DOLLS
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 ぷつん。二階堂の中でなにかがとうとう切れる。
「セックスセックスってな、そんなものをいちいち口に出すんじゃない!豪炎寺は、本物の豪炎寺はそんなもの口にしない!」
 声を荒げて叱るが、当の"豪炎寺"たちはけろりとしていた。
「監督は本物ともいっぱいセックスしてるじゃないですか」
「するとしてもだ、お前たちみたいに布団や車に忍び込んだり、風呂でいきなり……な事はしないっ」
「……………………………」
 “豪炎寺”たちはなにかを言いたそうな目を向けるが、口をつぐむ。
「さて、俺は本物の豪炎寺にこれからメールするんだ」
 見せ付けるように“豪炎寺”たちが転がる布団の上に腰を置き、携帯を操作した。
「どんなメールを送るんですか?」
 にゃーあ?三人の生体ドールは二階堂の背中や腕にしがみつき、携帯画面を覗き込む。
 画面は豪炎寺宛てメールで、文面に“話があるんだ。大事な”と途中まで入力されていた。二階堂としてはここからが肝心であり、どう説明すべきか迷う。
「大事……な?」
 01豪炎寺が携帯に手を伸ばす。ただ指を差すつもりだったのだが、二階堂には勝手に文字を打たれると勘違いして遠ざけようとした手が、誤って送信ボタンを押してしまう。
「あっ……」
 慌ててメールを出し直そうとした二階堂だが、02豪炎寺に奪われる。
「はい。メールはおしまいですね」
 シーツに押し付けるような振りで置くと、“豪炎寺”たちが一斉に二階堂に重心をかけて抱きつき、シーツに倒す。
「まったくっ……!お前たちはどうして……っ」
 風呂から上がった二階堂の衣服はTシャツとジャージのズボン。三つの手がズボンのゴムを引っ張ってずりおろし、下着から性器を取り出した。
「こらっ、こらこらこらっ」
 上半身を起こし、自身の性器を見下ろす二階堂は凍りつく。
 三人の“豪炎寺”が小さい手で性器を掴み、顔を近づけて覗き込んでいるのだから。やや取り合いをしているような感触も受け、熱が急上昇して我に返る。
「じろじろ……見ないでくれるか」
「にゃー?」
「にゃーん」
「にゃん」
 猫の鳴き声を出して、聞く耳をもたない。
 れろっ。03豪炎寺が性器を舐め上げた。
 べろっ。ぴちゃっ。他の二人も続いて舐めだす。
 裏筋を舐め上げられれば、びくんと背筋が反り返りそうになる。
「ひっ」
 自分のものではないような、掠れ気味の高い声に二階堂は自分の口を手で覆う。
「だからもう、お前らは……!」
 引き剥がそうと"豪炎寺"たちの頭を掴もうとしたが、急に電話が鳴り出し、反射して携帯を手に取る。
「は、はいっ?」
『かんとく、ですか……?』
 細く問いかけてくるのは豪炎寺の声だった。携帯画面を見れば“豪炎寺”と表示されている。
「ごうえんじ……。ああ、お前の声を聞くのは久しぶりだな……。いつも、メールだったから」
『そうですね……』
 相槌を打つ豪炎寺の声色が二階堂には心地が良く、妙に照れくさい気持ちになってしまう。なかなか会えず、生体ドールとの出会いを通し、改めて自分が彼に心底惚れているのを実感した。
『それで二階堂監督。大事な話ってなんですか?途中で切れていて……気になったものですから……』
「え……。あ、ああ…………」
 二階堂は自分の股間をチラリと見る。電話で話している最中も、ドールたちは二階堂の自身をぺろぺろと舐っているのだ。彼らは本物の豪炎寺との会話が気になるのか、チラチラと性器と二階堂の顔を交互に眺めていた。
「なあ豪炎寺。驚かないで聞いてくれないか。まぁ、宇宙人と戦ったお前なら、そうそう驚かない自信があるかもしれないがな。あの、な。昨日の夜、お前にそっくりな人形……生体ドールが」
『えっ!』
「驚くのも無理はない。それは」
『監督の所にも届いたのですか?』
「監督もって……豪炎寺もあたったのか?」


「はい」
 豪炎寺は返事をして、携帯を持ち直す。
 彼はまだ鉄塔小屋にいた。いや、一晩ここで過ごすつもりでいた。“二階堂”三人と情事を交わしながら、だ。
 床に仰向けで寝て、腰を浮かせて足をがくがくと揺らされながら、01二階堂と一つになっている。結合部には既に数回吐き出された白濁が内側から溢れ出て、突かれる度にぎちゅぎちゅと卑猥な水音を立てて床に零れ落ちていた。
 上着だけシャツを着ているが、注ぎ込まれるだけではなく浴びてもいたのか、しっとりと濡れて透けてしまい、つんと勃ちあがった胸の突起を浮かせている。
 片手には携帯を持ち、もう片方は横に座る02二階堂の性器を扱いている。そして、携帯を持つ側の側には03二階堂が性器を持って豪炎寺の口元へ寄せており、彼は飲み物で喉を潤すような動作で会話をしながら、ときどき03二階堂の性器の先端を舌先で突いていた。
「俺にも……届いたんです……。監督の人形が、三つ」
 乱れる息を悟られないように、息を潜めて囁くように話す。
 彼の視線の先には高まってそそり勃つ己の性器を映していた。今にもはちきれんばかりに、膨張してしまっている。01二階堂がそれを握りこめば、果汁がはじけるように白濁が散った。豪炎寺はぎゅうと目と口を閉ざして耐えるが、押さえきれるはずもなく声を漏らす。
「うう………あっ!」
 鳴き声に、電話越しの二階堂は血の気を引かせる。
 情事中だけに出す豪炎寺の声はよくわかっていた。
『豪炎寺』
「かん、とく…………」
 二階堂の名を呼びながら、射精の余韻に内側をきゅうきゅうと締め付ける。堪らずに01二階堂が欲望をはじけさせ、豪炎寺の内に注ぎ込めば、悦とした鳴き声を二階堂に向けて聞かせてしまう。
「はんっ……!ふあ、あ……あ」
 膝裏を上げられて性器を引き抜かれれば、ひくつく窄みからとろとろとまがい物の白濁が流れる。
 豪炎寺は恍惚に瞳を潤ませて、とろんと半眼にさせた。
 はぁ……ふぅ……と、息衝く唇を、02二階堂が顎を捉えて向かせる。やんわりと性器を握っていた手を離させ、唇の動きだけで“あーん”という合図を送った。
「……………………あ……」
 言われるままに開けた口の中に、性器を扱いて放った白濁を注ぎ込む。
「ああ…………」
 舌を白く染めて、どろりと唇の端から伝わせた。涙を滲ませて目を瞑り、こくん、と喉を鳴らせて飲み込んだ。目を開けても、ぽろぽろ涙を零す彼を02二階堂が慰めるように優しく頭を撫でる。
『豪炎寺』
 強めに、二階堂はもう一度豪炎寺を呼ぶ。
『なあ豪炎寺……お前、……しているのか……』
「はい…………」
 正直に答える豪炎寺。
 三人の“二階堂”に代わる代わる貫かれる行為はまるで陵辱のようなのに、彼は喜んで受け入れて腰を振っていた。“二階堂”に何度でも愛され、直接的なまでの愛の証を注ぎ込まれ、頭は“二階堂”と交わる事しか考えられなくなっていた。
「ごめん、なさい……」
 熱く甘い息が携帯にかかる。
「……我慢……できません……でした」
『……………………………』
「……………………………」
 沈黙が走る。言葉を返してこない二階堂に、豪炎寺は目を見開いて我に返った。
「監督。もしかして、監督も」
『……………………………』
「やっ…………やめてくだ、さい!」
『すまない』
「駄目!駄目です!」
 嫌がる豪炎寺。訴える最中に、01二階堂が03二階堂と交代して、今度は彼が豪炎寺を貫く。揺らされながらも、豪炎寺は訴え続けた。
「絶対、駄目。ですからね」
『駄目と言われても……。あいつら強引で……。いや、そうじゃない。豪炎寺お前だって、俺の人形となにしているんだ!俺だって嫌だぞ!』
「埒があきません……。明日、土曜で学校も部活もないのですが、監督はどうですか」
『俺だってないが……』
「じゃあ行きます。監督のトコ……っ」
 豪炎寺の声はかなり不機嫌で、怒りが見え隠れする。
「くぅ……っ、ん!………行き、ま。行きま、……っ……すぅ」
 けれども会話の途中でドールに貫かれて喘ぐ呼吸も聞こえ、説得力がない。


「構わないが……」
 言いたい事が山ほどあるのだが、二階堂は嫉妬よりも呆れる気持ちの方が強い。真実について頑なになりすぎていた分だけ、気が抜けた感覚がある。
 そして“豪炎寺”たちはまだ二階堂の性器に群がっていた。
「……ん、ふぅ」
 舌、唾液、指、そして吐息が三人分、二階堂の性器を責め立てるのだから、理性では拒否したくても本能はたちまち膨らんでいく。
「かんとくの、おっきくなった」
 “豪炎寺”たちは性器を凝視して、玩具のように指や舌で突いて弄ぶ。
「監督、セックスしましょう」
「セックスセックス他に言うことないのか!」
 何度言っても改めない“豪炎寺”に二階堂は叱るが、携帯から本物の“カントク?”と伺ってくる声に慌てて“こっちの話だ”と答えたりと忙しい。
「にゃーん」
 “豪炎寺”たちが鳴いて二階堂の気を引かせると、性器から距離を置き、三人が並んで背を向ける。手を握り合って合図するように頭を下げ、腰を上げた。
「!!?」
 あまりの光景に二階堂はぎょっと目を見開く。
 ドールの尻に刻まれた数字が綺麗に並んだ。彼らは二階堂に自ら尻を剥き出しにして誘ってきた。
「かん、とく」
「誰からが」
「いいですか」
 尻尾を立てて揺らし、窄みを見せ付ける。
 大胆な行動ではあるが、本人たちにはやはり恥ずかしいらしく、微かな震えが見られる。しかもチラチラと様子を伺ってくるのが、余計に情欲をくすぐられた。
「どれが……って」
 誘惑の引力に、二階堂の空いた手が三つの尻の間を彷徨う。
 どれも肉付きが丁度良く、美味しそう――――締め付けが良く、気持ちが良さそうだった。
「あっ…………」
 真ん中の02豪炎寺の尻に手を当てて、丸みにそって撫でれば、ぴくぴく震え、指で窄みを開こうとすれば、くにっと容易く口を開ける。一本入れればきゅうきゅうと締め付け、二階堂は具合を確かめるように他の二人の締め付けも味見する。
「さて、どれにしようか……」
 携帯からは、豪炎寺がやめさせようと訴えるが、激しく“二階堂”たちに責められ善がっている声を同時に聞かせて、二階堂の欲情を加速させていた。
「じゃあまず、お前にしよう」
「はい」
 選ばれた02豪炎寺は自らの手で窄みを開かせて二階堂の侵入を待ち、01、03豪炎寺はしゅんと耳を垂れさせてその場に座り込み、お預けにされる。


 深い夜の中。電話でのみ伝えられる狂宴は、二人を鼓膜から理性を麻痺させる。
 自分を模した別の血肉の器が、愛おしい人を貪り、貪られる。それは悪夢にしては甘すぎて、より性質が悪く、底なし沼へと招き沈める。










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