ずっと俺のターン!!(U.K.ver)/03


食事を終えたイギリスはぼすん、とソファの背もたれに身を沈めた。
食器を下げてテーブルを片付けてから、フランスもイギリスの隣に腰を下ろす。

「どう、おいしかった?」

ルームサービスの食事なんて高いばかりで味などたかが知れている。
味オンチなイギリスにはそれでも十分なんだろうな、と何気なく問うと、思いもよらない答えが返ってきた。

「…ん……お前が作ったやつの方がいい」

「え…あー…そう?」

普通なら 当たり前だろ、 と即答するところなのだが、想定外に素直な反応に少し戸惑ってしまう。
それどころかことん、と肩に重みを感じて目線を向けると、イギリスが頭を預けて身を凭れさせてきた。

ちょ、なにこの可愛い態度…とどきどきしたが、手には三杯目のワインが入ったグラスが握られていて、ああ、もう軽く酔ってんだな、とフランスは嘆息する。
これ以上飲ませると、酒癖の悪いイギリスのことだから手が付けられなくなるほど暴れ出したり、何百年も昔のことで愚痴を零したりし始めるかもしれない。

肩に乗った彼の髪を撫でて、その感触に意識を逸らせている隙にさりげなくワインボトルをテーブルの下に隠した。
グラスを持った手も包むように握り込み、指先で皮膚をくすぐってやると徐々にイギリスの手から力が抜けて、中にワインが残ったままのグラスもそっと奪う。

すると取られたグラスの代わりに、フランスの手をぎゅ、と握り返してきた。
イギリスの部屋を訪ねてから二時間近く経って、ようやく落ち着いて彼の用件を聞き出すことが出来そうだ。

「…そういや今日俺に何か用があったんじゃないの? なに?」

「………別に……。てか、さっきも言ったろ」

「さっき? 何だっけ?」

「……晩飯」

イギリスはぼそ、と短く答えた。
言葉の少なすぎる返答だったが、フランスには彼の言わんとしていることはそれだけで十分過ぎるほど伝わった。

「何だ、会議の後話しかけてきたのって、晩飯誘ってくれるつもりだったんだ?」

返事はなかったが赤い顔をますます赤くして睨み付けてくるところを見ると、フランスの言ったことは間違いではないようだ。
それで何度も連絡をしてきたのかと思うと、笑みも零れてしまう。

「それならそうと言えよー、言わなきゃわかんねーだろ、俺エスパーじゃないんだから」

「……いつもは言わなくてもわかってるじゃねえか…」

あれ、そうだったかな、とフランスは首を傾げた。
そんなに意思の疎通が上手くいっているなら、顔を合わせるたび喧嘩するほど仲が悪くなるはずはないのだが。
けれどイギリスがそう言うからには、フランスが意識していない部分でそう感じさせるところがあるのだろう。

「えっと…、今日は日本とも話してたしそこまで気付かなかったな…」

「その日本との話だって何かと思えば、……アニメのDVDって何だよ! なんか大事な話だと思ったから、俺は後にしたのに……それこそ後でいいだろばか!」

「……………」

…要するにイギリスは自分の話を聞くより先に、フランスがアニメDVDを優先したことが気に入らなかったらしい。
さすがに日本が居た手前、その場で文句は言えず怒って帰ってしまった、というのが今回の事の顛末だったようだ。
それにしてもそれならそうともっと早く言ってくれれば、DVDを受け取ってすぐに帰ってきたのに。

必要なことも言わずに一人で勝手に拗ねて怒って、どういう性格してるんだこいつは、と思うのもこれで何度目になるだろう。
微妙にしょっぱい気持ちになったフランスだったが、イギリスは今日一日で内に溜めた不満を一つ零すと、抑えがきかなくなったのか次々に心情を吐露し始めた。

「お前が日本とアメリカと仲良く飯食って、楽しくDVD見てる間、俺は一人で腹減ってるのも我慢してたんだからな! 連絡も寄こさねーし、フランスのくせになんなんだよ!」

フランスの肩に乗せた頭をぐりぐりと擦り付け、イギリスは酔ったせいで少しばかり舌足らずな口調で文句を言っている。
今日のことは自分は悪くないとフランスは思うのだが、その仕草が妙に可愛くてつい ごめんね、 と宥めてしまうのだ。

…ああ、これが駄目なんだ、ちゃんと 「お前がはっきり言わないからそうなったんだろ」 とか何とか、イギリスにも非があることを指摘しないと、またアメリカに甘やかしていると言われてしまう。
言ったところで聞きやしないんじゃないか、と内心では思いつつ、イギリスの頬に手を添えてそっとこちらに顔を向けさせた。

「…でも今日はお前も悪いんだぞ、用件も言わないであんな態度はないだろー」

「っ…何で俺が悪いんだよ! 悪いのは全部お前だろ、俺が先に声掛けたのに後でメールか電話しろとか何なんだよそれ! しかもこっちから電話してやっても出なかったくせに、何で俺が悪いみたいな言い方なんだよ!」

「だってそれはお前がメールも電話もしないって言ったんじゃん!」

イギリスがしないと言えば、本当に連絡など来ないのが常だ。
だからきっと今日もそうなんだろうと思うのは当然で、今日に限って連絡が来るなどそれこそエスパーでもなければわかるわけがない。
しかしフランスの答えをどう曲解したのか、イギリスは斜め上の非難をする。

「何だよじゃあわざと出なかったのかよ?!」

「や、それは違うけど! ああもうわかったよ、俺が悪かったですゴメンナサイ!」

……駄目だった。
なんか俺情けなくないか、と思うものの、考えてみれば酔っているイギリス相手に真面目に話をしても無意味だ。
それにこういうときはこうやって早々に折れてやった方がいろいろな意味で楽なのだ。

何より常日頃嫌いだの変態だのバカだのと言いたい放題罵ってくれるくせに、フランスを夕食に誘うつもりだったらしいイギリスの気持ちは単純に嬉しかった。
フランスが訪ねてくるまで夕食を摂らずにいたのも、二人で一緒に食事をすることが諦め切れなかったからなのかもしれない。

(そうと知ったら俺から謝ってやらないと収まんないよなー…)

普段はどこを切ってもツン100%なのに、今日のようにごく稀に予測不能なデレを発動するから困る。
あまりに唐突すぎて咄嗟に対応出来ないから、こうしてすれ違ってしまうのだ。
こればかりはどんなに付き合いが長くても、一見いつもと変わらないので事前に察知することは不可能だ。

ともかく言いたいことを言って、フランスが謝ったことに満足したらしいイギリスは、上目遣いに見上げて 許して欲しいか? とか偉そうな口調で問う。
なんで俺が許しを請う立場になってんだ、と眉を顰めると、フランスから 許して下さい、 という言葉が聞けるに違いないと言わんばかりに、期待にきらきらと輝かせている彼の瞳を見ては いや、別に とはとても言えない。
仕方ねえなぁ、と苦笑したフランスは、繋いだ手にキスをしてイギリスの望む言葉を与えてやる。

「うん。お兄さんのこと許してくれる?」

「まー、そこまで言うなら許してやってもいいぜ。優しい俺に感謝しろよ!」

やっとイギリスの表情に穏やかな笑みが浮かんだ。
どうにか機嫌を直してくれたらしい。
やがて酔いが回って眠くなったのか、半閉じの瞳をしたイギリスはフランスに寄りかかったまま小さく欠伸をする。

「寝るんならベッドで寝ろよー、風邪引くぞ」

ぽんぽんとイギリスの背中を撫でるように軽く叩くと、凭れさせていた身体をさらに擦り寄せてきた。

「…ベッドまで運べ」

眠そうな声でぽつりと言って、両腕をフランスの首に巻き付けてしがみついてくる。
いつもならこんなふうにべたべた甘えてくることはないのに、今日は本当にどうしたというのだろう。
よほどこの部屋で一人でいるのが寂しかったのだろうか。

小さな子供をあやすように髪を撫でて額や頬にキスをすると、息が苦しくなるくらい首に回された腕に力が込められた。
酔っているせいなのか、密着するイギリスの身体は酷く熱い。

「しょうがねえなー、もう……ほらちゃんと掴まれよ」

脱力して重くなったイギリスの身体を抱っこするように支え、ベッドの上に横たえてやる。
スーツのジャケットやネクタイはもう身に付けていなかったが、このまま寝かせたら寝苦しいだろうし、シャツやズボンが皺になってしまう。
脱がせた方がいいのかなー、としばし考えた後、余計なことをして後から怒られては割に合わないので、ベルトだけ外してあとはそのままにしておいた。
明日は帰るだけだし多少服が皺になっても問題ないだろう。

むしろ問題なのはこの後自分がどうするべきか、である。
このまま放っておけばイギリスはすぐにでも眠ってしまうと思うし、そうなるとフランスがここに居る理由はない。
出来ればここでイギリスと一緒に寝たいけれど、このままこの部屋に泊まるなんてことはホテル側にしてみればマナー違反もいいところだ。

いわゆる据え膳の状態で、デレてるイギリスも貴重だというのに、何もしないで帰るなんて少しだけ虚しい気持ちになる。
しかし明日は朝一の飛行機を予約していることもあり、今日のところは早くホテルに戻った方がいいだろうと冷静に考えて、ベッドから腰を上げた。

「じゃあ俺帰るな。おやすみ」

前髪を分けて額に軽く口付けると、イギリスの手がぎゅ、とフランスのシャツを掴んだ。
意外な行動に驚いて、シャツを掴んでいるイギリスの手を思わず握り返す。

「…なに?」

「…帰んなよ」

「え、でもお前眠いんだろ? そりゃー…俺もここに泊まれたら楽だけど、そうもいかないでしょ」

「…別に泊まってもいい。どうせここダブルだし」

「え…えー…?!」

言われてみればベッドがやたら広い。
部屋に入ったときからイギリスが不機嫌で、彼を宥めることにばかり意識がいってしまっていたので気が付かなかった。
フランスの戸惑いを含んだ声を聞いて、イギリスは赤い顔を背けて言う。

「かっ、勘違いすんなよ、シングルが空いてなかったから仕方なくダブルの部屋にしただけで、お前を泊めるために取ったわけじゃねーんだからな!」

このホテルについてすぐイギリスに内線を取り次いでもらったとき、フロントに掲示されていた部屋の空き状況にはシングルも空室があったような気がするのだが、今それを突っ込むほど空気が読めないフランスではない。
いつもなら冷やかすところだが、自分が日本やアメリカとアニメを見て楽しんでいる間、イギリスはこの広い部屋で一人きりだったのかと思うととても揶揄する気にはなれなかった。

よく考えたら会うのも久しぶりだったし、日本に声を掛けられなければフランスだってイギリスを誘うつもりでいたのだ。
彼が自分と同じように考えたとしても、何も不思議なことはない。

こんなことならDVDを受け取ってすぐに帰れば良かった、と今さら後悔の念に駆られるが、イギリスと過ごす夜はまだこれからだ。
この後は何でも彼の我が侭を聞いてやって、思い切り甘やかしてやればいい。
もうアメリカになんと言われようと知ったことか、とフランスは開き直った。

「じゃあ泊まってこうかな。せっかくダブルなのにもったいないもんな?」

「そ、そうだよっ、もったいないからだからな!」

「うん、わかってるよ」

ベッドに上がってイギリスの隣に横たわり、赤い頬を手のひらで撫でると潤んだ翡翠の瞳がゆっくりと細められる。
目が閉じられたことでそっと唇を重ねると、再びイギリスの腕が首に回され、ぎゅ、としがみついてきた。
キスをしたままその身体を抱き返してやると、服越しでもイギリスの体温の高さを感じる。
こんなに熱くなっているのは、酔っているせいばかりではないだろう。

「ね…、してもいい? 今日はイギリスの言うこと…何でも聞いてあげるから」

ここまできて添い寝で済ませられるほどの忍耐力はフランスにはない。
ストレートな誘いの言葉を伝えるのと同時に、むにむにと火照った耳たぶを指で揉むと、触れている皮膚は熱を帯びイギリスの表情もとろりとしたうつろなものに変わる。





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