疑惑
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 ぽた。
 雫が床に落ちる。
 ぽた、ぽた。
 二粒、三粒が落ちる。
「…………う、うう。うっ、くぅ」
 豪炎寺は零れる涙を手の甲で擦り、ぐすぐすとべそをかく。
「酷いです、監督。俺、かんとくが大好きなのに。こんなにかんとくのこと、かんがえてるのに」
「だから豪炎寺、誤解なんだよ。俺の話、聞いてくれよ」
 二階堂は豪炎寺を思い切り抱き締め、慰めようとする。
「この期に及んで、まだ嘘を吐くんですか?」
「嘘じゃない。なあ、聞いてくれよ」
 豪炎寺をその場で抱き上げ、ソファに腰を下ろして膝の上に座らせてから二階堂は己の潔癖を証明しようと、一昨日の出来事を語った。
「教え子がいきなり性転換してやってきたなんて、にわかに信じられないかもしれないけど」
「………………………………」
 睨むような瞳で、けれども二階堂の上から落ちないようにしがみついて耳を傾ける豪炎寺。
「寝室まで入ってベッドに座り込んでいたからな、おまけに香水かけてくるし。吃驚したし、気疲れしてお前に話す気力がなかったんだよ」
「………………………………」
「そいつが、俺の彼女がいないなら付き合ってやるなんて言ってきたけど、ちゃんと断った。俺には豪炎寺がいるからな」
「……ホント、ですか?」
「本当さ。俺の話を聞いて信じるか疑うかは結局、豪炎寺の気持ち次第だ。俺は、豪炎寺が大好きだよ」
「………………………………」
「………………………………」
 豪炎寺はしばし考えた後、ぽつりと呟く。表情からは怒りは失せており、不安を覗かせていた。
「……………もう一回、言ってください」
「もう一回?」
「俺のこと、好きですか?」
「好きだよ。だーい好きだ」
 すると、はにかんだように豪炎寺が微笑む。
「おれも、好きです。監督、疑ってごめんなさい。吃驚して。怖くて聞けなくて。いきなり怒って」
「俺こそ悪かった。不安にさせてしまったな。お前が不安がりそうな事は、ちゃんと話して安心させるべきだった」
 お互い謝り合い、仲直りの証として唇を合わせる。
「さて、と。これから明日までまるまる俺たちは二人っきりでいられる。豪炎寺には俺がどれだけお前が好きなのか、浮気の心配がないかを伝えないといけないな」
「俺も、いっぱい二階堂監督に好きなのかをわかってもらいたいです」
 何度も口付けを交わしてから、二人は漸く元の甘い関係に戻れた。
 さらなる深い関係になるために、甘く淫らな時が始まる――――。


「ん、ふぁ」
 浴室の中で、豪炎寺の濡れた吐息が響く。
 湯船の中で豪炎寺の身体を二階堂が後ろから包み込むようにして二人で浸かっていた。
 二階堂の手が豪炎寺の胸の突起を摘まんで擦って愛撫を施す。
「…………あっ………はぁ………う、あ」
 豪炎寺はひくひくと震えて反応すればするほど、二階堂の指はいやらしい動きへ変化していく。
「豪炎寺、気持ちいいかい?」
「あ、ふ」
 頷いて応える豪炎寺。
 やや強めに摘まんでやれば、びくん、と身体を跳ねさせた。
「ひ!」
「俺に豪炎寺の気持ちいい事、いっぱい教えてくれよ」
 くちゅ。耳の中に舌を挿入させ、抜かれて首筋を舐められる。
「んん……ふぅ」
 身震いし、甘い痺れに閉じられない唇から唾液をとろりと流した。
 くったりと力を抜き、二階堂に身を任せる豪炎寺を湯から上がらせて風呂桶に座らせ、次は身体を洗う。
 ボディソープで泡だらけにしてから、愛撫で勃ちあがった豪炎寺の性器を手で包み込む。
「はぅ!」
「乳首触っただけで勃っちゃったのかぁ?」
 からかいながら握って扱き出す。
「あうっ」
 豪炎寺は昨夜二階堂に弄られるのを想像しながら自慰をした。待ち望んだ行為にすぐさま精を吐き出してしまう。勢い良くはじけ、鼻の抜けたような声で快楽に鳴いた。
「くぅんっ」
「可愛いなぁ……そんなに気持ち良かったのか?」
 頷き、気持ちいいですと呟く豪炎寺。
 シャワーで泡と白濁を流したら、腰を浮かさせて窄みに指の腹をあてる。
「っん」
「挿れるよ?」
「ん」
 浴室では音が良く通り、二階堂の侵入に水音が鳴る。締め付けの音まで聞こえてきそうで、意識した豪炎寺は二階堂の指の感触をより鮮明に抱く。
「ん、はぁ」
 力を抜いて息を吐き、抜き差しされる指に耐える。
 くぷくぷと初めは浅い場所を行き来し、やがて馴染ませていくと奥底へ入り込み、掻き乱そうとしてくる。
「ん、んっ。あっ、あっ」
 責めが深まれば、体位を変えて座り込んだ二階堂に向き直って腰に足を絡ませた。
「かんとく、そこ」
「ここがいいのか?」
「はい」
 丁度いい箇所を二階堂に弄ってもらう。
 指の本数が増えると音はさらに大きく、卑猥になっていく。
 ずぷ、じゅぷ。二階堂の太い指は豪炎寺の窄みを押し広げ、強い刺激に豪炎寺の腰は何度も浮いてしまう。
「ひゃっ!」
 一際奥へ入り込むと、高い声で鳴いて二階堂にしがみつく。そうして耳元に甘い声で息衝き、二階堂の鼓膜をくすぐった。二階堂の性器もまた豪炎寺の淫らで愛らしい姿に欲情し、昂っていく。
「んんっ」
 窄みに性器の先が宛がわれ、豪炎寺の身体は一つになる悦びに疼く。けれどもなかなか入ってこないので、もどかしそうに腰を揺らして誘う。
「かんとく、はやく」
 視線の高さを合わせ、強請った。
「だーめ、挿れるのはベッド」
「でも」
 窄みに性器の先が触れるたびに豪炎寺が反応しているのが二階堂には楽しいらしく、焦らして悪戯をしたくなる。
「少しだから、我慢しなさい」
「やです。監督の太くて大きいの欲しい」
「だーめ」
 焦らしている二階堂であるが、内心は理性が吹っ飛んでしまいそうなほど豪炎寺と一つになりたくてどぎまぎしている。二人きりの時だけ、強請って甘えてくる豪炎寺に二階堂はとても弱いのだ。
「もう、こいつは!」
 二階堂はたまらず豪炎寺を抱き締め、頬を摺り寄せる。
 豪炎寺は不意の抱擁にもがきながら、離れまいと抱きついた。


 浴室から上がり、水気を拭ってベッドに乗れば、たがを外した二階堂の容赦のない責めが待っていた。
 豪炎寺をうつ伏せに押し倒し、腰をがっしりと掴んで激しく性器を窄みに突き立てる。
 密閉された薄暗い寝室は、ベッドの軋みと肉のぶつかる音、豪炎寺と二階堂の喘ぎで埋め尽くされた。豪炎寺は玉の汗を浮かべ、シーツを握り締めて二階堂の突きに耐える。涙が零れ、涎が流れ、性器からは白濁をどろどろ流しながら、がくがく腰を揺らす。
「ひ……あ………!ひああっ、ああっ!」
「はあっ、あっ!ああ、はっ」
 豪炎寺の一番好きな場所に到達し、擦られると脳に衝撃のような快楽が突き抜ける。
「ひぃ…………んっ!」
 涙と涎でぐしゃぐしゃな顔で、豪炎寺は二階堂を欲した。
「かん、とく。そこ、いっぱいして……!」
「ここ、か……!?」
「そこ!そこ、好き………!」
 激しい突きに、豪炎寺の尻は赤く染まる。
 二階堂の性器は豪炎寺の内をいっぱいにして掻き乱し、豪炎寺の窄みはきゅ、きゅ、と二階堂の性器を絞めつける。二人が一つになる悦びに、身も心も溶け合い、どろどろになる。
「ごう、炎寺……!」
 二階堂はぎゅと目を瞑り、豪炎寺の内に精を注ぎ込む。どくどくとした白濁が豪炎寺を満たした。
「うぁっ………!」
 一度吐き出すだけでは足らず、二度目は豪炎寺を仰向けに倒し、股を大きく割って羞恥を煽りながら抱く。
 豪炎寺の腹から結合部にかけて、二人の精と潤滑油のローションでぐしゃぐしゃになっていた。突起をつんと勃させて、はぁ、ふぅと色を含んで色付きながら二階堂の性器を窄みに咥えている。
「かんとく、の、いっぱいになって、ます」
「それは俺が、ごうえんじが大好きだから、興奮しているんだよ」
「俺もかんとくが大好きだから、ここ、ひくひくして、こっちも、びくびくして」
 窄みで締め付け、性器は吐き出しては波を取り戻すを繰り返していた。
 二階堂が豪炎寺の片足を高く上げさせると、引き締まったその肉を強く吸い付けて所有の証を刻み付ける。
「豪炎寺は俺のだからな」
「俺も、します。監督も俺のです」
 首を上げようとするが、二階堂に届かない。
「豪炎寺がするには、一回に抜かないと出来ないな」
「ま、まだっ、抜いちゃ駄目です。抜いちゃ、いやです」
 焦る豪炎寺に、二階堂は喉で笑いながらもう片方の足にも証をつける。
「監督ずるい」
「そうむくれるなよ。ほら、出すぞ」
「はっ、はいっ!…………」
 豪炎寺の内に二度目の精を注ぎ込む。びゅ、びゅ、と注がれる精を受け止める豪炎寺の姿は二階堂の瞳にしっかりと焼き付けられる。
 性器を引き抜き、窄みから白濁を零しながら今度は豪炎寺が二階堂に証を刻み返す。押し倒され、寝転がった二階堂に豪炎寺が乗りかかり、じゃれあいながら熱を取り戻して三度目の情事は騎乗位で始まった。下から突き上げ、成すがままに乱され、善がり恥らう豪炎寺を責める二階堂。何度も愛を交わし、何度も一つになりながら時間は流れて行き、やがて朝になる。






 シーツを取り替えたベッドの中で寄り添い会うように眠る二階堂と豪炎寺。先に目覚めたのは二階堂であった。眠りから醒めるなり腰のだるさを痛感して苦笑を漏らしながら隣の豪炎寺を見やる。
 豪炎寺はぐっすりと眠っており、起きる気配を見せない。昨日の激しく長い情事に身体は疲れきり、まだ目覚めないだろう。
 と、二階堂は思っていたのだが、予想を反して豪炎寺が目覚めた。
「おはようございます……」
 眼を開くが、眠そうで生あくびをしている。
「おはよう。今日は休みなんだから、まだ眠っていなさい。昨日はやりすぎたな、すまない」
 豪炎寺は首を横に振る。
「とっても、気持ち良かったです……」
「そういう事言うと、泣いても止めてって言っても止めないぞ」
「………………………………」
「もっと、豪炎寺が想像できないような、いやらしい事するぞ」
「ふふ」
 くすりと微笑む豪炎寺は、二階堂の頬に口付けた。
「かんとく」
 抱きつき、裸の胸と胸を合わせてくる。
「こーら、聞いているのか?」
「聞いてます」
「ふぅ…………」
 やれやれと息を吐いて豪炎寺の身体を丸ごと包み込む。
「なぁ豪炎寺、俺の気持ちわかってくれたか?」
「はい……。もっと知りたいです……」
 豪炎寺の眼は重くなり、うとうとと首を揺らしてから再び眠りについてしまう。
「今日はなにをする……って、眠っちゃったのか」
 安らかな寝顔に二階堂も眠くなり、昼までぐっすり眠っていた。










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