ミスキャスト/07
AVに出てまで自分と肌を重ねることを望んでいたということは、つまりはアーサーもフランシスのことを好きだということなのだろうか。
「それってさ、アーサーも俺のこと好きってこと?」
「ま、まぁ、そう言って差し支えない……かな…」
直球な問いに、アーサーは目線を逸らしたまま曖昧な返事をする。
yesというたったそれだけの短い言葉の方がよほど簡単なのに、なんでこう少し遠回しな面倒くさい言い方しか出来ないのかなぁ、とフランシスはおかしくなって小さく笑った。
「アーサーってほんっとバカ。AVに出るとかその練習とかそんなの口実にしなくても、お前こそ俺のこと好きだって言ってくれれば良かったのに。ってか、前に俺がしてもいいかって誘ったときは、即答で断ったよなー? なんでビデオは良くてそれはダメだったんだよ?」
「バカはお前だろ! それにお前は誰にだってそういうこと言ってんだろうが。だからその場の勢いで言ってるだけだと思ったし、……俺はそういうのは、やなんだよ」
言われてみればアーサーの弁はもっともである。
好きだと伝えることで彼を困らせたくなくて、まだ自分の気持ちを伝える気はなかったから、そのときは好きだからしたいなんて言わなかった。
もしアーサーが応じてくれたなら、それとなく好意を伝えてみるつもりでいたが、今までの関係を考えるとその可能性は低いように思われた。
それに何より、彼は例え気持ちのない相手からの告白でも、その気はないと簡単にあしらうことが出来ない性格だ。
振られたことをフランシスが気にしないと言っても、アーサーはきっと酷く気にするだろうし、もしかしたら自分のことを避けるようになるかもしれない。
そんなことになったら幼なじみとしての関係すらぎこちなくなって、これまでどおり一緒にいることも出来なくなったりしたら困る。
フランシスにとっては、振られることよりそっちの方が問題だった。
相互自慰の延長、にしては行き過ぎだが、それを言い訳に本当の気持ちを隠すことで、自分にもアーサーにも逃げ道を残しておきたかったのだ。
しかしそれでは触り合って、なんとなく盛り上がったから誘っただけだと思われるのも当たり前の話だ。
かと言ってAVに出ようという彼の考えは、フランシスにはまったく理解出来ないことに変わりはない。
その場の勢いで誘われるのも、AVに出るからするのも、互いの感情が伴わない行為であることに違いはないと思うし、むしろビデオに出ることの方が普通は敷居が高いのではないだろうか。
「いやそうかもしれないけど、…でも、だからってなんでビデオに出るって発想になるんだよ?」
「それは…、ビデオでやるのは仕事だから、他に理由なんかいらねーだろ。…仕事でするだけなんだから、お前との関係だって今までどおり変わらないけど、惰性でやっちまったらそうはいかねえよ」
「え…なんで」
素で問い返すフランシスに、アーサーは少し苛立ったように眉間に皺を寄せて答える。
「なんでじゃねえよバカ……、理由もなしにそのときの勢いだけでやったら、そんなのただの性欲処理と同じじゃねーか。一回そうなったら、あとはなし崩しにそれを繰り返すことになるし、………俺は、お前とは…そうなりたくねえ」
「じゃあ、…なんでもっと早く俺のこと好きだって言ってくれなかったの?」
「言えるかそんなこと! お前はいろんな奴と付き合ってる節操なしだからな、今さら俺が告白したってまともに取り合ってもらえるなんて思わねえよ…」
アーサーの言うとおり、愛は万人に与えるものだと都合のいいことを言って多くの相手と付き合ってはいるけれど、いつも傍にいて面倒を見たり世話を焼いたり、この先もずっと一緒にいてかわいがりたいと思うのはアーサーだけだ。
そのフランシスの本心を知らなかったからこそ、AVに出るだなんてとんでもないことを言い出したものらしい。
要するに仕事であるということが、彼が用意した言い訳かつ逃げ道というわけだ。
言われてみれば 仕事だから、 とそれ以上に正当な理由なんか他にはない。
なんともアーサーらしい考え方じゃないか、とフランシスは今になってようやく彼の意図を掴むことが出来た。
結局のところ、フランシスがあちこちにふらふらしていたから、アーサーは自分の気持ちを心の内にしまい込んでしまったのだ。
お互いに想いを向け合っていたのに、こんな遠回りをすることになったのは紛れもなく、彼の言葉通りフランシスの節操なしな行動のせいだろう。
「ああ、……ほんとに俺がバカだったんだ」
「今頃気付いたのかよ……、まぁ、気付いただけまだましだけどな!」
ふい、と顔を背けたアーサーの耳は真っ赤に染まっている。
赤い頬にそっと手のひらを添え、背けた顔をこちらに向けさせると正面から緑色の瞳を覗き込んだ。
これまでのフランシスの問い一つ一つに、アーサーは意外なほど素直に答えをくれた。
普段の彼ならここまで正直に自分の気持ちをさらけ出すことはしない。
フランシスの恋情が自分に向けられていたのだと知って、安堵のためか気が緩んでいるのかもしれなかった。
アーサーが抱いていた本音も感情も、今なら聞けば全部教えてくれるんじゃないかと思える。
こんな機会はそうそうあるものではない、フランシスは彼の頬を包んでいた手で髪を撫で深い皺の刻まれた眉間にキスをすると、ニヨニヨとした笑みを堪えきれずに問う。
「なぁ、もう一つ聞いていい? アーサーがAVに出ようと思った理由はわかったけど、…あのさー…、お前そんなに俺としたかったの?」
「っ…うるせーなっ! 悪いのかよ?! いつも触り合ってるとき、お前がやらしい触り方するから、…我慢出来なくなったんだよ!」
アーサーは首筋まで紅色に染めて声を荒げ、さらに続けた。
「…でも他の奴らみたいに、お前が飽きたら終わっちまうような身体だけの関係なんか興味ねえしな。……でも一回でいいからどうにかならねえかって思ってたときに、お前にバイトの話をされたんだ。冗談で俺のこと誘ってんのはわかってたけど、仕事だったら……一回きりで後腐れなく済むと思ったから」
冗談でバイトに誘ったことを、彼は初めから知っていたらしい。
まさか自分が仕組んだ撮影ごっこのこともばれていたんじゃ、と一瞬で全身に冷や汗が噴き出し、恐る恐る瞼を伏せたアーサーの表情を窺うが、罵る言葉が出てこないところを見るとさすがにそこまでは気付いていないようだ。
彼はそのフランシスの誘いを冗談だとわかっていたから、その場では拒否する言葉を口にしたが、よく考えれば二人の関係を壊さずに一度だけでいいというアーサーの望みをどちらも叶えるものだ。
けれどいくら口実にするには都合のいい誘いとはいえ、多くの人が目にするAVに出ることには相当な葛藤があったのだろう、だからこそビデオに出たいと言い出すまでに二週間も空いたのだ。
どうせ気持ちが伝わることなんてないと思った彼は、AVなんかに出てまでも、ただフランシスと抱き合いたくて仕方なかったらしい。
そこまでアーサーが自分を好きでいてくれたなら、きっとフランシスへの彼の想いは本物だ。
こんなことならもっと早く好きって言えば良かったなぁ、と思うときゅうっと胸が締め付けられ、組み敷いたアーサーの身体を抱き締めた。
「とりあえず…さっきの続きしていい? 思い切り擦って中にいっぱい出して欲しいんだろ?」
「それは台本に書いてあったから言っただけだばかっ!!」
「えー、でもして欲しいんだろ? この先は練習とかバイトとか関係なく、俺がアーサーとしたいからするんだけど、…いい?」
「…ぅ…、勝手にしろ! もう台本は関係ねーから、あんな恥ずかしい台詞言わねえからな!」
アーサーは早口でそう言って、フランシスの首に腕を回すと唇を重ねた。
触れ合った唇はすぐに離れてしまったが、彼がキスをしてくれたことに少し驚いた。
台本の台詞じゃなければ絶対に言わないようなことを口にするアーサーはかわいかったけれど、せっかく気持ちが通じて初めて抱き合うのに、演技の言葉なんて聞きたくない。
揺れる緑色の瞳を見つめ返し、今度はフランシスの方からキスをする。
彼が自分にしたような触れるだけの軽いものとは違い、唇の感触をしっかりと味わうような濃厚な口付け。
これまで数え切れないくらい互いの肌に触れ合ったのに、アーサーとキスをしたのはこれが初めてで、唇から伝わる甘い熱に眩暈がしそうだ。
そのまま深く重ね合わせると、すぐに応えるように閉じていた唇が少しだけ開かれた。
その僅かに開いた隙間から舌を差し込み、ゆっくりと丁寧に口内を舐めて粘膜を擽っていく。
「…んん…っ」
舌先を突ついて軽く吸ってやると、彼の喉の奥からくぐもった声が零れた。
息苦しいのか左右に揺れて安定しない顎を押さえ、何度も何度も唇を重ねて触れ合う感触を楽しみながら、アーサーには口腔から微弱な快感を与えていく。
息継ぎの間も与えないほど散々貪った後、しっとりと厚みを増した唇を解放し次に首筋に吸い付きながら裸の胸に指を滑らせると、平らな肌を手のひらで撫でて、硬く勃ち上がり小さく主張していた両方の突起を指先で押し潰しくるくると捏ね回す。
しつこく弄ってさらに硬くなったそれを摘み上げると、乱れ始めた呼吸に混じって息を詰めたような、小さな悲鳴に似た喘ぎが聞こえた。
そんなに力を入れたつもりはなかったが、あまり人の手が触れない敏感な場所だけに、少し強く摘んだだけでも痛みを感じたのかもしれない。
強くしすぎたかな、と摘んだ指先から力を抜くと、目を伏せたアーサーの唇は何か言いたげに戦慄き、僅かに身じろぎする。
「……アーサー? 痛かった?」
問いかけるとアーサーは首を左右に振って、フランシスの手の上にそっと自分の手を重ねた。
反射的に過剰な反応をしてしまったのは、痛いからではなかったのか、重ねられた手のひらは酷く熱い。
それは 続けろ、 というアーサーなりの無言の意思表示らしい。
早くも言葉にするのもままならないのか、彼のそんな可愛らしい行動に自然と笑みが浮かんでしまう。
フランシスは上体を起こすと、裾を捲られただけでまだ身に付けたままだったセーターとシャツを脱がせてやり、アーサーの身体を覆うものすべてを取り払った。
すっかり裸になったアーサーの全身を、目に焼き付けるようにじっと眺めていると、見られていることによる羞恥のせいか肌はほんのり赤く色づいていく。
「フランシス、…お前…そんなやらしい目つきでじろじろ見んな…、初めて見るわけでもあるまいし…」
その無遠慮な視線に耐えかねたのか、アーサーは耳まで赤く染めて中心を隠すように膝を立てる。
確かに彼の裸体を見る機会は、保育園の頃から数えればそれこそ数え切れないほどあったが、今までは必要以上に見ていたら容赦ない蹴りや拳が飛んできていたので、殴られずにじっくり見たのはこれが初めてだ。
しかしアーサーが言うようなやらしい目つきをしていた自覚はないだけに、もはや自分自身の欲望が隠しきれていないことに苦笑して、フランシスは彼の身体から視線を外す。
「アーサー………脚」
立てられた膝に手を掛けるとほんの少し抵抗があったが、膝の上に触れるだけの口付けを落とすと、それ以上逆らうことなく力は抜けてあっさりと両脚が開かれた。
緩く勃ち上がりかけていたアーサー自身にはまだ触れず、フランシスの唇は膝から内腿へと辿っていき、所々痕を残さないよう肌に軽く吸い付いた。
そのたびにひくり、と腰から下が震えて、喘ぎを堪えるようなアーサーの荒い息遣いが室内に響く。
フランシスの舌と唇は徐々に移動し、脚の付け根まで舐めて歯を立てる頃には、今まで一度も直に触れていなかったにもかかわらず、アーサーの性器はすっかり硬く反り返り小さく揺れていた。
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