俺にもちょーだい!
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 ちゃぷ。
 豪炎寺が湯船に浸かると、二階堂が言う。
「男二人だと狭いな」
「はい」
「もっと寄ってもいいぞ」
 頷く豪炎寺が寄り添えば、腕があたる。濡れた肌は吸い付き、じんわりと温かい。
 タレの効果などすっかり無くなっているはずなのに、どきどきとする鼓動が治まらない。
「……豪炎寺、いいか?」
 囁きかける問いかけでも、浴室では響いて音が通る。
 二階堂は身体の向きを変えて足を広げ、その間に豪炎寺の身体をもたれさせて包み込む。背中から肩口に、二階堂の頭が擦り付けられた。
「かんとく……」
 二階堂が後ろへ傾けさせれば、豪炎寺の身体も共に傾く。巻いたタオルが浮きそうになり、押さえた。
 二階堂のタオルは浴槽の縁に置いてあり、腰にあたる感触に意識が向きそうになる。豪炎寺の隠そうとする仕草に、二階堂は悪戯心が疼きだす。
「豪炎寺、タオルを湯に入れるのはマナー違反だぞ」
 ぎくりと豪炎寺の肩が揺れる。タオルを摘んで見せれば彼はしどろもどろになる。
「すみませんっ…………でも、しかし……」
 持ち上げる振りをすれば、二階堂の手を解こうとしてきた。
「でももなんでもないだろう?」
 また摘もうとすれば、豪炎寺の拒絶の意思が強まってくる。二階堂は豪炎寺の腰に腕を回し、逃れられないようにしてから反応を弄ぶ。
「…………駄目…です。嫌です!」
「んー?さっきの甘えん坊な豪炎寺はどこに行ったんだ?」
「甘えてなんかいません……」
「つれないなぁ…………。はは、すまん。冗談だよ」
「監督……」
 ホッと安堵する豪炎寺。二階堂もからかうのはやめて、タオルから手を離す。
 しかし誰の力でもない水の力で、豪炎寺のタオルが浮き、外れた。
 二人の視線の先にはばっちりと豪炎寺の性器が見えてしまう。
「見ないでください!」
「そんなに嫌だったのか……」
 手で隠す豪炎寺に、二階堂はからかってしまった事を悪く思う。けれど、彼はつい理由を零してしまう。
「俺の、監督のと全然違うから……」
「え?」
「…………ええと……」
 口ごもり、唇を尖らせて俯いた。
「そのなんだ、豪炎寺。違うのは当たり前だろうし、それに豪炎寺のお友達だって皆違うだろう?」
「……………………………」
 豪炎寺の顔が上がり、二階堂を見る。
「サッカーと違って練習したらどうなるって訳でもないからな。はは」
「……………………………」
「だから豪炎寺……」
 二階堂は豪炎寺の身体を向かせ、両頬を手で包み込んだ。そこから強弱をつけて揉んでやる。豪炎寺の表情が戻ってくると止めて、二人は口付けを交わした。


 湯船から上がれば、二階堂は豪炎寺を風呂椅子に座らせてスポンジをボディソープで泡立てだす。
「さ、豪炎寺を綺麗にしてやろうな」
 頷く豪炎寺は肩を竦め、身体を硬くする。
 ごしごしと洗われ、たちまち泡だらけになる豪炎寺。大人しい彼に、股に手を入れて驚かせてやれば、素っ頓狂な声を上げる。
「ひっ…………!」
「ほら、ちゃんと洗えないだろう?」
「自分で洗えますよっ」
「俺に洗わせてくれよ」
 つい笑いが漏れる二階堂に、意地悪な行動だと悟った豪炎寺は明確な抵抗を示しだす。
「監督。自分で洗えますからスポンジください」
「膨れるなって。そうだ、豪炎寺のがどうなのか見ようか」
 ぐい。二階堂が豪炎寺の太腿に手をやり、股を割らせた。不意打ちに、いとも簡単に開いてしまう。
 そこには確かに二階堂のものとは違う、子供のものがついていた。
「……なんだ。平均サイズじゃないか」
「二階堂監督っ!!」
 二階堂の手を引き剥がそうとするが、すり抜けて性器を握られる。
「あっ!」
 二階堂は手を上下させて豪炎寺の性器を洗い出す。
 くちゅ、と水音が鳴り、豪炎寺の身体に快感が走った。
 恥ずかしいのに気持ちが良い――――自分ではない他人に、しかも大好きな二階堂に性器を触れられる悦びを知ってしまう。だが軽く洗われるだけで、すぐに手は離れてしまった。
「すまん、やりすぎたな。ほら、スポンジだ」
「はい」
 差し出されたスポンジを受け取る豪炎寺。けれども不意に二階堂の手が動いて、滑って落ちてしまう。
「ごめんな」
「いえ……………」
 身を屈め、拾おうとする豪炎寺。しかし、またもや急に二階堂の腕が動き、背中を押されて四つんばいの体勢にされた。
「うわっ」
「大丈夫か豪炎寺」
 起こすのを手伝おうとした二階堂だが意思とは関係なく、手が豪炎寺の双丘に触れて親指が割れ目を開かせる――――。
 くに。窄みが露になった。濡れて泡が伝うそこは浴室の明かりに照らされて、ひくん、とひくつく。
「!!!」
「豪炎寺、手が滑ったんだ。本当に悪かった」
 謝る二階堂。様子から、故意ではないとわかり豪炎寺は許す。
 泡を流し、頭を洗い、湯船にもう一度浸かった豪炎寺は、二階堂が身体を流すのを眺めていた。
「そんなにじろじろ見るなよ」
「監督だって俺の事を見たんですから、今度は俺の番です」
「すけべだなぁ」
 苦笑を浮かべる二階堂は照れているように見える。
 しかし、二階堂の胸の内は勝手な動きをした腕が気になっていた。行動の合間に手首を回してみるが、なにも起こらない。
 豪炎寺は湯船の中で立てた膝を抱いて、二階堂の裸体を覗いていた。胸がどくどくと高鳴っているのを自覚している。先ほど性器に触れられた感触を思い出そうとして、一人羞恥をして顔を伏せては上げていた。しかも、窄みに触れられた感覚も蘇り、偶然だとわかっているのに疼きだす。はしたないと恥じれば恥じるほど、もどかしい気分になってくる。
「豪炎寺。あまり湯船に深く浸かるとのぼせるぞ。先に上がっていなさい」
「かんとくと、一緒がいいです」
 ふー。息を吐く二階堂。今夜の豪炎寺は甘えん坊に加えて頑固者だった。
 上がる頃にはすっかり豪炎寺はのぼせ上がってしまい、着替えさえも二階堂が手伝わなければ出来ない酷さである。
「ごめんなさい」
 タンクトップとハーフパンツを纏った豪炎寺は、Tシャツとジャージのズボンを履いた二階堂に抱きかかえられて寝室へと運ばれた。そこで横たえられた豪炎寺はベッドに座った二階堂の膝に乗せられ、タオルで丁寧に額の汗を吸収してもらう。
「特別だぞ」
 囁きかける二階堂に、豪炎寺の上気した頬は、さらに熱が上がりそうになった。
 それから冷たい水を持ってきてもらい、肩を抱かれて飲ませてもらう。飲み終わったら口付けももらった。
「大丈夫か?豪炎寺」
「…………好きです、監督」
 気遣う二階堂に口付けを返す。
「俺は大丈夫です。落ち着いてきました」
「良かった。コップを片付けてくるよ」
 コップを戻してくる時間が無性に長く感じる。二人きりの、特別でいられる時は、片時も二階堂から離れたくないのだ。寝室の扉が開いて二階堂が姿を見せれば、豪炎寺の頬の筋肉は喜びで上がる。
「お待たせ、豪炎寺。なんてな」
 豪炎寺がくすくすと笑う。二階堂もにこにこと微笑みながらベッドに入ろうとする、その刹那だった。


 がくんっ。
 二階堂の片足が不自然に動きを止め、倒れこむようにベッドに手をつく。そこには豪炎寺がおり、覆い被さるような体勢で二人の視線が交差する。
「ご…………っ…………」
 ごめん。
 豪炎寺。
 喉から、声が出てこない。電撃を浴びたように言葉が掻き消されたのだ。
 もはやここまで来ては豪炎寺も、そして二階堂も理性を保てない。内側から張り裂けそうな程、鼓動が叩きつけ、血潮が焼けるように沸く。
 豪炎寺も言葉を発さぬまま二階堂の首に腕を回すと、噛み付くような荒々しい口付けを交わした。
「…………………く」
 ベッドがぎしりと軋み、豪炎寺の小さく未熟な身体に二階堂の成熟した大人の身体が圧し掛かる。豪炎寺の片手の手首を捉え、二階堂は豪炎寺の首筋に甘く噛み付き、吸いつけた。密着する胸がひくひくと上下する反応を味わう。
「……あっ………あ………、あ、あっ……あ」
 体格が異なっても今まで力ずくな態度をあまり取らず、気遣ってくれた二階堂の強引な責めに、豪炎寺は指の先からつま先まで全身の隅々に甘い刺激に痺れていた。
 二階堂のものになるという支配、そしてそこから丸ごと奪おうとする逆の支配が豪炎寺の脳を甘く甘くとろけさせる。
「ふあぁ………あ……」
 真っ赤な下をチラつかせて濡れた吐息をして、刺激で上がった片足をかくん、と震わせた。
 二階堂の手がタンクトップに滑り込むと、豪炎寺は自ら捲し上げ、突起が見えるまで胸を開く。
「んぅ」
 片胸の突起を摘まれ、指の腹で擦り付けられる。胸の愛撫に、豪炎寺は本能のままに切なく息衝く。もう片方を口に含もうと頭を沈める二階堂を豪炎寺は抱いて、指で耳を撫でて擦り付けた。
「はぁっ」
 こそばゆさに背をそらせ、思わず二階堂を引き剥がそうとする。顔を浮かせた二階堂と目が合い、もう何度したかわからない口付けを交わそうとすれば、二階堂の頭が妙な動きを見せて頭と頭をぶつけてしまった。
 ごつっ。硬い音がする。
「いたたた。何度もごめんな、豪炎寺」
 大丈夫だと首を振るう豪炎寺だが、その目から涙が零れ落ちた。
「痛かったか?」
 ふるふると首を振り続ける豪炎寺。涙が頬を伝う。
「どうしたんだ……?」
「わかりません……ただ痛さではないんです……」
 痛さではない。幸せの中の不意打ちに今を振り返り、つい感極まって涙が出てしまった。
「豪炎寺…………」
 二階堂が何かを言おうとした。だが再び、突如“それ”は割り込んだ。


 ブルルルルルルル……!


 寝室の隅に移動させていた豪炎寺の鞄から携帯の震える音が鳴り響く。
「また真人くんからかぁ?」
 ははは。のんびりと笑う二階堂に、豪炎寺は詫びてから携帯の元へ向かう。
 乱れた衣服を片手で整えながら鞄から携帯を取り出そうとする。二階堂に愛撫された突起はじんじんと小さな痺れを持ち、つんと勃ってしまっていた。タンクトップに突起が擦れれば、ぞくぞくする。
「…………はい」
『修也、起きていたか』
 やはり、真人であった。
「どうした、一体」
 仏の顔はなんとやらと言うが、豪炎寺の堪忍袋はとうに切れてしまっている。
『……これから起こるからさ』
「ん?」
『覚えているか?車での事。尾刈斗でもらった“あやつり人形キット”をさ』
「ああ、そんな事あったな」
 言われて思い出す。
「遊ぼうなんて思うなよ」
『それがな〜……あるんだなぁ〜』
 もったいぶる真人の態度に豪炎寺のイライラは急速に募ってくる。
「さっさと用件を言え」
『車でさ、修也の髪の毛拾って、今組み立て中なんだ』
 へへへ。真人が笑う。
 どうだ、参ったか、と言わんばかりだ。
 イラっとしたが、思うところがあり頭が冷えてくる。
「組み立て中?」
『そうだぜ〜。髪の毛を埋め込んで手足のパーツをはめ込んでいるんだけど、なかなか嵌らなくてな。腕をこうやって、と』
 豪炎寺の直感が振り向かせ、二階堂を見据えた。
 二階堂の片腕が、上がって落ちる。
「……………………………」
 風呂で、愛撫で高まった身体の熱が冷めていく。
 ――――真人が埋め込んだのは俺じゃない、二階堂監督のものだ。
 そう、豪炎寺は確信をした。










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