ミスキャスト/06
前回は一応撮影本番ということもあったから、そういう行動も理解できないこともないが、今日のはただの練習だ。
誰が咎めるわけでもないのだから、そこまで律儀にしなくてもいいのに、とフランシスは少し呆れたように言った。
「…あのさぁ、無理に飲まなくてもいいんだぜ? 練習なんだしさー」
「う…、うるさいばかっ、……練習でも手抜きすんのは嫌なだけだっ!」
アーサーは真っ赤に染まった顔を隠すように、首に緩く腕を回して正面から抱き付いてきた。
縋り付いてくる身体をベッドに倒すと、性急に下肢に手を差し入れ直に性器を握り込み、緩急を付けて擦ってやるとすぐにそこが熱を帯びていくのがわかる。
フランシスの酷く手慣れた巧みな指使いに彼の身体はあっさりと陥落し、下着の中で形を変えて布地を押し上げ始めているアーサー自身の尖端からは、もうぬめった蜜が滲み出し始めていた。
アーサーの身体は与えられる快感を素直に拾い、穿いたままの下着をはしたなく濡らしていく。
「ふぁ、…あっ、…あぅ…」
「ほら、ちゃんと台本通りに台詞言って。きもちよくなってるだけじゃ練習になんないだろ」
「っ…う…、"手で、擦って…きもちよくして、下さい、…っ"」
促されるまま、以前と同じように台本通りの台詞を口にしたアーサーに、フランシスも煽られ気分が高揚した。
その言葉は台本に書いてあるだけの台詞で、アーサーの望みではない。
それでもフランシスは彼が口にした台詞のとおりのことをしてやろうと、濡れた下着を引き下ろして、トロトロと先走りを零しながら反り返っているアーサー自身を剥き出しにし、手のひらでそっと包み込んだ。
そのまま根元を手荒く擦り上げ、膨らんだ先端は指の腹で優しく捏ね回してやる。
尖端の薄い割れ目を指先で円を描くように擽るのと同時に、芯が通った根元を手のひらで擦り上げる速度も早めていった。
「"手で擦るだけでいいの? して欲しいことがあるなら、ちゃんと口に出して言って"」
台本通りの台詞を返してやると、彼は誘っているかのような蕩けた瞳でフランシスを見上げる。
頬やこめかみにキスをして耳たぶに軽く歯を立てると、ひくひくと細かく震える腰が揺れ、手中のアーサーの熱はますます硬く張り詰めていった。
すっかり屹立して腹につくほど反り返ったそれを大きな手のひらで弄び、尖端を愛撫する指先が溢れ出したぬるりとした先走りで濡れた。
フランシスの手の動きに翻弄される彼の身体は、先日の撮影ごっこのときとはまるで反応が違う。
すでに限界まで張り詰めていたアーサーの性器も、ひっきりなしに蜜を零しフランシスの手を濡らしていく。
「…あ、…ん、んっ…"も、…もっと、乱暴に、して…い、いかせて、下さい…"」
荒い呼吸の合間に答えたアーサーの下腹はヒクヒクと痙攣し、懇願する声には甘い色が滲んでいた。
その様子に、 ああもう、 とフランシスは小さく息を吐く。
どこまでも必死なアーサーを見て、なんというか呆れを通り越して、しょうがねえなぁ、という気持ちになってしまったのだ。
「いつもそれくらい素直だったらいいのに…、お前ってほんと意地っ張りだよなぁ」
フランシスは彼の耳元に唇を寄せ、普段通りの優しい口調で意地悪く囁くと、熱い吐息が過敏になった皮膚を擽ったことで堪えきれなくなったのか、ぎゅう、とシーツを掴む手に力を込める。
握った彼の性器をひときわ強く擦り上げ、蜜を零し続けていた尖端の小さな穴を爪でかり、と引っ掻いた途端、びくん、と全身が跳ねた。
「あ、だめ、…い、いく、もうッ……、ぁあ…!」
アーサーの背が反って硬直し、甘ったるい声を上げてあっけなく達すると、吐精した白濁が腹部や足に飛び散る。
直後、シーツから僅かに背を浮かせていた彼の身体は脱力し、ぎし、とスプリングを軋ませてベッドに沈んだ。
アーサーは何度も深呼吸を繰り返したあと、まだ達した後の余韻に震える脚を抱え上げ、隠すもののない濡れた下肢がフランシスの目の前に晒される。
そして自らの手で尻肉を掴み、指で後孔を広げると羞恥に表情を歪めながら、ねだるように蕩けた声音で言った。
「"こ、…ここに入れて、思い切り擦って、……な、中に、いっぱい…出して下さい…"」
「……、………」
フランシスは思わず息を飲んで目線を逸らした。
いくら台本通りの台詞とはいえ、あの口も悪く暴力的なアーサーがこんないやらしい痴態を見せてくれるとは思わなかった。
本来なら絶対口にしないであろう言葉で誘われるのは、直接下肢にくるものがある。
しかしフランシスは最初から撮影やその練習なんかでアーサーを抱くつもりはなかった。
撮影のときに上手く出来なかったことで、やっと諦めてくれたと思ったのにまったく懲りていなかったばかりか、自分の知らないところでギルベルトと次の撮影の約束を取り付けて練習したいだとか、理由も言わずに勝手なことばかりするアーサーに振り回されて苛立ったのは事実である。
真面目に相手をするのも馬鹿らしくなって、彼の望むとおりに練習に付き合ってやろうとは思ったけれど、アーサーのことが好きだから、感情の伴わない行為なんてしたくないのだ。
うっすらと滲んだ汗で額に張り付いた前髪を掻き分け額にキスをすると、彼は驚いたように薄緑色の瞳を見開いてこちらを見上げてくる。
一度達したことで快感に蕩けていた双眸を見返すと、アーサーは羞恥のためか目を伏せ、自らの尻を掴んでいる指は少しだけ震えている。
そんな様子を見ると、なぜここまでしてビデオに出たがるのか、理由を聞かないままではいられなかった。
口では理由なんかどうでもいいと言ったけれど、話したくないことなら無理に聞き出す必要はないと思っていたし、教えてくれる気もないらしいアーサーに合わせただけで、内心ではちゃんと話して欲しいと思っていた。
とはいえ、当然無理矢理聞き出す権利などフランシスにはない。
それはわかっているが、彼がビデオに出ることを本当は望んでいないのだろうということは明白で、その本心を押し隠している姿を見ていると、理由を聞かないことにはこれ以上練習にも嘘の撮影にも付き合ってやる気にはなれなかった。
しかし意地っ張りで頑固なところがあるアーサーが、今さら話してくれるとも思えない。
どうしたもんかな、と小さく嘆息して少しだけ身を起こすと、ベッドにうつぶせになり頬杖をついて彼にじっと目線を向ける。
「…おい、……続きは…?」
台本通りとはいえとてつもなく恥ずかしい台詞を言ったのに、フランシスが何の反応もしないことに焦れたのか、先に言葉を発したのはアーサーだった。
先の行為を促した彼の頬は目元まで真っ赤に染まっていて、広げられた後孔は「続き」を待ち望んでいるかのようにひくり、と僅かに収縮している。
それにしてもエロい格好してるなぁ、と本能に従ってこのままいただいてしまいたい気持ちも芽生えたが、 いやそれは駄目だろ、ダメ、絶対…! と理性を総動員させてその芽を踏み潰した。
とにかく聞いてみないことには話は進まない。
逆ギレされようがなんだろうが、今回ばかりは引かないつもりでフランシスはようやく口を開いた。
「…練習はちょっと置いといて真面目に聞きたいんだけど、……アーサーさぁ、ホントにいいの? ビデオに出るとかその練習とかで俺とこんなことして…。そろそろどういうつもりか教えてくれてもいいんじゃねえの」
「…、…俺はいいって言ってんだろっ、フランシス…、お前いい加減しつこいぞ! 何回聞かれたって言わねえよ、…その、俺の個人的な理由で、お前には全然関係ないんだからな!」
「関係ないことないだろ。そりゃあ俺はお前から見たら、いろんな奴と広く浅く付き合ったりとか、AVのバイトしたりとか随分だらしねえことしてるように見えるかもしれないけど、好きじゃない奴とは出来ないししないよ? 一応性格が好みだとか顔が好みだとか仕草が好みだとか、そーいう最低限の基準はあるからさ。でもお前はそうじゃないよなぁ。ただビデオに出るために、お互い触り合ったこともあって慣れてる俺を相手に選んだだけで、……アーサーは自分の都合ばっかり考えてて、俺の気持ちを無視してる」
本心を混ぜたフランシスの言葉に、アーサーの表情が変わった。
それを見て ああ、なんだ、 と胸に燻っていたもやもやとしたものがすぅっと晴れていくのを感じた。
アーサーの考えを聞き出すことばかり考えていたけれど、その心の内を聞き出すにはフランシス自身も彼に対して本音を見せなければならなかったのかもしれない。
自分の想いは伝えずに相手の本心だけを知ろうなんて、まったくフェアじゃないよな、とこんな簡単なことにすら気が付かなかったことに苦笑いが零れる。
ここまできたらもう自分の気持ちをはっきり伝えてみるのもいいかなぁ、と思えて、フランシスは上体を起こして彼と向かい合った。
「バイトのためって理由でアーサーとこんなことするの、俺はいやなんだけど」
「…、そ、そんなに俺とすんのが嫌なのかよっ!」
悔しそうに表情を歪めて唇を噛んだアーサーの眦に、ぷくりと涙の粒が浮かぶ。
みっともない姿を晒した挙げ句にいやだなどと言われて、恥を掻かされたとでも思っているのだろうか。
フランシスはそっと彼の手を取って優しく握った。
「お前人の話聞いてんの? バイトとか、そういうのではしたくないって言ってんの」
「…なん、で…」
「アーサーとちゃんと付き合いたいから」
その科白に、握ったアーサーの手がびく、と震え、涙の被膜で潤んだ瞳を丸くして、フランシスを見返す。
何度も頭の中で今の言葉を反芻させているのか、あちこちに目線を彷徨わせたり俯いたりしていて、返事が返ってくるまでに随分時間が掛かった。
けれども結局フランシスの意図を計りかねたようで、首を傾げて問い返す。
「…………はぁ? つ…付き合う…? って…?」
「仕事だからするんじゃなくて、好きだから恋人としてしたいって話」
「す…、す、すきってなんだよ、誰が?! 誰を?!」
「俺がアーサーを」
突然の告白に、アーサーは混乱した様子で質問ばかり返してくる。
最後にはっきり結論を言ってやると、フランシスが自分のことをそんなふうに思っていたなんて想像もしていなかったのだろう、みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていった。
その様がどうしようもなくかわいくて、なんだか可笑しかった。
まだ言うつもりはなかったけれど、今は自分の気持ちをちゃんと知っていて欲しいと思う。
改めて握った手を固く握り締め、空いている手で頬を撫でて目線を合わせると、もう一度意識して作った甘い声音で想いを告げた。
「…アーサーが好きだよ。ずっと前からお前と付き合いたいなぁって思ってた」
「……お前、俺が好きだったのか…?」
そうだと言っているのに、よほど信じられないのか彼は繰り返し問う。
赤くなった頬を見る限りではまったくの脈なしではなさそうで、フランシスは少しだけほっとした。
「ん? うん」
によ、と笑って答えた直後、脳天にアーサーの拳が情け容赦なく振り下ろされ、顔がベッドマットにめり込むかと思うほど思い切り叩き付けられた。
一瞬でも脈があるのかもしれないなどと思ったのは、勘違いだったのだろうか。
その一瞬の間に じ、実は俺もお前のことが… とか、そんなかわいい科白が返ってくるかもしれない、そうしたらアーサーの身体を抱き締めて薄く開いた唇にキスしたいなぁ、などと都合のいい考えが頭の中を巡ったが、まさかシーツとキスすることになるとは思わなかった。
というか、告白したのにこの仕打ちはなんなのだ。
振られたにしてもあんまりである。
「いってーな……何すんだよ!」
「そ、そういうことはもっと早く言えばかぁ!! そしたら俺だってこんな恥ずかしいことしなかったのに…!」
「…え?」
なんとも意味ありげな科白が彼の口から飛び出した。
もっと早く言え、という言葉から察するに、少なくともフランシスの告白を拒否してはいないし、どちらかというと肯定的な答えではないかと思える。
これは今の発言の真意をきちんと聞き出す必要があるだろう。
フランシスは殴られた頭をさすりながら身を起こし、顔から足の先まで真っ赤になっているアーサーに顔を近付けた。
すると彼が逃げるように身を引いたことで、バランスを崩して後ろにぐらりと傾いた身体をそのままベッドに倒して問う。
「今のどういう意味? 俺がアーサーのことを好きだって知ってたら、AVには出なかったってこと?」
「…そうだよ。好きだったら、わざわざそんなビデオに出なくても、…普通にするだろ」
目線を逸らして答えたアーサーの言葉に、フランシスは首を傾げた。
確かに好き合っている者同士ならAVなんかに出なくても自然とそうなるだろうが、それならなぜこんな回りくどい方法を選んだのか、やっぱり彼の考えはいまいちよくわからない。
ともかく今の科白を聞く限りでは、彼がやたらにビデオに出たがっていたのは、フランシスとセックスしたかったから、という結論になる。
アーサーはエロ本も好きだし昼間から自慰に耽るのも日常茶飯事で、フランシスに触れられることも照れ隠しに軽く拒否することはあっても、本当に嫌がることはない。
彼が快感に弱い質なのだということは初めて相互自慰をしたときから知っていたが、実際そんなふうに触れ合う相手は今も昔もフランシス以外にいない。
他にもいたとしたら短い期間付き合った何人かの彼女くらいのもので、気持ちいいことが好きなわりには、目先の快楽を追って誰とでもそういう行為が出来る性格でもないのだ。
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