クリスマス・24・アワーズ/01


あと数分でクリスマスが終わろうかという日付変更間際、イギリスは長年の天敵であるフランスと向かい合っていた。
クリスマスという世界的にみても特別な日に、自分たちは一体何をやっているのだろう、と至極まっとうな考えも頭の隅にちらりと浮かんだが、イギリスは毎年アメリカに無理矢理呼ばれるクリスマスパーティ以外に予定などない。
何よりこの男に最終決戦などという名目で決闘を挑まれて、引けるわけもない。
それに例え決闘であっても、クリスマスに誰かと過ごすのは、そう悪いものではないと思える。
そもそもこんな日に決闘だなんて言い出すのだから、フランスも今年はイギリスと同じく一人寂しいクリスマスなのだろう。

対峙した彼と睨み合い、格闘ゲームだったら 「いざ勝負」 とかそんなかけ声がかかるであろうとき。
決闘の直前に、フランスの携帯に電話がかかってきた。
電話をかけてきたのは、仲の良いドイツと楽しいクリスマスを過ごしたらしいイタリアだ。
そのイタリアからの電話で何を言われたのか知らないが、電話を切るなりいきなりめそめそと泣き出したフランスに思わずイギリスも同調してしまい、寂しい者同士の和解は一瞬で成立した。
その後決闘モードから抜けたフランスはやたら上機嫌で、クリスマスディナーを作ってやるからうち来いよ、と誘われて、彼の作る美味しい料理につられるようにイギリスは久しぶりにフランスの自宅を訪れたのである。
いつもならわざわざ彼の家を訪ねたりはしないが、女に振られて多くの国に八つ当たりみたいなことをした挙げ句、最後には自分のところに来るなんて、こいつも大概寂しい奴だよな、と自分のことは思い切り棚に上げたイギリスはほんの僅かな優越感に浸り、今日ばかりはフランスに対して妙に寛容な気持ちになっていた。

「せっかくクリスマスだし、今日はフルコースにするか。たまにはお前にもいいもん食わせてやらないとなー」

「うるせえな、俺は自分とこの料理にもそれなりに満足してんだよ」

「そうやって貧しい舌だって自分からアピールすんのやめろよ……余計可哀想になるから。ま、いい子で座って待ってろよ、すぐ作ってくるから」

ぱちんとウインクしてみせたフランスは、裸の上からエプロンをつけキッチンに向かう。
その前に服を着ろよ、とは思ったが、そう突っ込もうにもイギリスも彼と大して変わらない格好をしている。
真冬だというのにお互いほぼ全裸に近い格好で表にいて、最終決戦だの決闘だのと、冷静になるとただの変質者だ。
ねこ耳で全裸のフランスと、首のリボンタイと短い丈のエプロン一枚のイギリスと、どちらがましかと考えるのは実に不毛である。
目くそ鼻くそ、五十歩百歩、とにかくどっちもどっちだ。
フランスと決闘する前に酒を飲んで酔っていたとはいえ、こんな姿で堂々と表にいたことが今さら恥ずかしくなって、キッチンにいるフランスに 「服借りるぞ」 と声を掛ける。
そのままでいいじゃん、とのんきな返事が返ってきたが、 「冗談じゃねえ、勝手に借りるからな」 と怒鳴りつけ、イギリスは彼の寝室に入り、チェストからシャツを取り出した。
綺麗に折りたたまれていたそれを羽織ると、身長は自分とさほど変わらないはずなのに、フランスのシャツは肩幅だとかが一回りくらい大きい。
そのことにちょっとだけイラッとしつつ、ズボンまで借りるべきなのか悩んだが、家の中は暖房がきいていたのでシャツ一枚でも寒くはない。
剥き出しの下肢はなんとなく心許ないような気もしたけれど、まぁいいか、とイギリスはフランスのベッドに腰掛ける。
今日はフルコースを作るらしいので、料理が出来上がるまではしばらく時間が掛かりそうだ。
イギリスとしては手伝いをするのはやぶさかではないが、フランスのことだから料理に関しては余計な手出しをされたくはないだろう(特にイギリスには)。

アメリカに呼ばれたパーティに参加したり、一人で飲み歩いたり、フランスに呼び出されたり、今日は少しだけ疲れた。
料理が出来るまでの間、身体を休めようと広いベッドにそのままころんと横になると、ふいに嗅ぎ慣れた匂いが鼻先を擽った。
シーツに染み付いた甘ったるい香水の移り香は普段彼がつけているもので、寝転がったベッドから香るフランスの匂いに心臓がどくんと跳ねる。
羽織ったシャツが直に肌に触れていることで、フランスの手で触れられる感触を思い出し、まるで彼に抱きしめられているような錯覚に陥って、かーっと頬が熱くなった。
イギリスがそんなふうに顔を赤くしてしまうのは、今やフランスとはただの腐れ縁だけの関係ではないからだ。
もう随分昔の話だが、一緒に飲みに行ってどろどろに泥酔した自分を、彼が自宅に連れ帰り介抱してくれたことがあった。
といっても、そんなのはいつものことで何も特別めずらしいことではなかったのだが、その日はフランスも酷く酔っていて、イギリスをベッドに寝かせると彼もその隣に潜り込んできた。
大人の男が狭いベッドで並んで寝たら嫌でも身体がくっついてしまい、酔っていたことも手伝ってか触れ合う肌の熱さにどうしようもなく身体が疼いて、イギリスは自分からしたいなどと口走ってしまったのだ。
しばらくしていなかったから、一言で言えばたまっていただけのことだが、なんでよりによってフランスにそんなことを言ってしまったのか、それを思い出すと今も羞恥で死にたくなる。
けれどそういう気持ちとは逆に、付き合いが長くて気心も知れたフランス相手だから言えた科白だとも思うし、実際彼と抱き合うことは悪くないどころか、今までしてきた行為はなんだったのかと思うくらい気持ち良かった。
日頃の変質者丸出しの彼の行いを長年見続けてきたイギリスは、きっとこいつは自分本位なセックスをするんだろうな、と勝手に想像していたのに、まったく正反対だった。

(……そういや最近してねえな…)

最後に彼としたのはいつだったろうか。
年末で忙しくて、それどころじゃなかった気がする、と自覚すると、内部を焦がすようなじりじりとした熱が下肢に溜まっていき、次第に自分でも持て余す疼きに変わっていく。
急激に身体が火照り始めて、イギリスは焦った。
ぎゅっと目を瞑って深呼吸を繰り返し、何とか身体と気分を落ち着けようとした。
ごろごろと寝返りを打って溜まった熱を誤魔化そうとしたが、ベッドの上を何度転がったところでどうにもなりはしないことくらい…、自分の身体だ、よくわかっている。
わかってはいるけれど、フランスの匂いを嗅いだだけでこの身体の反応はあまりにも情けない。
情けないと思うのに、むずむずと沸き上がるもどかしい熱はちっとも収まる気配がなく、それを発散させる方法なんて直に触れる以外に思いつかなかった。
トイレに行こうかと思ったが、一人でしている間にフランスが用を足したくなったら、何をしているのかばれてしまう。
シーツもシャツも汚さないように気をつけて、ここでさっさと一人で済ませてしまえば問題ないのではないだろうか。
正直この状態では、せっかくのフルコースの食事も味なんか楽しむ余裕もないし、そうと決まればもじもじと躊躇っている場合ではない。
仕方なくシャツの上から胸の辺りを撫でてみると、指先がすでに硬くなっていた乳首に触れて、その瞬間痺れるような快感が電流のように下半身に走った。

「…ん、…っ…」

たったこれだけの刺激でも一気に身体が熱くなって、僅かばかりに残っていた理性はあっという間に砕け散った。
片手で胸の突起を摘んで捏ね回しながら、空いた手を下肢に滑らせる。
身に付けていたエプロンの上から手のひらで撫でるようにして軽く握ると、それだけでじわじわと快感が広がって、ますます身体の芯に熱が溜まっていく。
握った熱をそのまま上下に擦ってみるとすぐに息が上がってしまい、荒くなった呼吸に混じって堪えきれない喘ぎが零れ落ちた。

「…あ、…ぁんっ…」

その自分の掠れた声にさえ感じてしまって、イギリスは固く目を瞑る。
こんなときにまで瞼の裏に浮かんだのは、嫌と言うほど見慣れた隣国であり恋人である男の顔だった。
何度も繰り返したフランスとの接触を思い出し、彼の指の温度……感触……触り方……それらを想像すると、全身が熱くなってもう止められない。
そんなことを考えながら夢中で指を動かすと、どんどん呼吸は乱れていき、鼻先を擦り付けたシーツから香るフランスの匂いに、余計に興奮してしまった。
触れているのは自分の指なのに本当にフランスにされているような気がして、その錯覚に意識を委ねたことで体内に燻る熱は一向に収まる気配がない。
布の上から触れるだけでは物足りなくなり、エプロンの下に手を入れて自分のものに直に触れる。
ただでさえ敏感になっていたそこは、僅かな刺激にも過剰なくらい反応を返した。

「…ぁ、あッ、…は……」

根元をきつく握って何度も先端に向かって擦ると、あまりの気持ちよさに声が抑えられなくなった。
手の中で質量を増していく自分自身の尖端に爪を立て、そこをぐりぐりと抉ると、トロリと先走りが溢れて指先とエプロンを濡らしていく。
零れた白濁のせいで湿った音が聞こえるのがたまらなく恥ずかしかったが、ここまできてやめることなんて出来るはずもなく、室内に響く水音にも構わず自慰を続けた。
彼がしてくれているなら、こういうときはいつもキスをしてくれる。
フランスの唇の熱や感触を求めるかのように、イギリスは無意識に羽織ったシャツの襟を軽く噛んでいた。
それからさらに強く先端を揉むように捏ねて擦り上げると、腰がひくひくと揺れもう限界が近い。

「ん、 …っ、んぅっ…!」

大きく身体を震わせながら、イギリスは達してしまった。
その直後に自分自身の先から白色の蜜が勢いよく噴き出し、先端を覆っていた手のひらを汚す。
口に含んでいたシャツは唾液を吸って少し湿っていて、指の隙間から溢れた精液がエプロンまでも濡らした。
達したあとの脱力感でイギリスの身体はベッドに沈み、乱れた呼吸を整えているうちに、フランスのことを考えて一人でしてしまったという事実に、恥ずかしいやら情けないやらなんとも言えない気持ちになる。
それなのに手のひらに飛び散った精は妙に熱くて、それが自分の身体から完全に熱が失せたわけではないことを知らせているような気がした。

(くそ……結局晩飯どころじゃねえよこれ……すげえやりてえ…)

この際食事は後でいいのにな、と思いながら、汗と白濁で汚れているのも気に留めず、イギリスは服もはだけたままベッドの上に横たわり、脱力した身体を休めていた。
フランスにされることを想像して自慰行為に耽ったばかりか、こんなにあっけなく達してしまうなんて一体どれだけたまっていたのかと呆れてしまう。
白く濡れた手のひらを眺めて溜息を吐き、シーツに顔を埋めて大きく息を吸い込むと、鼻孔をくすぐるフランスの匂いにほわんと心が安らぐようだった。
身体の熱が少し引くと、身を起こして汚れたエプロンを外そうと腰に巻いた紐に手を伸ばした、そのとき。

「おーいイギリスー、どこ行ったんだよ。着替え見つけられたのかー?」

部屋の外から突然フランスの声が聞こえたことに驚いて、弾かれたように顔を上げドアの方に目線を向けた。
まずい、と慌てて汚れた手をエプロンで拭う。

「料理が出来るまでもうちょっとかかりそうだからさー、先にスープ作ったんだけど食うだろ? …イギリスー? おーい…」

廊下から聞こえる声は徐々に近づいてくる。
まさかフランスが呼びに来るとは思わなかったので、部屋の鍵は掛けていなかった。
このまま部屋に閉じこもっていたら怪しまれる。
いっそのこと何事もなかったかのように出て行こうかとも思ったが、エプロンはべたべたに汚れているし、こんな格好で出られるわけがない。
どうしよう、と辺りを見回して、イギリスは咄嗟にベッドに潜り込み、頭から毛布を被った。

「イギリス…、いないのか?」

窺うような呼びかけのあと、部屋の扉が開かれる。
フランスは自分のベッドに小さな山が出来ているのを見て、首を傾げて室内に入ってきた。

「なにやってんだ、お前…?」

訝しげな声音で問うフランスを無視して、イギリスはぎゅ、とシャツを握り締める。
こうして毛布にくるまったのは、食事が出来上がるまで寝るとかなんとか言って誤魔化して、この場をやり過ごそうと考えたからだ。

「なんだよー、戻ってこないと思ったら、寝てんのか?」

「……………」

フランスはベッドに腰掛けて、イギリスが頭から被っている毛布を捲ろうとした。
……このとき、大人しく顔だけでも見せれば良かったのだ。
しかし何をしていたのか悟られたくないばかりに、毛布の中に全部隠しておきたいという意識が働いてしまった。
イギリスが中から毛布を掴んで捲られることを阻止すると、フランスが あれ、 と呟くのが聞こえた。

「なんだ起きてんじゃん。なぁ、スープ作ったけど飲むか?」

「…………あとでいい」

必要最低限の返事をして、布団の中で身体を丸める。
すると顔すら見せないイギリスを不審に思ったのか、フランスがぐいぐいと毛布を引っ張った。

「……おいお前なんか隠してんだろ?」

彼の問いにどきりとして、無意識に小さく肩が揺れる。
それはフランスの疑問を確信に変えるには十分な反応だったらしい。

「ちょっと布団から出ろよ、なに隠してんだ? お兄さんに言ってみな?」

「か、隠してねえよっ! ちょっと眠くなっただけだっ!」

「嘘吐け、だったらなんでそうやって布団の中に隠れてんだよ! 俺のベッドになんか罠でも仕掛けてんのか?!」

剥ぎ取られそうになる毛布を必死で引っ張って、しばらく取り合いが続いたが、当たり前の話だけれど寝転がっている状態では思うように力が入らない。
ベッドに足をかけて踏ん張り、思い切り両手に力を込めて引っ張られたら、これ以上イギリスが毛布を死守することはかなわなかった。

「…やめ、…あっ!」

毛布を取り上げられ、はだけた肌を隠す間もなくこちらを見下ろすフランスと目が合う。
急いでシャツの襟を合わせて胸元を隠すが、毛布の取り合いをしているうちに短いエプロンは捲れ上がっていたらしく、達したばかりの名残を残す下肢は剥き出しだった。





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