DOLLS
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翌日。昼頃に豪炎寺はいつもの私服であるパーカーにジャンパーという姿で、二階堂の家へやって来た。
彼がやってくるという予感は、生体ドールの様子を見ればよくわかる。生あくびを何度も繰り返し、ソファに寄り添いあうように眠ってしまった。
「二階堂監督、お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな……」
直接出会い、向き合う二階堂と豪炎寺。太陽の魔力か、昨夜携帯越しから聞いた淫らな影は見えない。だが忘れたという訳ではなく、二階堂は戸惑い、豪炎寺は不機嫌そうだった。
「立ち話もなんだ、中に入りなさい」
「はい」
玄関を上がる豪炎寺。居間に入り、ソファの背もたれから覗く"豪炎寺"たちの頭に、彼は足早に歩み寄って姿を確かめる。
「これが……俺の生体ドール……」
背を屈めて01豪炎寺の肩に手を置き、顔を見据えた。生体ドールたちはぴくりともしない。本人の存在により、活動を完全に停止してしまっている。
「これが……監督、と……」
手を離し、背を伸ばすと俯く。そうして遅れて側にやってきた二階堂に向けて、呟く。
「…………かんとくの、ばか」
「馬鹿って、お前」
顔を上げ、キッと睨みつけるように二階堂を見る。
「なんで、なんで……するんですか。俺は嫌です。俺にそっくりでも、俺以外の人とするのは駄目です」
一歩前に出て、二階堂の上着を掴んだ。
「豪炎寺だってしたんだろう?」
「俺は……俺は、寂しかったから……」
「自分はよくて、俺はいけないのか?」
「……………………………」
唇を尖らせ、二階堂の胸に顔を埋めた。
ふー。二階堂は大きく息を吐く。
「本当に、埒が明かないなぁ……。なかった事になんて、出来ないし。けれど、豪炎寺の気持ちは嬉しかったよ。お前が俺の事、そうまでして必要としてくれただなんて」
「かんとく……」
二階堂に抱きつきながら、伺うように豪炎寺は見上げてくる。
「二階堂監督も、俺の事…………好き、ですか?」
「そりゃあ、な」
「好き、ですか?って聞いてます」
「好きだって。あまり、言わせるなよ」
瞬きを数回繰り返して、豪炎寺は薄く笑う。
「……やっぱり……本物の、監督だ」
「ん?なんだ……どういう意味だ?」
手で両頬を包み込み視線を交差させて問う。豪炎寺が静かに目を閉じると、二階堂は背を屈めて二人は口付けを交わす。その首に腕が回されれば、小さな身体を抱き上げた。
「知りたいなら、聞き出してみてください」
「手ごわそうだなぁ」
二人は喉で笑いながら寝室に入って、豪炎寺はベッドに下ろされ、二階堂も上がってくる。
二人横になり、ベッドが軋むと心音が高鳴った。
「さて、まずなにを聞こうかな」
覆い被さるように二階堂が豪炎寺の顔の横に手を置き、見下ろす。
豪炎寺の心音が早鐘のように忙しく鳴り出した。二階堂に見詰められるとどぎまぎする。好きな気持ちが溢れて止まらなくなる。
「昨日は俺の人形と、なにをしていたのかな」
「してたって言ったじゃないですか」
顔を背けるが、耳まで真っ赤に染まっていた。
二階堂を前にすると、嘘は見透かされそうで誤魔化しようもないので、ばればれな態度を取ってしまう。
「それは聞いたけど、どうやってしてたのかな」
顎を捉え、向き合わせる。けれども目をぎゅうと瞑って口も硬く噤む。
とても言えはしない。代わる代わる三人の二階堂を受け入れ、肉棒を両手に持ってしゃぶり、白濁を浴びていたなど。
だが、言えはしないのに来てしまった。責められるのを望んでいたように。
罪を受けるのも、罰を受けるのも、二階堂が言いと思っていた。
「か…………っ、かんとく、に」
震え、裏返りそうな声で答えようとする豪炎寺。恐る恐る、二階堂に目を合わせようと瞳を動かす。
「監督に、言えない事……いっぱいしました」
「言えない事……か。それは、いけないな……」
二階堂は豪炎寺のパーカーを掴み、ゆっくりと捲し上げていく。
外気に晒される素肌は、ひくんひくんと敏感に反応し、以前に会った時よりいやらしく映った。
「監督に、して欲しい事も、しました」
「なんだ……気になるじゃないか……」
「俺も、監督がなにをしたのか知りたいです。話して……欲しいです……」
捲し上げられたパーカーを咥え、口をもごもごとさせながら豪炎寺は言う。
「じゃあ、教えあおうか。ゆっくり、さ」
こくん。豪炎寺は頷き、パーカーを離した唇で二階堂を求め、口付ける。
二人は口付けを何度も交し合い、最中に脱がしあいながら交わろうとした。本物の豪炎寺は生体ドールと違い、慣らさねば一つになれない。ローションで絡めた指を挿入させようとするが、かなりきつい。しかも緊張しているのか身体が硬くてなかなか馴染んでくれない。しかし――――。
「かん、とく」
二階堂の指を窄みに呑み込んだ豪炎寺が、ぶるりと震えた。仰向けに転がり、彼を受け入れようとシーツを掴んで耐えている。
この姿に、本物の愛おしい豪炎寺は彼であると悟り、情欲が湧いた。
「ごうえんじ」
二階堂は豪炎寺の頭を優しく撫でて、緊張を解そうとする。
「…………っあ」
二階堂の手が優しくて、豪炎寺の身体から力が抜け、あてられていた二本の指がぬるぬると内に入り込んでくる。
「あっ………あっ、あっ……」
二階堂の存在を感じ、瞬きした睫毛が高まった涙で濡れた。中心が熱く、頭がくらくらしてぼんやりとする。
「はあ、ああ…………」
三本まとめて挿入されると豪炎寺の中心が白濁をとろとろと流した。
「あああ……あ……」
心地良くて、喉の奥から快楽に浸った長い息が吐かれた。
「気持ち、いいです。かんとく……」
気だるそうな声で上半身を起こし、二階堂に向き合うと顔を股間に埋めて彼の性器を口に含む。
「ご、ごご、ごうえん、じっ?」
「…………はむ」
まさか生体ドールではなく、本物がやるとは思いもしなかった二階堂は衝撃に目を丸くさせた。
「んっ、むぅ……………ふぅ」
舌遣いはぎこちなく、小さく震えて涙ぐんでいるが、頑張って二階堂を気持ち良くさせようと舐る。
「あ、うぅ」
ぶるっと二階堂は身を快楽に震わせた。
豪炎寺の扱き方は上手とは言えない。けれどもその未熟さに、そそるものを感じて高まってしまう。
「こ、こんなの、どこで……」
頭を掴み、顔を向けさせる二階堂。
「言え、ません……」
――――監督に、言えない事……いっぱいしました。
回答に、先ほどの豪炎寺の言葉が浮かぶ。
「そういう、事、か」
うう。低く呻き、二階堂は欲望を吐き出し、白濁が豪炎寺の顔を汚す。
とろりと頬を伝う白濁に、豪炎寺はまがいものではない本物を浴びたのだと悟り、一人恍惚とした。
「豪炎寺、なんて顔をしてる……?」
両頬を押さえ込んで二階堂が見据えてくる。そのままシーツに押し倒される。
「悪い子だ。お前はこんな真似、しなくてもいいのに……」
「俺だって……監督にして……気持ち良く、なって、欲しかったんです……」
「だとしても、だな……。ああ、俺は叱ってばかりだな……」
「叱った、んですか?」
瞳をきょろりと動かし、豪炎寺が問う。
「ああそうだとも。お前たちが勝手な事ばかりをするから……。けれど……」
「けれど?」
「駄目、だけじゃ駄目だったんだな。お前の気持ち、もっと俺に教えて欲しい」
「……………………………」
豪炎寺が目を細めて微笑み、二階堂も微笑む。
腕を回してごろりと転がり、豪炎寺が二階堂の上に跨るような形になった。そうしてベッドは再びゆるやかに軋みだす。
二人が身体の内にくすぶる炎を漸く落ち着けたのは、夕方になってからだった。
軽くシャワーを浴び、取り替えたシーツの上に転がって、二人一緒に布団に包まる。
「もう、こんな時間」
時計を見やる豪炎寺が布団の間から覗かせるのは裸の胸だった。
寄り添うように触れる二階堂の胸も裸である。
「二階堂監督」
肩口に顔を埋め、呟くように呼ぶ。二階堂は豪炎寺の髪を撫で、二人だけに聞こえる声で淡々と会話を交わす。
「俺が帰ってしまったら、あれはまた動き出すんですよね」
「ああ……。お前そっくりだから、眠らせたままになんて出来ないよ」
「そうしたら、するんですか」
「お前だってそうだろ」
「悔しいです……。けれど、貴方の事、もっと好きになる。二階堂監督は、二階堂監督です……」
やんわりと肩に触れられて肩口から離され、額に口付けをされた。
「また今度。報告、な」
「はい」
誓うように唇同士を合わせる。
環境の変化に、愛し合う二人は新しい約束を交わした。
週が明けた月曜。二階堂は03豪炎寺を車に乗せて学校へ向かう。一日おきに交代して、連れて行くようにした。
「にゃーっ」
忍び込まずとも車に乗せてもらえて03豪炎寺はご機嫌な気持ちを表現するように尻尾を振る。
「窓から顔は出すなよ」
「はい」
行儀良く返事をした。
「二階堂監督、一番から聞きました。いい子にしていたら、ご褒美くれるんですよね」
「仕事が終わるまで、決めておきなさい」
「はいっ」
「相変わらず、お前たちは元気がいいな」
はきはきとした返事に、二階堂は口元を綻ばせる。
一方、豪炎寺はというと、二階堂を一人ずつ日替わりで自室に連れて行く事に決めた。学校にいる間は元々彼らが入っていた箱に入ってもらい、夜にくつろぎながら甘い時を過ごす。
「ふー」
勉強机に向かっていた腕を上げ、背もたれに寄りかかって伸びをした。
「豪炎寺、今日はそれくらいにしたらどうだ?」
ベッドで本を読んでいた01二階堂が顔を上げ、柔らかな笑みを浮かべる。
「はい。今日の分は終わりました」
席を立ち、01二階堂の足の間に腰を置き、抱き締めてもらう。
けれども手は上着の中に入り込み、脇をまさぐりだした。
「えっ………あ。監督。そういうのは、鉄塔の小屋でって……」
断ろうとする豪炎寺だが、抵抗は弱い。
「豪炎寺?今日はお父さんも妹さんも、家政婦さんもいないんだろう?」
「……………………………」
豪炎寺は立ち上がり、部屋の電気を消した。そっと胸元を開け、ペンダントを机の上に置いてからベッドに座る。
ぎ、と鳴るベッドに置かれた手の上に、01二階堂の手が重なった。
手は重く、上げられない。01二階堂が身体をずらして豪炎寺に近付き"いいのか"と低く問う。
豪炎寺は返事をしなかった。
返事をしないまま、押し倒され、貪られる。
布擦れに紛れ、豪炎寺の唇から吐かれる濡れた息は、喜んでいるように上がっていた。
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