秘密の一夜
- 後編 -



 停電した真っ暗な室内。周りが痛いくらいに静まっている中で、聞こえないはずの忙しない心音を捉えていた。
 ソファに横たえられた豪炎寺の上に二階堂は乗り出すような体勢で、彼女の顔を見下ろしている。
 大人の男の手は少女の手首を捉え、指先を僅かに動かすと、ひくんと動く。
「…………っ……」
 思わず目を瞑り、開く豪炎寺は瞳が潤む。
 身体は熱いのに、緊張で頭の中は冷えていた。二階堂のシャツだけを纏った下肢はすうすうとしており、めくりあがってショーツが見えていないが気になっていた。
 どきどきと豪炎寺は胸を高鳴らせている。いやらしい雰囲気でいやらしい事をされるかもしれない予感、しかも相手は大好きな大好きな二階堂。豪炎寺の脳裏に淫らな妄想が凄い速さで流れてくる。
「豪炎寺」
 呼ばれると、またひくんと動く豪炎寺。
「……すま、ん…………俺は一体なにやっているんだろう……」
 詫びる二階堂は辛そうに顔をしかめた。
 豪炎寺はふるふると首を振る。なにを言えばいいのかわからず、ただ首を横に振り続ける。そして軽く咳き込んで、口を開く。
「かんとく、の。音を聞きました……」
「音?」
「心臓」
 捉えられている手を動かし、二階堂の手の指と絡める。凍えたように震えながら、握り締めた。
「豪炎寺のも聞こえたぞ」
「いま、駄目です。凄いから……」
「どれどれ」
 二階堂が豪炎寺の胸の間に、そっと手を置く。
「ホントだ。凄いな」
 ふふ。二階堂が笑うと、豪炎寺はもぞりと実を動かし、彼を見詰めて呼ぶ。
「にかいどう、かんとく……」
 細く頼りなく、甘えたような声に、どきんと二階堂の胸が大きく高鳴る。
 愛おしくて、愛おしくて、もう我慢が出来なくなってしまう。
 ――――ちょっとだけ、ちょっとだけ、だから。
 二階堂は自分に言い聞かせながら、豪炎寺と絡めた手を解き、彼女の後ろ頭に滑り込ませて上げさせる。首が動き、唇が薄く開いたタイミングを見計らって、それに甘い口付けを施す。唇を丸ごと奪うような口付けを。
「ん」
 豪炎寺の手が二階堂の衣服を掴み、離れまいとする。
 角度を変えた数度の口付けの後、くちゅ、とくぐもった水音がすれば、手がぱたりと落ちた。二階堂が豪炎寺の口内に舌を挿入させてきたのだ。舌はぬるりと歯を割って進入し、彼女の歯列と舌に触れて絡められる。ぬるぬるとした感触、そしてくちゅくちゅとした淫らな音に、豪炎寺の頭はくらくらとして思考能力が失われていく。
「ふあ……」
 鼻の抜けたような声で鳴き、唇の端からとろりと唾液を流す。
 唇を解放させ、次は顔を横にして首筋を舌先でなぞると、びくびくと身体を震わせた。
「…………あ、っ………は………」
 そっと襟をつまみ、鎖骨もなぞってやれば、肩をぎゅうと竦める。
 頭をソファに置いてやれば、豪炎寺の身体はくったりと力が抜けており、胸を上下させて息を整えていた。顔はのぼせたように真っ赤だ。刺激が強すぎたらしい。
 二階堂はやりすぎだと反省する一方で、豪炎寺の乱れた姿に欲情を抱かずにはいられない。
「かわいい」
 つい呟いた一言を、自分の手で口を隠す。
 聞こえてしまったかと彼女の様子をどぎまぎして伺えば、ばっちりと目が合ってしまう。だがそこで悪戯心が囁いて、彼女の手を取り指先を口の中に含む。
「ひゃっ…………」
 豪炎寺は目を丸くさせて驚く。
「かんとく、やだ…………いや、です……」
 くすぐったさに笑いがこみあげるのに、息が熱く、喘いだ。
「や…………や、だ…………や、あ」
「……嫌か?」
 顔を近付け、見せ付けるように指先を甘噛みする。
 豪炎寺は唇を尖らせた。
「私も、監督にしたい」
「これか?」
 手を彼女の口元に寄せれば、ぱくりと咥える。かぷかぷと甘噛を見せ付けると、口から出して舌先でちろちろと舐りだす。その様に男性器を口で愛撫する姿を想像してしまい、二階堂の顔の熱がカッと上がった。
「こ、こら、やめなさいっ」
 声を細めて早口でたしなめる。豪炎寺にはわからず、濡れた赤い舌でぺろりと二階堂の指を舐めた。
「?」
 指を数本纏めて、じゅぷ、じゅぷ、と口で出し入れてやめようとしない。
「やめなさいと言ってるだろ」
 ――――言う事を聞かない子には。
 二階堂は空いている手で、豪炎寺のシャツの第一ボタンを外す。
 ぷつ。豪炎寺の身体が強張り、ぴたりと指をしゃぶる行為が止まった。だが怯えているようで、頭を撫でて落ち着かせる。
「ほら、深呼吸でもして」
「はい……」
 すう、はあ、と深呼吸をする豪炎寺。薄く開閉する唇と吐息が官能的に映る。
 黙りこませるために第一ボタンを外したが、止められずに残りのボタンも外していく。彼女を怖がらせないようにと心がけようとしても、手が早まってしまう。
 ぷつ、ぷつ、ぷつ。ボタンを外されていくごとに露になる豪炎寺の素肌。サッカーをやっているせいか筋肉は無駄がないのに、むちむちとした適度な肉もついている。日に焼けた褐色の肌に浮かび上がるのは真っ白なブラジャー。玄関で透けて見えてしまったものだった。
 全て外してしまえば、ショーツも露になる。薄いピンクの少女らしい色合いだった。影になっているが、やや湿っているのがわかる。なぜなら、隠そうと足をもぞつかせているからだ。
 腕を取り、袖を潜らせてシャツを脱がせ、シーツのように背に敷かせた。


「…………………………」
 豪炎寺は不安そうな顔をして、両手でブラジャーを隠す。
 二階堂は指先でストラップを通してみせ、ずらしては戻すを繰り返し、弄ぶようにからかう。
「なに、しているんですか……」
 膨れる豪炎寺。二階堂はにこにことした笑みを浮かべながら、彼女の腕をやんわりと外して、衣服越しから乳房に触れる。
 ふに、と柔らかい感触。軽く揉んでやれば、豪炎寺が甘い鳴き声を漏らす。
「は…………、んあ……」
 彼女を撫でながら頬に口付けをし、手を背中に回してブラジャーのホックを外す。
 手で乳房を包んで、寄せ上げた。つんとした勃ちあがった突起の存在も感じる。
「あ、あっ……………う…………あ」
 乳房を揉みしだかれる豪炎寺は空気を大きく取り込み、荒く息衝く。瞬きを繰り返せば涙が零れ落ちた。身体は血潮が沸いて熱く、特に下腹部がじんじんと疼き、滲んだ蜜がショーツをじわじわと濡らしてしまう。
 そこを悟られたように、乳房の愛撫をやめた二階堂は片手で肩を抱き、もう片方を下肢へ延ばして布越しに秘部に触れる。
「…………う」
 見た時には既に濡れているのは察していたが、実際に触れればとろとろになっていた。豪炎寺がこの状態では二階堂もとっくに下腹部は熱くなっており、キツくなっている。痛いくらいに性器は昂ってしまっているが、腰を引いて豪炎寺に悟られないように隠す。
 ――――挿入だけは、絶対に駄目だ。
 二階堂は生唾を飲み込み、額に滲んだ汗を拭う。漏れる呼吸は彼もまた乱れていた。己の衝動を耐えながら、豪炎寺に語りかける。
「豪炎寺。大丈夫か?」
 豪炎寺は首を横に振った。
「かんとく、変な、感じが……します。ろうにか、なってしまいそうで……」
 呂律が上手く回っていない。
「うん……うん……」
 相槌を打ってやりながら、豪炎寺の秘部の割れ目に指を這わせ、くにくにと小さく擦る。
「……っあ!」
 肩を竦ませるも、反対に股が開く。膝を大きく上げ、つま先を立てて耐えようとする。
 体験したことのない快楽の大波が豪炎寺に襲い掛かり、理性を流して本能のままに悦ばせようとする。
「ふあ、っ…………、ん……………っあ、あっ……あっ」
 腰をかくん、と揺らし、膝を震わせて豪炎寺は感じている。
 愛撫を受ける彼女は受けるだけで精一杯だが、施す二階堂側からは淫猥に身体を揺らして善がる姿に映っていた。
 秘部は触れれば触れるだけ蜜を分泌し、ショーツのクロッチの間からとうとう流れてしまう。ぐっしょりと濡れてしまったショーツは透けてしまって機能を失う。豪炎寺は気持ちが悪そうに股を閉じると、二階堂が膝裏を上げてショーツを取り払う。
 暗闇の中でも濡れそぼった秘部はわかり、足を置かせると指先で開かせた。くぷ、と水音を立たせて秘部が花開く。痙攣をさせて二階堂を懸命に求めていた。
「豪炎寺、挿れるぞ……」
 一言放ち、指を一本秘部へ沈める。人の温度と滑りに包まれたかと思うと、熱い蜜がとぷっと溢れ出た。
「あ、っんああ!」
 嬌声を上げて、大人しくなる豪炎寺。達してしまったようだった。
 完全に尽きてしまったようで、指を引き抜くとひくひくと震える秘部からとろとろと蜜を零すものの動かない。
「豪炎寺?大丈夫、か?」
 額に手をあてると、汗が付着した。
「悪かった。本当に、やりすぎてしまったな」
 豪炎寺にシャツを着させてボタンを留めさせていると、消えていた明かりが戻る。
 明るくなれば、豪炎寺ののぼせきった赤い顔が鮮明になり、二階堂はボタンを留める手を早めると彼女を抱き上げて立ち上がった。
 ぽた。蜜が零れて足の甲に落ちて、びくりと震える二階堂。豪炎寺の意識が戻る前に、ぎくしゃくとした動きで寝室のベッドに寝かせ、自分は居間のソファで眠る。自らの意思で消した闇の中で、情事の色香を感じたような気がした。






 翌朝、豪炎寺は目を擦って起きる。すると、丁度いいタイミングで二階堂が入ってきた。
「おはよう豪炎寺」
「!」
 豪炎寺は反射的に布団で顔を隠す。そうして恐る恐る顔を覗かせた。頬はほんのりと色づいている。
 二階堂も昨夜の情事を思い出して、頬を染めた。
「その……大丈夫か?」
 二階堂がベッドに座り、豪炎寺は身を起こして小さく頷く。
 けれども、急に鼻がむずむずとして、枕もと近くに置いてあるティッシュ箱を取ろうと背を向けた。
 四つんばいの体勢でシャツがめくりあがり、下着の付けられていない尻が丸見えで二階堂はぎょっと目を丸くさせる。足の間隔を開けば、尻の間から秘部と窄みまで覗かせた。
 小尻は柔らかで張りがあり、尚且つ筋肉がついているので二つの穴は締め付けの具合も良さそうで、二階堂はずしんとした衝撃を下半身に受ける。
 ティッシュを取った後で、豪炎寺は中が丸見えな事に遅れて気付く。
「!」
 ぺたんと座り込み、シャツの裾を引っ張って隠す。そうすれば今度は乳房の丸みが露になり、布越しから突起が浮き立った。二階堂が尻に敷いている布団を引っ張り、己の身体を隠す。
「見ちゃ、駄目です」
 注意する素振りがまた可愛らしく、夜も明けたというのに二階堂は柔肌を味わいたくなる。
 一度味をしめてしまえば、まったく食べない頃よりも我慢が辛くなった。二階堂は豪炎寺から視線をそらし、彼女に言うはずだった言葉を思い出す。
「え、と。豪炎寺、お腹空いただろう。シュークリームあるから持ってくるよ」
 立ち上がって寝室を出るとすぐに戻ってくる。
布団に包まった豪炎寺がベッドに座り、二階堂と並べば彼が渡してきた。コンビニでよく売られている大きなシュークリームであった。
「はい、どうぞ」
 布団から腕を出し、受け取って封を開ける。噛み付けばクリームが溢れて口の端を汚す。
「ついているぞ」
 二階堂が指先で掬い、口の中に入れる。豪炎寺が食べるうちに布団がずりおちていく。
「その、豪炎寺。昨日は悪かったな。お前に無理をさせすぎてしまった」
 豪炎寺の顎を指先がくすぐるようになぞられ、捉えられて二階堂の方へ顔を向けさせられる。
「本当に大丈夫か?心配なんだ。あんな事しないから許してくれ、二人だけの秘密にしてくれ」
「しないん、ですか……?」
 シュークリームを食べながら二階堂を見上げる豪炎寺。
「しちゃ、駄目なんだぞ」
「どうして、ですか?」
「駄目なものは駄目」
「なんで、ですか?」
 シュークリームを食べ終えると、立ち上がって二階堂の膝に座る。
「かんとく……?」
 人差し指で二階堂の胸の間を突き、くりくりと動かす。胸の奥をかき回されるように、どぎまぎと鼓動が早まった。
「秘密に、しますから」
 ぽふ。頭を胸にもたれさせ、お願いをする。
 二階堂は頬を上気させて彼女の肩を抱いて囁く。
「こーら、いつからそんな悪い娘になったんだ?」
「二階堂監督が悪い事、教えたからです」
 腕を回して体重をかけて二階堂をベッドに倒し、熱い口付けを押し付ける。
 不意打ちに一瞬、脳震盪を起こしそうになった二階堂の視界には、幼くも一丁前の色気を漂わせて男を誘う小悪魔の微笑みがあった。










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