SWEET for my SUITE/02
(注)フランス×イギリス(女体化)です。苦手な方はご注意下さい。
……三ヶ月前。
ああ、退屈だなぁ、とフランスは大きな欠伸をしながらソファに背を預け、手にしていた雑誌をテーブルの上に放り投げた。
退屈と言っても未処理の書類は部屋のデスクの上に山積みである。
それでも急ぎのものがなかったため、 なんか働く気しないなー、今日は一日ストライキってことで、 と勝手に決めてのんびり過ごしているだけのことだ。
今日のように仕事以外にすることがないのに、その仕事に気分が乗らない退屈な日は、イギリスの仕事の邪魔をしに行くのがフランスのいい暇つぶしの手段の一つだ。
真面目に仕事をしているであろう隣国の彼には迷惑な話だろうが、そんなことはフランスには関係ない。
ユーロスターが出来てからは本当に行き来が楽になったので、そういう便利な移動手段があることも気軽に出向いていける大きな理由だ。
それにせっかく敷いたレールなんだし、活用しないともったいないしなー、と二時間半ほどの慣れた列車の旅を楽しんで、駅からタクシーをつかまえイギリスの自宅に到着した。
自分の暇つぶしのために彼の仕事を邪魔しに来ただけなので、当然手土産なんて気の利いたものなど用意していない。
もしかしたらドアを開けてくれないかもしれないなぁ、などと思いながら玄関に向かった。
ドアノブを回すと鍵が掛かっていたのでフランスはチャイムに手を伸ばしたが、ふとその手を止めて家の裏側へ回ると、いつも鍵の掛かっていない勝手口からこっそりと家の中に入る。
立派な不法侵入だが、何百年も前から繰り返している日常茶飯事であるし、イギリスもこれくらいで本気で怒ったりはしないので問題ない。
家内に上がり込みイギリスの執務室に向かう途中、寝室の方から声が聞こえたので思わず足を止めると、少しだけ空いていた扉の隙間から部屋の中を覗き込んだ。
「もうお前ら……いきなりこういうことすんのやめろよ! …え? 何言ってんだよかわいくねえよ! …ったく、しばらく他国に出掛ける予定もないからまだいいけど…」
困惑したようなイギリスの声。
誰かと話をしているようだが、空いた隙間から見える室内にはイギリス一人の姿しか見えない。
端から見ると大きな独り言を言っている可哀想な人にしか見えないが、フランスには彼の周囲を飛び回る可愛らしい妖精らしき影がうっすらと見えたので、本気で眩暈がした。
また妖精さんと会話してんのかよ、と呆れつつ、しばらく部屋の外で中の様子を窺っていると、イギリスは着替え中だったらしく、チェストから取り出したセーターを腕に抱えてこちらに振り返った。
(…あれ?)
振り向いたイギリスに、フランスは何とも言えない奇妙な違和感を覚えた。
抱えたセーターが邪魔でよく見えないが、胸の辺りがやたら膨らんでいるように見える気がする。
見間違いだよなぁ、と首を傾げて身を乗り出し、僅かなドアの隙間に顔を近付けて室内を覗き込むが、イギリスは死角に移動してしまって姿すら見えなくなった。
仕方なくフランスはノックもせずにドアを開け放ち、遠慮なしに部屋の中へ足を踏み入れた。
「おーいイギリスー…」
「うわああああああああっ?! なん、なんでてめえがここにいるんだよ?! つーかノックくらいしろっていつも言ってるだろうが!!」
通常の三倍のオーバーアクションに、フランスの方が驚いた。
こっそり家の中に侵入したのだから、いきなり声を掛けられて驚くのも無理はないけれど、なにも大きな声を出したわけではない。
そこまで過剰に反応するほどのことでもないだろうに、イギリスは一瞬で部屋の隅まで後退った。
彼は酷く慌てた様子で、手に持っていたセーターで胸元を隠しているのが、ますます不自然で怪しい。
じり、とフランスが一歩詰め寄ると、イギリスは眉間の皺を深くして必要以上の罵倒の言葉を浴びせてきた。
「ってかどっから入ったんだよこの不法侵入野郎! てめえ今すぐ出て行かねえと血祭りにすんぞ!」
「わざわざ海越えて来てやったのにそんな言い方ないだろー、相変わらずかわいくねえの」
「なんだよ来てやった、って。誰も来てくれなんて頼んでねえっ! 今すぐ帰れ!」
「やだ。…ってか、お前さっきからなに隠してんだよ、ちょっと手どけてみな」
「あっバカ!」
胸の辺りを覆う腕をどかそうとイギリスの手首を掴むと、なんだか妙に細くて抵抗する力も弱い気がする。
やけにあっさりと両腕を引き剥がすことができ、イギリスが手に持っていたセーターは床の上に落ちた。
彼が必死に隠していた部分が晒され、そこにあったのは緩やかな曲線を描く二つのふくらみで、それはどこからどう見ても女性の乳房そのものだった。
「えぇ〜〜…?! ちょ、おま…なんだこれ本物?!!」
つい先日会ったときまではなかったものがついていることに、目が飛び出る勢いで驚いたフランスは、咄嗟に空いている手でイギリスの胸を鷲掴みにした。
手に馴染むちょうどいい大きさの胸にフランスの指が沈み、いびつな形に歪んで手のひらには柔らかな感触が伝わる。
「あっ…ちょっ、…なにすんだこのド変態がっ、死にたいのかてめえ!!!」
掴んでいた腕を乱暴に振り払われたかと思ったら、頭上に容赦なくイギリスの肘が振り下ろされ、フランスはあまりの痛さに頭を抱えて床の上をのたうち回った。
「いってえなぁ……だってお前…、なんなんだよそれありえねーだろ、常識的に考えて!」
この前までなかったもの…、否、これからもなくてしかるべきものがいきなりついていたら、フランスでなくとも誰だって驚くに決まっている。
物理的に、というか、それ以前にいろいろとありえないことなのだから。
しかし一番焦るべきであろう本人は、なぜか大したことではないかのように平然としている。
「これは妖精の仕業だ! あいつらいつも俺で遊びやがって、…」
いつもってなんだ。
この落ち着きっぷりからして、こうなったのはどうやらこれが初めてではないらしい。
っていうか妖精の仕業とか素で言ってんじゃねーよ、とフランスは呆れて大きな溜息を吐く。
まぁイギリスがまだちびだった頃から、何もない空間や湖に向かって話しかけているのはよく見かけたし、フランスも妖精の姿が実際に見えたこともないわけではないので、それについてはあまり深く追求しないことにする。
今さらすぎる話だ。
それよりも、フランスとしては今のイギリスの状態の方がよほど興味をそそられた。
「なぁ、それ写メ撮っていい? 記念に…」
じ…とイギリスの胸元に視線を向けると、彼は慌てて両腕で覆い隠す。
「なんの記念だばかぁ!! もーなんでこんなときに来やがるんだよ、てめえは…! 今帰れすぐ帰れ天に還れ」
「あーなんだよ、そういうこと言っていいと思ってんのか? かわいくないこと言ってるとこうだ!」
フランスはイギリスの両手首を一纏めにして掴み頭上に上げさせると、隠すもののなくなった胸が露わになる。
シャツは身に付けていたが、薄い生地の上からでも十分その存在は確認できる。
ニヨニヨ笑って携帯を取り出すと、顔から腰の辺りまでが入るように、正面からカチカチと何度かシャッターを切った。
当然イギリスは抵抗したが、女性の身体になって腕力も落ちているのか、フランスに押さえ込まれて思うように身動きが取れないようだ。
「てめええええええええ何てことしてんだよ、消せばかっ!!!」
「こんなおもしろいの消せるかよ。今度の会議でみんなに見せ……あ、その前にメールで送っとこうかな。全世界に一括送信☆」
「ふざけんなそんなことしたらマジで殺すぞ! 今すぐ消せっ、頼むから!」
確かにこんな姿は誰にも見られたくはないだろうが、いつになく必死な様子にフランスの嗜虐心が少しばかり刺激された。
思い返せば昔から生意気でかわいげのないこの隣国には、随分と辛酸を舐めさせられたのだ。
今さらだけれど、少しくらい意地悪をして腹いせするくらい、神様だって見逃してくれるだろう。
「んー…まぁ、削除するのはいいけどさ、それなりの対価は欲しいよなぁ? お前の重大な秘密を守ってやるんだし。それとも貸し一つにしといてやろうか?」
「だっ、誰がてめえに借りなんか作るか! 大体なんなんだよ、その対価って……フランスのくせに俺を脅迫する気か?」
イギリスのことだから死んでもフランスに借りなんか作りたくないだろう。
予想通りの反応に笑ってしまいそうになったが何とか堪え、もう少し虐めたら許してやるつもりだった。
それにしても、と改めてイギリスの身体を上から下まで眺めると、もともと貧相だった身体は全体的に丸みを帯びていて、どこも柔らかそうだった。
「…ほんとお前の身体おもしろいことになってんなー…」
押さえていた腕を解放し、代わりにイギリスの腰に腕を回して細い身体を抱き寄せると、いつもより一回りくらい縮んでいるような気がして、 ちんちくりんに拍車がかかってんなぁ、ってか、本当に女の子の身体になっちゃってるよ、 と無意味に感動してしまった。
フランスの無遠慮な好奇の視線に、やがてイギリスは何かを察したように頬を赤く染めて溜息を吐いた。
「…もしかして対価ってそーゆーことかよ? やっぱりてめえはどうしようもない変態だな!」
「……は?」
一体どういう考えに行き着いたのか知らないが、イギリスは勝手にわかったような顔をしてそう言った。
イギリスの言う「そーゆーこと」とやらがよくわからないし、恐らくそれにかかっているであろう、理由のわからない変態呼ばわりはちょっと勘弁して欲しい。
話が見えずにフランスが首を傾げているのにもお構いなしに、彼は急に尊大な態度で話を続ける。
「まぁそういうことなら相手してやらないこともないぜ。いつも愛だなんだって言ってんだから、さぞかしそっちの方は自信あるんだろーな?」
そっちってどっちだ。
一人で話を進めないで、会話のキャッチボールくらい成立させてくれ、と思いつつ、フランスはイギリスの言葉の意味を問い返した。
「あのー…お前がなに言ってんのか、お兄さんちょっと理解出来かねるんですけど?」
「なにって……俺とやりたいってことじゃねーの? 違うのか?」
さも当然のようにさらっと答えたイギリスに、フランスは頭の上に金だらいが落ちてきたかのような衝撃を受けた。
節操なしと言われる自分だけれど、これまでイギリスにだけは手を出したことはないし、そうしたいとも思わなかった。
嫌いだからというわけではない。
顔だけなら十分好みの範疇なのだが、性的な欲求を抱く対象ではなかったのだ。
昔からよく知っている相手だし、子分というか弟というか、とにかくそういう近すぎる存在だったし、何よりわざわざイギリスをどうこうしなくても他に遊び相手はいくらでもいたので、こいつだけは絶対にないと思っていた。
その気持ちは今後も変わらない。
(……はず……だったんだけどなぁ…)
お前としたいなんてあるわけねーじゃん、と笑って、すぐにでも抱き寄せた身体を放してやればいいだけのことなのに、なぜかフランスは固まったまま動けなかった。
イギリスの身体が女性のものに変化したせいなのか、どうして今まで頑なにイギリスだけはないと思えていたのか不思議なくらい、目の前の身体に触れてみたい衝動に駆られていた。
長年敵同士をやっていた自分の手で触れられたら、イギリスはどんな顔をしてどんな声を上げるのか、そんなことが無性に知りたくなった。
こいつに手を出すほど相手には困ってないんだけどなぁ、と一時の衝動を抑える意識も働いたが、手のひらで掴んでこぼれるくらいの少し大きめの胸は童顔には似つかわしくなくて、そのギャップにもそそられた。
今のイギリスはそういう対象として見ていなかったフランスにも、実に美味しそうに映った。
対価というのは冗談のつもりだったのだが、イギリスにそれを差し出す気があるなら断る理由もない。
「イギリスからそういうこと言われるなんて思ってもみなかったなぁ。お前にその気があるなら遠慮なくいただいちゃうけど……ほんとにいいの?」
「いいけどちゃんと今撮った写真消せよ」
悩む素振りもなく いいけど、 と答えたイギリスを、フランスは少し意外に思った。
いつもエロ大使だなんだと言ってからかっているものの、それはイギリスのところのエロ本の内容だとか、無機物にまでさかる性的嗜好(といっても彼は自身の嗜好ではなく、あくまで国民の嗜好だと言い張っているが)を指して言っているだけであって、実際の経験がどれほどかなんて知らない。
友達もまともに出来ないような奴だから、そっちの方も人並み程度で大した経験もないんだろうなと勝手に決めつけていたけれど、この反応を見る限りでは自分とあまり変わらないのではないかと思える。
そうでなければ自らそんなことは言い出さないだろうし、見かけによらず遊んでいるのかもしれないなぁ、などとぼんやり考えながらイギリスを見下ろしていると、彼はにやりと笑って言った。
「なにぼーっとしてんだよ。俺じゃ勃たねえか?」
そんなことないけど、と答えようとしたとき、イギリスはフランスの胸ぐらを乱暴に掴んで引き寄せ、唇を軽く重ね合わせた。
触れ合った唇はすぐに離れたが、ほんの数センチの至近距離を保ったまま、彼は酷く色のあるいやらしい表情を浮かべて言った。
「…まぁ無理矢理にでも勃たせてやるけどな」
脅迫する気か、なんてさも被害者みたいなことを言っていたけれど、こんな挑発的な科白を囁くなんて、イギリスの方が乗り気ではないかと思えるほど大胆だった。
それならこちらも拒否する理由はないし、それなりに楽しませてもらうだけだ。
相手がイギリスであることには少し変な感じはするのだが、彼もこの手の行為は慣れているようだし、相手が嫌いなフランスであることも抵抗はないらしいので面倒がなくていい。
とりあえず今後はこいつにだけは節操なしって言われたくないなぁ、と思いながら、フランスは軽くなったイギリスの身体を抱え上げ、ベッドの上に押し倒した。
ゆっくりと顔を近づけ、指で顎を捕え軽く上に持ち上げると、今度はフランスからイギリスに口付ける。
「ん、…ぅ……」
深く唇を重ね、舌先で口内の粘膜をくすぐってやると、甘ったるい声が漏れた。
触れ合う唇は酷く熱い。
フランスは空いていた手でそっと胸を掴んで指を緩やかに動かすと、イギリスはひくり、と背を反らす。
触れたところから少しずつ、身体が熱を帯びていくのを感じる。
思うさま唇と舌を舐り吸い上げ、散々口腔内を蹂躙してから離れると、イギリスは大きく息を吸い込んでどうにか呼吸を落ち着かせ、とろりと潤んだ瞳でフランスを睨み付けた。
03→