イングリッシュ・ローズ/05
ぐったりと力の抜けた身体を壁にもたれさせ、俺はみっともないくらい上がってしまった呼吸を整えようとゆっくり息を吐いた。
場所と手段はともかく、とりあえずはフランスの肌の熱を直に感じることが出来たけれど、今のような欲望に任せた勢いだけの行為では足りない。
一ヶ月ぶりなんだしもうちょっと……何つーか、やっぱりベッドでちゃんとやり…。
「イギリス…大丈夫かー?」
「わ! な、何でもねえ!」
いきなり声を掛けられて、俺は慌ててぼんやり頭に浮かんだ思考を振り払った。
フランスの表情を窺うように見上げると奴も俺と似たようなことを考えているのかどうか、その深青の双眸が何か言いたげに僅かに潤んで揺らめいている。
しかしフランスはすぐに目線を外し何も言わずに乱れた服をきちんと直すと、備え付けてあるティッシュで手際よく壁や床に飛び散った白濁を拭き取っていった。
(…あー…くそっ……何でこんなとこに連れ込んだんだ俺……二分も我慢すりゃ部屋なのに…)
…まぁその二分が我慢出来なかったからこうなったわけなんだが…。
これで終わりなのか、続きがあるのか……正直言ってあれだけでは物足りないし、まだ身体の芯に疼く熱を抱えたままだ。
俺はこの後のことでフランスの方から何か言ってくれるのを待っていたが(…さすがにこれ以上俺から言えるほど開き直れてはいない)、奴は後始末を終えると 「じゃあ出よっか」 と短く言っただけ。
「……出てどうすんだよ」
俺の望む言葉をくれないことに少しだけ苛立って、不機嫌丸出しな口調で問うと、フランスはいつものにやけた顔で答えた。
「どうって? いつまでもこんなとこにいてもしょーがねえだろ。お前も早く着替えろよ、手伝ってやろうか?」
「っ、いらねーよバカ」
やらしい手つきで俺のはだけたシャツを掴んだ奴の手を乱暴に払い、汚れた下肢を拭いて制服を着直す。
少し皺になったが制服が汚れてなくてほっとしたのもつかの間、さっさと個室から出て行ったフランスの後について、俺もトイレの外へ出た。
(…うー……気持ち悪ぃ……この馬鹿、思い切り中に出しやがって…)
数歩歩いただけで中に出された精液が内壁を伝っていき、気を抜くと零れてしまいそうになる感覚に顔を顰めながらフランスの後を追う。
俺を気遣っているのかいつもよりゆっくりとした歩調で、先を進む奴の背を眺めながら俺は黙ってついていく。
階段を上りすっかり人の気配の消えた廊下に二人分の足音が響いている。
フランスは俺の方を見ようともしないし、……こいつからこの後誘われるなんてないんじゃないか?
よく考えたらこいつは俺が口でしてやった分もあわせて二回出してるもんな。
でもそんなの俺の知ったことか!
元はと言えば一ヶ月も何もしないこいつが悪いんだ(二週間前のことはこの際棚に上げておく)。
しかしさっきのトイレから部屋までは二分あれば十分辿り着く距離だ。
妙案も浮かばないまま、部屋までの距離はどんどん詰まっていく。
(…ここの廊下曲がったらこいつの部屋に着いちまう……何か……何かないのか、こう、遠回りかつストレートな言い方は…!)
もやもやとした気持ちを抱え矛盾したことを考えながら歩いていたため、急にフランスが立ち止まったことに気付かず俺はその背中にドシン、とぶつかった。
何事かと見上げると、奴は相変わらず顔をこちらには向けずぼそぼそと何か言っている。
「おいフランス! 何だよ?」
良く聞き取れなくて問い返すと、フランスはようやく俺の方に振り向いてはっきりとこう言った。
「なあイギリス、この後俺の部屋に来ない? …一ヶ月分まとめて可愛がってやるからさ」
「……!!! うるせえよバカ! 誰が行くか髭全部むしるぞ変態!」
願ってもないフランスからの誘いだったというのに、可愛がってやるという奴の言い草に素直に頷くことが出来ず、つい本心とは逆の言葉が口をついて出てしまった。
咄嗟に出た言葉とはいえ、今さら撤回なんか出来るわけはない。
自尊心は高くあって然るべきだが、こういうときはやっかいなだけだ。
けれどその俺の返事にもフランスは柔らかな笑みを浮かべたまま、言葉を変えて再度声を掛けてくる。
「じゃあ毎日仕事頑張ってる副会長を労ってよ」
仕事すんのは当たり前だろうが、何でそれで俺がお前を労わなきゃなんねーんだよ、労ってほしいのはこっちの方だ。
……という本音が喉まで出かかったのをかろうじて飲み込むと、フランスは返事を待たずに俺の手を取り、少し歩調を早めて奴の部屋へ向かう。
「おい、…」
「なに? お前が労ってくんないなら、またしばらくストライキするかもよ?」
ストライキも何も、仕事さぼったらその分一気にツケが回ってくるのは身に染みただろうに、何言ってんだ。
そう思いながらも、さすがにここで見栄を張って拒否する科白を吐けば自分の首を絞めることになるとわかりきっているので、俺は掴まれた手をほんの少しだけ握り返して答える。
「…しょ…しょーがねえな……ちょっとだけだからな…」
「メルシー、真面目に仕事してるといいことあるもんだなー」
フランスは嬉しそうにニヨニヨ笑って部屋の鍵を開けると、俺を室内に引っ張り込んだ。
部屋に入るなりすぐさまベッドの上に倒され、奴の手のひらが頬を撫でて愛おしむようなキスが繰り返される。
こうして優しく触れられるのは嫌いじゃない。
でも今はそっと触れられただけで全身が熱くなってしまって、それだけでは物足りなくて余計苦しい。
自分ではどうすることも出来ない疼きを早くどうにかして欲しくて、俺は自らセーターを捲り上げ中のシャツの前を開きベルトを外す。
フランスの手を取って露出した肌に触れさせ、口内を舐める奴の舌先に軽く歯を立てた。
呼吸もままならなくなるくらいキスを繰り返し、やっと解放されたと思ったら、組み敷いた俺の身体をうつぶせに反転させられた。
ベッドに膝をつき腰だけを高く上げてフランスに向けるような格好になると、すぐに下肢に熱塊が押し付けられる。
「ふ、…フランス…」
奴の熱を直に感じたことで思わず名を呼ぶと、やけに甘えたような声が出てしまい、これから与えられる快感を待ち侘びるかのようにざわざわと全身の肌があわ立った。
身体の芯に燻る熱は俺の理性を溶かし、 早くしろ、 と普段なら絶対言わないようなことまで呟いていた。
フランスは俺のその言葉に小さく笑うと、入口に当てられていたものが後孔を広げてゆっくりと挿し入ってくる。
「ほら…後ろからなら少しは楽だろ?」
「ん、…うん、…」
フランスが腰を進めるたびに、トイレでの行為の名残が残ったままの俺の内壁はぬるりと滑り、さほど抵抗もなく先端を咥え込む。
軽く揺すりながら少しずつ馴染ませていき、完全にフランスのが体内に収まると間をおかずに激しく腰を打ち付けられて、俺は縋り付くようにシーツを強く握った。
互いの肌と肌がぶつかり合うたびにその衝撃で尻が震え、俺自身の尖端から滲み出た先走りがシーツに飛び散る。
その様を眺めていたフランスが、俺の腰を支えていた手で震える尻を鷲掴みにして何度も強く揉んだので、堪えきれずにベッドに付いた膝までがくがくと揺れ始めた。
掴まれた尻がフランスの指の形に合わせて歪み、繋がって開かれた箇所も指先で擽るようになぞられる。
「あっ、やだ、…そん、な、掴むな、…ばかぁっ」
「だって目の前にあったら触りたくなるでしょ」
背後から可笑しそうに笑う気配がして、肩越しに睨み付けるが滲んだ涙のせいで視界はぼやけ、ムカつくにやけたツラをしているであろう奴の表情をはっきり見ることは出来ない。
もうどこに触れられても身体は熱を溜め、文句を言おうにも口を開けば熱のこもった吐息を吐くのが精一杯だった。
この野郎いつも以上に好き勝手やりやがって、後で覚えとけよ畜生っ!
ふいにフランスが身を屈め奴の重みが背にのし掛かったかと思ったら、うなじに軽く歯を立てられる。
そのまま皮膚に吸い付かれ、ちり、と僅かな痛みが走り反射的に小さく肩を揺らすと、俺の中をぐちゃぐちゃに掻き回しながら奴の劣情に濡れた甘い声音が耳元に響いた。
「…お前さー…今日どーしたの? …もしかして前に俺としてから、自分でもしてないとか?」
「…、…っ……」
うるせえバカ余計なお世話だつまんねえこと聞いてねーで早くどうにかしろ、そう言ったつもりが俺の唇からは途切れ途切れの喘ぎが零れるばかりで、言葉にして答える余裕はとっくにない。
一ヶ月以上も放っておかれた身体は僅かな刺激にも必要以上に過敏に反応してしまって、自分の意志ではどうしようもなかった。
言葉で答える代わりに続きをねだるように視線を向けると、体内を出入りするフランスの熱はさらに勢いを増して、そのあまりに大きすぎる快感の波に俺の意識はすべて千切れてしまいそうになる。
限界まで張り詰めた俺自身の尖端からとろとろと粘液が滴り落ち、シーツを握る手は震えていた。
奥まで貫かれながら、俺の尻を掴んでいたフランスの手がするりと脇腹を辿って胸へと滑り、その指先が両の突起を軽く押し潰すように転がし摘み上げられる。
その瞬間、全身に電流が走ったみたいに俺の身体はびくん、と大きく跳ねた。
中に入れられたまま弄られると摘まれた乳首はすぐに硬くなってしまい、円を描くように捏ね回されてますます尖っていく。
「ァ…、んんっ……ふ、ぁっ…」
フランスは片方の指で乳首を擦り上げ、もう片方の手でどろどろになった俺自身を扱くのと同時に、捻り込まれた熱が最奥まで突き入れられた。
後ろから揺さ振られて、それを望んでいた身体はあっという間に昇り詰めてしまう。
中を擦り上げられる熱さに何も考えられなくなり、まるで発情した犬みたいにはぁはぁと荒い呼吸を零して、ただ奴から与えられる快感を享受する。
内部の襞が忙しなく収縮し、フランスのを締め上げる間隔が徐々に短くなっていくのが自分でもわかる。
これ以上はもう持たない、というところで、突然中を満たしていた熱が一気に後孔から引き抜かれた。
あと少しでいきそうだったのにこんな中途半端な状態で放り出され、俺はその意図が読めずに不安げな表情で首だけ曲げて振り向いた。
「…フランスっ…、な、んで、…」
「…久しぶりなのに、今日顔見てないなぁ、って思ってさ」
何だってあちこち弄られておかしくなってるみっともねえ顔を見せなきゃなんねーんだよ、この変態野郎!
……とは思うだけで、やっぱり口から出るのは乱れた呼吸だけなのがどうにももどかしい。
酷く熱を帯びた身体は決定的な刺激を待ち望んでいて、思考停止状態でろくに反論も出来ないくらい、俺の意識はそのことで占められていたのだ。
「お兄さんイギリスの可愛い顔見たいなぁ」
非難の色を浮かべて睨み付けていた俺の視線を柔らかく受け止め、フランスはいつものやらしい笑みを浮かべてそう言うと唇に軽く口付ける。
その柔らかな唇の感触で、ますます体内で疼く熱を持て余してしまい、俺は我慢出来ずに奴のその科白に頷いてしまった。
達しないままはぐらかされていた身体は苦しいほど昂ぶっていて、もう意地を張れるほどの気力も残っていない。
フランスの手を借り向き合うように身体の向きを変えると、正面から目が合った。
すると奴はにこ、と微笑って俺の両脚を左右に開き折り曲げると、膝の裏に腕を通し開かれた足を自分で押さえるように固定させられる。
自ら濡れた後孔を晒す格好を取らされ、その様子をじっと見ている奴の視線にいたたまれなくなった俺は思わず目を伏せた。
「…っ、み、るなよ、ばかっ」
「やだ」
この野郎、後で絶対ぶっ飛ばす。
蹴りでもくれてやろうかと思ったが、身体にも足にもろくに力が入らないのでとりあえずは後回しだ。
とにかく今はこの抑圧された熱を解放しないことには身動きが取れない。
顔が見たい、と言っていた通り、フランスは俺の表情をまるで観察でもするみたいに眺めながら、開かされた後孔にまだ硬度を保ったままの熱を押し当てた。
ついさっきまで奴を受け入れていたばかりの綻んだ後孔に再度少しずつ突き立てられ、中の肉襞は誘い込むように蠢き柔らかく包み込む。
フランスも余裕などないらしく、普段より性急に腰を進めると耳を覆いたくなるようないやらしい水音を立てて、すっかり潤っていたそこに滑るように根元まで収まってしまった。
蕩けきった熱い内壁が、フランス自身の形に合わせるかのように絡みつき、きつく締め付けてしまう。
それは身体の勝手な反応で俺の意志とは剥離したものだけれど、それによって奴がほんの少し眉間に皺を刻み小さく呻く声を漏らしたのが聞こえると、俺だけが快感に溺れているわけではないことを知る。
フランスは息を吐くとゆっくりと抽挿を開始し、抜けそうになるほど腰を引いた次の瞬間には一気に奥まで突き入れる。
「あッ! ん、……そこ、だめっ…! や、だ…」
最奥までねじ込まれたフランスの先端が俺の一番悦いところに当たり、ひときわ高い声が上がった。
びくびくと下肢が引き攣れるように震えて、自分でも身体をコントロール出来ない。
フランスに中を掻き回され、腹の中を焼く熱はじりじりと俺の理性を溶かしていき、奴の動きに合わせて自ら腰を動かすとベッドの軋む音がやけに耳についた。
肌も皮膚も、フランスが触れている箇所も全部、ほんの僅かな刺激にも過敏に反応してしまい、散々擦られた結合部は酷く熱くて麻痺したみたいに感覚がない。
敏感なところを的確に捉えて突いてくるフランスを絞るように締め上げながら、俺は呼吸を乱して限界を訴えた。
「フ、ランスっ…、俺、もう、…っ…」
「…ん、…いいよ、イって…」
抜き差しするたびに吸い付くように絡まる肉壁の締め付けを受けて、フランスの声は艶を帯び奴も終わりが近いらしいことがわかる。
唾液で濡れた唇を重ね合わせながら、繰り返される律動に意識を委ね久しぶりのフランスとの行為に全身の神経を集中させた。
ぐり、と身体の奥の深いところまで貫かれ、俺は自分の脚を押さえていた両腕をフランスの背に回し縋り付く。
「ん、んッ、…は、ぁ……、あッ…!」
内側から迫り上がってくる快感に堪えきれず、感じていることを隠せない掠れた声を上げて、互いの腹の間で擦れ張り詰めていた俺自身の尖端から多量の精を放ちあっけなく果てた。
それとほぼ同時にフランスも俺の中で達し、柔らかく蕩けて痙攣するように震えている肉壁に白濁を散らすと、その吐き出された粘液の熱さに俺はぶるぶると身体を震わせて脱力する。
フランスが体内から出て行っても、俺は達した後の余韻で動けず、だらしなく両脚を開いたままベッドの上に横たわっていた。
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