ミスキャスト/08
なかなか中心に触れようとしないフランシスに焦れたのか、アーサーは自らの下肢に手を伸ばしたが、その手を優しく掴んで指先に口付ける。
「俺がするから、アーサーは身体の力を抜いて楽にしてて」
「ぁ…フランシス、っ…」
物足りないばかりの緩やかな愛撫に痺れを切らしたのか、蕩けた瞳でフランシスを見上げ先の行為を強請るように、切羽詰まった声音で名を呼んだ。
フランシスはただ、アーサーの全身に余すところなく自分の手で触れ、彼の身体のどこがどういう反応を示すのかまですべてを知りたいと思っただけなのだが、アーサーにはわざと焦らしていると感じられたらしい。
アーサーの肌の感触や体温を己の手のひらに覚えさせたいし、彼にも自分の手の熱と感触を覚えて欲しい。
これからすることはこれまでの相互自慰とは違うのだ、いくら初めてと言ってもこれくらいで根を上げてもらっては困る。
「…お兄さんがどんなにアーサーのことを好きで、大切に想ってるのか、…お前全然知らないだろ? 今からそんな声上げて、最後まで持つのか?」
からかうのではなく真剣な口調で問うと、アーサーは乱れた呼吸を吐いて答える。
「っ…、こ、これくらい大丈夫に決まってんだろっ! …お前の好きなように、やってみろよ…」
そんな余裕などないくせに、挑発する科白は相変わらず強気な彼らしいものだった。
(…そうは言っても……持たないだろうなぁ、これじゃ)
彼の反応に小さく微笑うと、発熱したように熱くなった肌を撫でる。
アーサーを好きだと思う気持ちは以前から変わらないけれど、こんなに深いものだっただろうか、とじわりと胸に広がる想いに少し不思議な感じがした。
今まで付き合ってきた相手に言うみたいに言葉でその想いを伝えようと思っても、どんな科白もアーサーへの愛情を示すには足りない気がして、いつもは誰かを口説くときには滑らかな口なのに今回ばかりはらしくなく何も言えなかった。
言葉に出来ない代わりに少しでもその想いをアーサーの身体に刻みつけようと、ゆっくりと時間を掛けて進めていくつもりだったが、彼の方がそれについてこられないなら意味がないのだ。
何より目の前の身体は、これ以上焦らされることに耐えられないとばかりに小さく震えていて、フランシスを見つめるアーサーの双眸は劣情に濡れ、早くどうにかして欲しいと素直な気持ちを訴えていた。
アーサーと抱き合うことは、なにもこれが最初で最後になるわけではない。
初めてなのだから今日は彼のペースに合わせ、自分自身の感情よりもアーサーの望む通りにしてやることを選んだ。
フランシスは少し身体をずらし、張り詰めた性器の尖端を舌でそっと舐める。
舌先が触れた途端、アーサーの腰が小さく跳ね内腿が強張ったので、開いた脚を閉じられないように太腿を手で押さえると、全体を丁寧に舐めところどころに軽く吸い付いた。
「ん、…く……、ふぁっ、ぁ、…」
先の射精口を歯と舌先で優しく抉り、浅い割れ目をなぞって括れたところを甘噛みすると、ひくひくと腰が揺れ押さえた両脚が細かく震える。
フランシスに咥えられ良いように弄られて、アーサーはあまりの気持ちよさに掠れた声で喘ぐのを抑えることすら出来ないらしく、吐息混じりのかわいい鳴き声を上げた。
まだ達してもいないのに、壊れた蛇口のようにトロトロと蜜を滴らせる先端を口に含み、零れる精を舌先で舐め取ると、びくん、とアーサーの腰が揺れた。
そうして組み敷いた身体に直に刺激を与えるたび、こうも素直な反応が返ってくるのだからたまらない、と思う。
フランシスはアーサーの太腿を押さえていた手をずらし、汗ばんで僅かに湿った茂みを掻き分けて、指先だけで根元をなぞるようにゆるゆると擦り上げる。
柔らかな舌とは違う指先の感触に身を震わせ、アーサーは閉じていた瞼を薄く開いて下半身に目線を向けた。
口だけでアーサー自身を弄っていたフランシスが、根元に手を添えて指でも刺激を与え始めた様が視界に入るのが恥ずかしいのか、もぞもぞと身を揺する。
先端を舌で嬲って根元を手のひらで包み力強く扱くと、行き場なくシーツを彷徨っていたアーサーの手が下肢に顔を埋めたフランシスの髪に絡んで、組み敷いた身体はさらに熱を帯び一気に昂ぶっていった。
快感の波に呑まれ、焦点を失いかけている緑色の瞳と視線が交わると、フランシスの歯止めはますますきかなくなる。
ずっとこんなふうに触れてみたいと思っていたのだから、理性がまともに働かなくなるのも当たり前だ。
アーサーの気持ちを知る前は、劣情に濡れた彼の表情がこんなふうに変わるなんて知らなかった。
幼い頃から多くの時間をアーサーとともに過ごして来たが、こんなにも彼の存在を近くに感じたこともない。
それは身体が触れ合ってくっついているから近いということではなく、身体だけじゃなくもっと深い部分が触れ合っているような気がするのだ。
そんなことを考えながらもフランシスが舌と指を休めず愛撫を続けると、感じるところを熟知しているその動きに耐えかねたようにアーサーの呼吸が乱れる。
「あっ、ぁあ…、だめ、もうッ…」
次々与えられる強い快感に、アーサーのものとは思えないような甘ったるい声が出た。
彼にもそれは自覚があったらしく、声を出すまいと何とか歯を食いしばろうとしたが、構わずに先端の括れを舌先で抉り、溢れる白濁を思い切り吸い上げた。
その直後、アーサーは我慢する余裕もなくあっけなく達してしまい、フランシスの口内に精を放つ。
無理矢理閉じようとした唇は絶頂を迎えたことで耐えきれずに開いて、変に裏返った嬌声が口をついて出てしまい、アーサーは両腕で隠すように顔を覆った。
フランシスは快感の余韻に震える両脚を軽く押さえて、口の中に吐き出された精液をそのまま飲み下すと、顔を覆っている彼の腕をやんわりと解く。
力の抜けた身体をシーツに沈ませ、ぐったりと横たわっているアーサーの唇を軽く吸ってやると、彼はフランシスの口内に残る自分の精液の味に眉を顰めた。
荒い呼吸を紡ぐアーサーを見下ろすと、達したばかりのその表情は頬を上気させ、全身にはうっすらと汗を滲ませている。
互いの唾液で濡れた唇には艶があり、ほんの少しだけ涙で潤んだ瞳はこちらに向けられていた。
アーサーの身体を労るように髪や肌を優しく撫でながら、啄むような口付けを唇や頬、額に何度も繰り返し彼の呼吸が整うのを待った。
その穏やかな動作とは正反対に、アーサーが自分の手によって快感を得て達したのだと思うと、こんなことはこれが初めてではないというのにどうしようもなく身体の芯が疼いて、彼が乱れる様をもっと見てみたいという浅ましい願望に意識が染まっていく。
「…アーサー……大丈夫?」
昂ぶる感情を抑え、出来るだけ普段通りの落ち着きを保った声音で問うと、あっさりいかされたことが悔しかったのか、アーサーは不機嫌そうな顔をして目線を逸らし溜息に似た大きな息を吐いた。
ふいにアーサーの片腕が伸びてきて、頭を緩く抱えられ引き寄せられると、もう片方の手でフランシスのシャツを脱がせ始めた。
彼は腕に抱いたフランシスの髪を弄びながら、直に伝わる肌の感触と体温に表情を緩ませて、首筋や鎖骨、胸元に唇で触れてくる。
「…アーサー」
羽根が触れるような微かな感覚がくすぐったくて声を掛けると、咎めるつもりではなかったのだがアーサーは少しだけ唇を尖らせてフランシスの耳元で囁く。
「俺にも……触らせろ」
それだけ言って肩口に顔を埋めたまま、フランシスの下肢に手を滑らせ先ほど口に咥えた熱塊に指を絡め、軽く握ってそっと上下に擦り上げ始めた。
いつもより遠慮がちで控えめな動きだったが、彼の手で触れられているという事実だけで、フランシスには十分なほど体内に燻る熱を煽られた。
アーサーのしたいようにさせてやりながら、閉じかけていた彼の両脚を開き、腰の下に腕を通して尻を浮かせてやる。
フランシスの指が双丘の割れ目を辿り、奥まった入口に触れるとアーサーの身体が跳ね、耳元を擽る吐息も熱を帯びて弾む。
「フランシス、…そこはっ…」
「そのまま……大人しくしてて」
僅かに身を竦ませたアーサーの右の瞼に口付けて、後孔に当てた指を静かに中へと埋めていった。
ついさっき零した白濁で入口辺りの皮膚はぬるぬると滑り、それを潤滑剤代わりにしてきつく締め付けてくる内壁を傷つけないように、中を広げていく。
指を奥に進めていくにつれて、フランシス自身を握るアーサーの手にも力が入った。
「っ、…アーサー…、少し手、緩めて…」
「…ん、……」
ぎり、と強く握られた痛みに顔を歪めてそう言うと、彼は短く息を吐いて頷き言われるままに手を放す。
強く握ったのはわざとではなく、異物が体内に挿し込まれる苦痛を堪えようと、思わず力が入ってしまったものらしい。
「アーサー…、辛いなら俺にしがみついていいよ。ほら、背中に腕回して」
「これくらい、何でも、ねえよっ…!」
途切れ途切れに答えたアーサーは鋭い視線を向けるが、無意識なのかどうか、彼の両腕は縋るようにフランシスの背に回された。
身を委ねてくる痩躯を強く抱き返し、唇に柔らかく口付けながらゆっくりと指の抜き差しを続ける。
丹念に中を掻き回されたことで、ようやくほんの少し弛んだ入口に二本目の指を突き立てると、その分増した圧迫感にアーサーは苦しげに眉を寄せ小さく呻く。
慣れない行為で負担を強いているのはわかっているけれど、全身を灼き焦がす苦しいほどの疼きを止めることは出来なかった。
肉壁を広げる感覚を馴染ませるために差し込んだ指を小刻みに動かすと、きつく収縮する内部の体温が酷く熱いのが伝わってくる。
蠢く柔肉を擦り、大きく指を回して中を広げていくと、体内を探っていくフランシスの指の刺激だけでまたもアーサー自身は頭を擡げ始めていた。
アーサーは辛そうに顔を歪めていたが、その反応を見ると後ろに突き立てられた指が出入りする感覚は、苦痛ばかりではないらしいことに安堵する。
そして僅かずつでも解れ始めた後孔に、三本目の指を宛い押し開いていった。
フランシスの硬い指が内壁を擦るたびに、むずむずとしたくすぐったいようなもどかしいようなおかしな感覚が下腹部に広がって、アーサーは堪えきれずに掠れた喘ぎ声を上げた。
「あ、ぅ………、いっ…」
「痛い? ごめんな、出来るだけゆっくりするから」
挿し込まれた三本の指をばらばらに動かして、中を掻き回し抜き差しを繰り返し、時間を掛けてアーサーの身体を丁寧に蕩かせていった。
やがてフランシスの指がすんなりと出入りするようになると、散々擦られて真っ赤に充血した後孔は小さく口を開いて収縮する。
入口が十分に柔らかくなったのを確認して、中に埋めていた指をすべて引き抜くと、アーサーはほっと息を吐いて汗で濡れた全身が脱力した。
フランシスはその湿った吐息を零す唇を塞ぎ、吸い上げたり食んだりしてその感触を堪能すると、鼻から抜けるような甘い声が漏れるのが聞こえる。
「んん、…はぁっ、…ぁ、……っ、苦しんだよ、バカ!」
何度口付けても足りないとばかりにキスを繰り返していると、アーサーに髪を掴まれ、無理矢理引き剥がされた。
容赦なく髪を引っ張られたことでフランシスが顔を顰めて頭を上げると、酸欠のせいか彼は頬を真っ赤に染め、はぁはぁと荒い息を吐いている。
フランシスが触れることでアーサーの身体は抑えようもなく熱くなり、彼自身も制御出来ずにその熱に翻弄されているというのに、次の行為を強請るように細い腰を揺らすのは、恐らく無自覚なのだろう。
そんな姿態を見せつけられてはフランシスの理性も灼き切れる寸前で、早くこの愛しい幼なじみと繋がりたくてたまらなかった。
アーサーの両脚を担ぎ上げ、両手で尻肉を掴んで左右に広げると、彼は一瞬息を詰めて縋り付いてくる。
「…お前の……挿れんのか…?」
確認するように問う声は、まるで舌足らずな幼い子供のようだった。
なんだか悪いことしてるみたい、と思ったが、それでもアーサーに自らの欲望を穿つことに今さら躊躇いなどない。
アーサーは同性相手とセックスするのは、本当にフランシスとのこれが初めてなのだと思うと、酷く気が昂揚した。
フランシスは彼のとろりとした双眸を覗き込み、薄く笑みを浮かべて言った。
「俺ね、…ずっとアーサーとこうしたいと思ってた。ほんとに……しても、いい?」
直球な問いにアーサーの瞳が悦びに揺らめく。
「…そんなの俺だって同じだっ、……今さらいちいち聞くな!」
「そうだよなぁ、アーサーは俺としたくて我慢出来なかったんだもんね」
緊張を解そうと思って口にした軽口だったが、アーサーは乱れた呼吸を吐きながら唇の端を持ち上げて微笑って答える。
「お前だって、…我慢してたんだろーが。エロい目で人のことじろじろ見てんじゃねーよ……バカ」
そこまであからさまに己の劣情を表に出してはいないつもりだったのに、図星を突いた予想外のその科白にフランシスは瞠目する。
今アーサーに自分の表情を観察する余裕があるとは思えないが、どんなに平静を装い取り繕ったところで、彼には些細な表情の変化すら見透かされていたらしい。
「本当に……お前にはかなわないなぁ」
フランシスはたまらず破顔し、汗で前髪の張り付いたアーサーの額に口付けた。
09→