのがわかる。
同時に先ほどから火種の芽生えた身体は、いつものようにフランスの手や唇が肌に触れることを望んでざわざわと粟立った。
(…っ…こいつは病人じゃねーか、自重しろ俺…!)
何とか気分を落ち着けようとロシアのことだとか昔の嫌な思い出だとか、精神が冷えることを考えたりして必死で背後の熱から意識を逸らすが、そんな努力も虚しくフランスの身体がさらに密着して彼の下肢が腰に当たった瞬間に、無理矢理浮かべた考え事など頭の中から一瞬で吹っ飛んだ。
「おいっ…、お前、お前の当たってるぞばかぁ! この変態!」
肘を後ろに突き出し、抱き付いているフランスの身体を押しのけるが、彼ももう立っているのが限界だったらしい。
急に背中に体重が掛かり、ぐらりと互いの身体が傾いて縺れるようにしてベッドの上に倒れ込んだ。
イギリスはフランスの上に乗りかかるような格好になり、慌てて身を起こそうとするが彼の両腕がしっかりと腰に巻き付いていて身動きが取れない。
「放せよ、……大人しく寝てろって…! 病人のくせに…なんでそんな…」
下腹部に当たっているフランス自身はすでに硬く張り詰めていて、その熱さにさっき無理矢理抑え込んだ熱が再び全身を灼いていく。
密着した下肢をずらそうと落ち着きなくもぞもぞと身体を揺すると、フランスが苦笑した。
「あんまり動くなよ。俺もこんなんじゃ眠れないし……な、ちょっとだけしない…?」
彼はそう言ってそろりと膝を立て、イギリスの下肢に膝頭をぐり、と押し当てる。
そのままゆっくりと円を描くようにしてフランスが膝を動かすと、ただでさえ敏感になっていたそこはすぐに反応してしまい、イギリスは小さく声を上げてひくり、と背を反らせた。
普段なら確実にこのままセックスに傾れ込むのだが、病人相手にそんなことをしていいものかどうか悩むくらいにはまだ冷静な部分も残っている。
けれどお互い熱くなった身体を持て余しているような状態で、イギリスもこのままでは帰るに帰れないし、フランスだって寝付けるわけがない。
こうなってしまったら身体の熱を解放してやらなければどうしようもないことは、自分だって同じなのだからよくわかっている。
フランスの表情を見下ろすと、薬を飲んだためか顔色も訪ねてきたときよりはだいぶ良くなっているし、最後までするのではなく一度出してやればそれで済む話ではないだろうか。
それならさっさと済ませて寝かせた方がいいに決まっている、と上体を起こしたイギリスは、はぁ、と湿った吐息を零してぼそぼそと小さな声で言った。
「…俺がしてやるから、お前は寝てろ……具合悪くなったらすぐ言えよ」
イギリスの言葉にフランスは少し驚いたように目線を上げるが、すぐに薄く笑みを浮かべて頷いた。
彼の膝の圧迫から解放されると覚えのある疼きが全身を支配し始めていて、もう引き返せないほどに昂ぶっている。
フランスのパジャマのズボンに手を差し入れ、手のひらを太腿に滑らせて肌の感触と体温を確かめるようにそっと撫で上げる。
彼の皮膚はどこも熱く火照っていて、触れたところからイギリスにもその熱が伝染してくるようだった。
太腿を彷徨わせていた手でフランスの性器を軽く握るように包み込み、緩く上下に扱いてやると彼は僅かに息を詰め、触れた箇所がますます熱を帯びる。
手の中で屹立していく熱塊に、イギリスも徐々に気分が高揚してきて、まだ触れてもいない自分自身が勃ち上がりかけていることにも気付いていた。
けれど今は自分のことよりフランスを楽にしてやりたくて、イギリスは何度か擦って完全に勃ち上がった彼自身の根元を手で支え、尖端に唇を押し当てた。
そこを何度も軽く吸って、口を開けて先端を咥えようとすると、フランスの手が柔らかく髪を掴んでイギリスの顔を下肢から引き剥がそうとする。
せっかく気持ちよくしてやろうと思ったのに、彼の手で止められて不満そうに眉を顰めた。
「……なんだよ」
「あのー……イギリスがしてくれるのは嬉しいし、さっき身体も全部拭いたけど……でも、俺…風呂入ってないから…」
なんだそんなことか、とイギリスは呆れた。
別に気にならなかったし、フランスだって普段はイギリスがせめてシャワーくらい浴びさせろと抗議してもお構いなしなのだから、これでおあいこだ。
ぬるりと滑る彼自身の先端を指先で撫で、イギリスはそれを何の躊躇いもなく咥えられる部分まで一気に口に含む。
一息つく間もなく頭を動かして出し入れを繰り返し、口内に収まりきらない根元は人差し指と親指で作った輪で擦り上げた。
舌で尖端を擽って、唇で擦り、指で扱く。
そうやってフランスの悦いところを丁寧に探っていくうちに、口腔を出入りしている熱塊とそれを咥えているイギリスの唇は、唾液と先走りとでべとべとに濡れていた。
先端の窪みに歯を立ててその周辺を舌でぐりぐりと抉ると、もとから乱れていたフランスの呼吸はさらに苦しげなものに変わる。
その反応からしてそこがもっとも感じる部分らしいと知ったイギリスは、そこばかり執拗に舐めて吸って甘く噛み付いた。
じわりと滲んだ先走りを舌先で舐め取り、根元を扱く指の動きはまるで中に詰まっている精を全部搾り取るかのようで、イギリスの容赦ない攻めにフランスが お前頑張りすぎだよ、 と苦笑混じりの声音で呟くのが聞こえた。
自分が与える刺激によって彼が感じているらしいということと、伏せた瞼から僅かに覗く青い瞳が快楽に揺れているのを見て、イギリス自身の熱も酷く煽られてしまう。
咥えていたものをひときわ強く吸い上げてやると、フランスは息を詰めてイギリスの口内に吐精した。
「……ぅ…っ…」
「ん、ぅ、…んん…っ」
喉の奥に注がれた白濁を飲み下し、ようやく口を離すと受け止めきれなかった雫が唇から顎へと伝い落ちる。
頬を上気させて濡れた口元を手の甲で拭うと、フランスのを舐めていただけですっかり張り詰めてしまった自分の熱を解放するべく、ベルトを外して下着ごとズボンをずり下げた。
彼の上に跨ったまま、イギリスは躊躇うことなく自らの手でそこを握ると、ゆるゆると擦り始める。
いきなり自分の上で自慰を始めたイギリスに、フランスは目を剥いて驚いた。
「え、なにしてんのお前?」
「……がまんできねえ」
フランスの問いに はぁ、と妙に熱の籠もった溜息を吐いたイギリスの目元は赤く染まっていた。
いつもフランスがしてくれる手の動きを真似て、指先で先端部分を捏ね回すように弄り、手のひらで扱く。
は、は、と短く息を吐いて、イギリスは彼の上に乗ったまま張り詰めた性器を擦り上げるのに夢中になった。
「なんで、…そーいうことしちゃうかな……」
下からその痴態を見上げていたフランスが浅く溜息を吐いて、少しだけ上体を起こした。
呆れたような響きを滲ませた言葉に、 俺だってもう限界なんだよ、お前に負担掛けないように自分でするくらいいいだろばか、 と心の中で呟くが、フランスの科白の意図はイギリスが思っていたのとはまるで逆だった。
フランスはとろりと先走りを零しているイギリスの性器を大きな手のひらで包み、握っていた手ごときつく擦り上げ始めたのだ。
「あっ、…ふぁ、っ……んん、…」
フランスの手で柔らかく握り込まれ、けれど下肢に直に触れているのは自分の手であることが、彼の手で自慰を強要されているようで恥ずかしくてならない。
硬く反り返ったそこは自らの手とフランスの手で、二重に刺激を与えられたことであっけなく上り詰めてしまい、身体を支えようとシーツについたイギリスの腕がぶるぶると震えた。
指の腹で尖端の括れを擽られ、溢れた白蜜を全体に塗り付けるように扱かれると、湿った音と二人分の乱れた呼吸音ばかりが室内に響く。
普段よりずっと熱いフランスの手が、耐え難い快感をイギリスの身体に植え付ける。
彼に触れられることは何をされても気持ちよくて、理性は砂糖菓子のように甘く溶けていく。
それからまもなく、押し寄せる快感の波に抗えず、イギリスは熱い吐息に紛れてフランス、と小さく名を呼び、彼の手中に精を放った。
「…きもちよかった?」
濡れた声音で問うフランスは薄く微笑み、そっと顔を近づけるとほんの少し触れ合うだけのキスをする。
目を閉じて啄むように何度も唇を重ねているうちに、今しがた達したばかりなのに再び身体の芯が熱を孕むのを感じた。
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