俺にもちょーだい!
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 真人は豪炎寺のベッドの上であぐらをかき、あやつり人形を組み立てる。胴体には二階堂の髪が埋め込まれ、既に頭が取り付けられていた。手足のはめ込みには難色を示し、つけてもすぐに外れてしまう。
「んぐぐ」
 力をこめて腕を差し込む。力をこめた指先が触れて、擦り付けられる。
 そして、携帯電話を肩と頬で固定をさせて豪炎寺と会話をしていた。
『真人、おかしな遊びはよせ』
 豪炎寺は真人に人形の組み立てをやめさせようとする。
「やーだよ」
 真人は組み立てたら、あやつり人形の効果が発揮すると思い込んでいた。しかし、実際には胴体に髪の毛を埋め込み、パーツと繋げた時点で対象者は動かされている。二階堂は真人のはめこんでいる側の腕がくすぐったいらしく、笑いを堪えていた。
『落ち着いて聞け。それは俺のじゃない。二階堂監督のなんだ』
「はぁ?意味わかんない。だいたい二階堂選手は青い髪だろ」
『…………しかし、だ。二階堂監督なんだ』
 豪炎寺もなぜ真人が自分と二階堂の髪を間違えたのかがわかっていない。
 二人とも白髪、という可能性が抜け落ちていた。
「あーあ。修也が変な事言うからまた外れた。やり直しだよ。集中できないから切るわ」
『おい!真人!』
 ぷつっ。電話が切れた。
 かけ直すが“おかけになった電話番号は現在使われておりません”と茶化されて切られた。


「……………………………」
 息を吐き、額に手を当てる豪炎寺。真人と話で解決するのは無理だと判断した。
 携帯をしまい、二階堂の元へ戻る。せめてあやつられる二階堂を助けると決めた。
「二階堂監督。申し訳ありません」
 豪炎寺は謝り、真人の人形の事を語る。
「ああ……だからなのか。理由がわかって安心したよ。まぁ突然身体が動くだけだろ。それにしても、どうして俺と豪炎寺の髪が……」
 二階堂も白髪とは考えられなかった。認めたくなかったとも言える。
「監督、大丈夫ですか?」
 二階堂を上目遣いで見詰め、彼の身体に抱きつく。
「大丈夫だよ。気にするな、豪炎寺」
 二階堂は豪炎寺を抱き返してから、頭を撫でようとした。ところが、ぎゅっと身体が強張る。
「うっ!」
「!!?」
 強く抱き締められ、豪炎寺も吃驚した。
「かんとく?」
「ああ、うん。吃驚したな……って。…………あう」
 豪炎寺から離れ、足を伸ばす二階堂。
「真人くん、相当苦戦しているみたいだね。足をこう……撫でられる感覚がして……んん」
 二階堂は俯き、口に指をあて、声を抑えようとした。そこから、吐息が漏れる。
「…………ん」
 その音に、豪炎寺の頭の裏にぞくっとした寒気に似た風が吹き抜けた。
「あ…………ちょっと。まずい」
 二階堂は横になり、蹲る。
「かんとく……?」
「すまない豪炎寺。ちょっと部屋から出ていてくれないか」
「なぜです?」
「いや、…………うん」
 濁す二階堂。
「俺に言えないような事なんですか?」
「お前には見せたくないんだ……」
 豪炎寺が覗き込むと、二階堂は辛そうに顔をしかめていた。けれども頬が上気していて色を感じる。
「俺は、見たいです。監督の全部、見たいです」
 真剣な熱い眼差しに二階堂は折れるしかない。
「その、な。真人くんが足を取り付けようとしているらしく、股間を思い切り掴んでるんだよ……はは、は」
「股間……ですか?」
「しかもその、擦り付けるもので、キツいんだ」
「!」
 キツい、という意味を察する豪炎寺。
 急速に焦る気持ちが沸き起こり、二階堂の肩を揺らした。
「駄目、です!」
「駄目って、こういうのは……。豪炎寺、お前だって男なんだからわかるだろう?」
「嫌です!」
「嫌と言われてもだな……うう……」
 足を閉じ、手で股間を見えないように隠す。しかし豪炎寺は許さず、暴こうと彼の手を剥がした。
「こ、こらあ」
「絶対に嫌です!」
 二階堂の自身はジャージ越しに反応を示しているのが豪炎寺にはわかり、ますます嫌だという気持ちが昂っていく。
 豪炎寺は嫌だったのだ。自分以外の誰かの手によって二階堂が達するなどとは――――。しかも目の前で行われ、相手はなにも知らない真人。胸には嫉妬や嫌悪がどろどろと渦巻く。絶対に絶対に嫌だった。
「だめ……です……!」
 二階堂のジャージに手をかけ、ずり下ろして下着から性器を取り出す。
 風呂ではコンプレックスを曝け出した、大人のものが豪炎寺の目の前に映った。やや反応し、勃ち上がっているそれは子供の豪炎寺には刺激が強すぎる程の性の象徴である。
 これが、監督の――――。
 二階堂のものだと意識をすれば、どきりとするよりも股間にずしんとした衝撃が圧し掛かった。
「こら、なにをするんだ」
 強めに窘める二階堂に豪炎寺は同じ音量で返す。
「監督こそ、なんでこんなになっているんですか」
「触られたり擦られたりしたらそうなるだろっ」
「だからそれが駄目なんですっ!」
 豪炎寺は手を伸ばし、二階堂の性器を握った。
 同じ男のものではあるが、自分のものと他人のものは違う。初めて触れる他者の秘められた場所に、豪炎寺は思わず凝視しながらも、手を上下させる。
「ご、うえん……じ?」
「言いましたよね……監督が監督じゃない時は、俺だけを見て欲しいって。俺は嫌です……俺じゃない誰かに……目の前で二階堂監督が勃つなんて……。だったら、俺の手で監督の、抜きます」
「抜くって……。豪炎寺、本当にやめなさい」
「じゃあ萎ませてください」
「無茶言うな……よ」
 諭す途中で、ぴくんと腰が動く。
「かんとくは、真人に感じているですか……」
 ぎりっ。豪炎寺は奥歯を噛み締めた。
「感じるって……。言ってるだろ……擦られたら、そう、なるだろ……」
「擦るのは俺がしますっ」
 手を上下させる動きを繰り返す。緊張する気持ちが強弱をつけさせて、二階堂の心地の良い箇所を刺激させる。性器は豪炎寺の手の中で血液を集めて膨張していく。初めて触れる二階堂の性器が、別の生き物のように素直に豪炎寺の刺激を受け入れて善がっていた。
「あ」
 漏れてしまった声に二階堂は口を手で押さえる。けれど豪炎寺が聞き逃すはずもなかった。
「監督、気持ち良いですか」
「いいかげんに、しなさい」
 二階堂は刺激に耐えるのに精一杯で、抵抗まで余裕がない。
 大好きな豪炎寺に自身を扱いてもらうのは本当に心地良く、そして罪深い。豪炎寺がすすんでやっているのが、さらに性質が悪い。
「監督、気持ち良いですよね。こんなに、ぬるぬるしてる……」
 二階堂の性器の先端からは蜜が滲み、豪炎寺の指に絡んでくちゅくちゅと卑猥な水音を立てている。豪炎寺は恍惚とした瞳で二階堂の性器を見詰めていた。自分の手で二階堂を気持ち良くさせているのに、幸福を感じているのだ。
 二階堂の悦びに、豪炎寺の下肢もじんじんと反応している。本能のままに布越しに触れようとするが、我に返って離す。
「やめなさい、ごうえんじ。本当に、怒るぞ」
 二階堂は頭を振り、嫌がった。
「かんとく、気持ち良いですか?気持ち良いって、言ってください」
 拗ねたように唇を尖らせるが、瞳は愛おしそうに二階堂を求めている。
 そんな目で見られたら、怒れなくなる。
「豪炎寺……俺は豪炎寺にこんな真似させたくないんだ……それは、お前を大事に想うからなんだぞ。わかっているか……」
「なら、監督はわかっていますか……?俺が、がまん、出来ないの……」
「豪炎寺の気持ちは知っているよ……」
「違う。全然、わかって、ないです。俺は監督が思ってるような生徒じゃないんです。怒ってもいいです……本気で怒ってもいいです……。俺は、生徒以上になりたいんですから」
「本気だと、凹むくせに……よく言うよな」
 表情が強張る豪炎寺の肩を抱き寄せる二階堂。
「お前の頑固さには降参だ。わかったよ、やってみてくれないか」
「はい」
 二階堂の顔を伺いながら、豪炎寺が性器を擦った。すると、肩に触れていた二階堂の手が腰へ下り、豪炎寺のズボンの中をまさぐった。
「………かんとく……」
「豪炎寺、これはなんだ?」
 二階堂は豪炎寺の性器を取り出し、見せ付ける。硬く勃ち上がっている姿に、豪炎寺は口をもごもごとさせた。
「そ、れは」
「自分で弄ったのか?」
 首を横に振る豪炎寺。
「監督の、触っていたら、変な、気分に、なって…………」
「駄目だろ、こんなになっちゃ」
 耳元で囁き、二階堂の手の中で豪炎寺の性器を弄ぶ。
 くちくちと水音を立て、豪炎寺はひくひくと震えた。
「う……………くぅ………」
「ほら、手がお留守になっているぞ」
「意地悪です。怒りますよ」
 ムッとする豪炎寺に、二階堂は頬に口付けを落とす。唇に落とせば機嫌は直り、二人は口付けを交わしながら、互いの自身を扱いた。
「…………ん……………ふぅ………」
「ん……………ああ………」
 甘くとろける快楽の中で、とうとう二人の欲望がはじける。
 二階堂の手の中で豪炎寺の性器は白濁の液を放ち、二階堂の性器からも放たれた。けれども二階堂の性器は豪炎寺に向いており、彼は二人分の精液を浴びてしまう。
「……………………………」
「…………すまん。わざとじゃないんだ。本当に悪かった」
 豪炎寺のハーフパンツ、上着の腹の辺りがどろどろのべたべただった。あまりの悲惨な状況、開放感から豪炎寺はべそをかく。精液で濡れた指先が触れないように、手の甲で目を擦る。
「擦っちゃ駄目だろ。ちょっと待つんだ」
 豪炎寺をなだめながら、二階堂はティッシュで手を拭き、己と豪炎寺の性器を拭う。ズボンを上げて自分の性器をしまう、豪炎寺の衣服を脱がしだす。
「洗濯しなきゃな。お風呂で洗ってやるから、泣くのはやめなさい」
 全裸にされた豪炎寺は二階堂に抱きかかえられて浴室で身体を洗ってもらう。
 二階堂は脱衣所で着替えをして豪炎寺の衣服ごと籠に放り込み、豪炎寺の着替えも用意したが、彼は断った。
「俺は、このままでいいです」
「冷えるぞ」
「こうすれば、いいです」
 二階堂にしがみつく。
「見せるの、恥ずかしいんじゃなかったのか?」
「恥ずかしいです……」
 くっついた胸から、どくどくと心音が伝わった。
「でも、いいんです」
 ぎゅうと抱き締めてくる豪炎寺を再び抱えてベッドに戻る。当然、そのまま眠れるはずもなく、二階堂は豪炎寺をベッドに寝かせると圧し掛かるようにして動きを奪い、口付けをしながら背や双丘を撫でた。
 ――――ほら。これで、いいんじゃないですか。
 豪炎寺の呟きは声にならず、心地良さそうな鳴き声に押し出された。






 翌朝。豪炎寺は携帯の震える音で目が覚める。
「ん…………?」
 目を擦りながら、布団から顔を出して床に足を着く。だが置いた場所で二階堂の衣服を踏んでしまい、思わず謝ってから自分の鞄の元へと行く。携帯を取り出しながら首筋を掻くそこには、所有の証が刻まれていた。
「……はい」
『修也、おはよう。寝てたか?』
 相手はやはり真人。彼の声を聞いて、そういえば彼はどうしたのかと思い出した。
「ああ……寝てたよ」
『もう昼近くだぜ。なあ、昨日だけどさ、結局組み立てられなくて途中でやめちゃったよ』
「なにを」
『あやつり人形だよ』
「ああ……」
 そういえば、ある時から全く二階堂はあやつり人形の影響を受けなかったと記憶を辿る。
『なんか拍子抜けしちゃったよ』
「だったら……」
『うん?』
 息を吸い、豪炎寺は放った。


「俺にくれよ」


『え……どうしようかな』
 迷う真人。
 真人と話している最中に二階堂は目を覚まし、豪炎寺の裸の背中を見る。
 微妙に肩が動いたように見え、それだけなのに喜んでいるように思えた。









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