狙われたピンクのクマさん
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ソファに並んで座る二階堂と豪炎寺。二階堂に肩を抱かれながら、豪炎寺はぼそぼそと呟く。
「痴漢、とか。初めてで、とにかく、びっくり……しました」
二階堂の温もりに包まれて気持ちは落ち着いているようだが、恐怖は拭いきれていない。
彼女を心配する二階堂の瞳は真剣に見据えてくる。
「その……物騒な世の中だから、お前が心配で話せる範囲で構わない。……乱暴は、受けなかったか」
「電車は混んでいたので、そんな真似はされませんでした。触られただけです」
豪炎寺は二階堂の言う“乱暴”が強姦という意味を匂わせた事に気付かない。二階堂は最悪の事態が免れて胸を撫で下ろす。
「そうか……。きっと豪炎寺が可愛いから、狙われたんだな」
「か、かわ?」
はじかれたように豪炎寺は二階堂の顔を見上げた。
「可愛い女の子に触りたいって欲求が、男にはあるからさ。だからって女の子の気持ちを無視して触るのは許されないけどな」
「………………その、可愛いとか……言われたの、初めて……です」
「えっ。そんな訳はないだろ?」
「監督の口から聞いたのだって……」
少しだけ不安そうな表情を覗かせる豪炎寺。彼女は言葉よりも、表情で感情を訴えてくる。
「すまない……そういえば、あまり言わなかったのかもしれないな。豪炎寺、お前は可愛いよ。とても、可愛い」
二階堂は詫びて豪炎寺の額に口付けた。けれどもまだ彼女の表情は硬いまま。不安は拭いきれていない。
「しかし、だったら……どうして、なぜ、触ってくださらないんですか」
「!」
つい、豪炎寺の瞳から太ももに視線が動いてしまい、慌てて戻す。
「可愛ければ、触りたいって思うのではないですか?監督は違うのですか?」
「可愛いとは思っているよ。けど、それ以上に俺は豪炎寺の事が好きだから、触らないんだ」
「???」
「まだ子どものお前に、すけべな真似するなんて出来ないよ」
口に出してから二階堂はハッとする。禁句を言ってしまった。
「子どもじゃないですっ」
――――また始まった。豪炎寺は"子ども"という単語に過剰反応しては膨れてしまう。
「じゃあ、中学生だ。結婚出来ない年の子だ」
「けど、恋人です!二階堂さんは恋人なんです……から。恋人以外は駄目、です。胸を掴まれて痛かっ…………」
「胸!?胸まで触られたのか?」
「そ、そうです。あとは、お尻とか…………」
豪炎寺が乱暴されていないのだとわかれば、二階堂は自分より先に彼女の胸や尻を触った痴漢に嫉妬を抱く。まだそれらは我慢して触れていなかったというのに。
「許せないな、そいつは」
二階堂があからさまな欲求を持って、豪炎寺の胸や太ももに視線を注いでくる。
「許せない」
豪炎寺を引き寄せ、彼女の顔を自分の胸に押し付けた。
「か、んとく?」
「豪炎寺が怖い思いをしたというのに、俺は不謹慎だがヤキモチ、妬いた」
どきりと豪炎寺の胸が高鳴り、顔が熱くなる。
「俺だって触りたいのに……」
どぎまぎと豪炎寺の心音が早くなっていく。
二階堂が監督という立場の人間が抱いてはいけない感情を向けてくれるのが嬉しいのだ。そう、これも不謹慎な想いであった。
「二階堂監督……なら。さ、されてもいい、です。痴漢、されても、いい」
衣服越しに二階堂の胸を掴んで豪炎寺は言った。
豪炎寺は席を立ち、壁に張り付くようにそっと手を置く。
「こうやって、窓際に立っていました」
痴漢に遭った状況を説明する。
「それで、後ろからお尻を触ってきて……」
「………………………………」
豪炎寺の後ろに立つ二階堂はごくりと生唾を飲む。
室内でも豪炎寺のスカートから覗く足はむっちりと美味しそうで欲情が沸いてくる。スパッツを履いていないから尚の事、スカートが隠す尻の肉感が気になってくる。
痴漢をする側という状況に立たされ、今まで耐えてきた我慢のたががグラつく。
胸に手をあてて深呼吸をしてから、恐る恐る彼女の尻に手を伸ばす。
「こ、こう、か?」
二階堂の手はただ触れてくるだけだった。そこには豪炎寺を傷付けまいと気遣う愛情がこめられていた。
豪炎寺も触れられて、ちっとも嫌悪感が沸かない。やはり二階堂とあの痴漢は全く違うと確信する。
「撫でてくるように、触ってきました」
「こう、かな」
言われるまま、撫でてくる二階堂。
優しいその手つきは布越しに、肉との摩擦が甘い電流を流してくる。
「ひあっ?」
びくん。豪炎寺の背筋がぴんと伸びた。
「悪かった。変な触り方したか」
「ち、違います」
首を横に振って否定する豪炎寺。
気持ちが良いと感じてしまったのだ。マッサージを受けるかのように、血潮が巡ってくる。
「大丈夫ですから、もっと、撫でてください」
「わ、わかった」
さわさわと二階堂は豪炎寺の尻を撫でた。
豪炎寺はぴくぴくと震えながら、壁に額をあてて"痴漢ごっこ"という名の愛撫に耐える。
ぞくぞくした刺激は脳を揺さぶり、変な気持ちにさせてきた。
「そうやって、触られたら。次はスカートの中に手を入れられて……お尻を、揉まれて」
「スカートを?」
二階堂の胸中に引きかけた痴漢への怒りが蘇る。
つい遠慮なくスカートを思いっきりめくってしまった。ピンクのクマのバックプリントがお目見えする。
「ピンクの、クマ……さん……」
子どもっぽい柄なのに、それを包む尻は丸くてぱんぱん。アンバランスさが辛抱たまらない程の魅力を引き出していた。
「揉む……」
引き気味だった腰を引き寄せ、スカートをめくりあげたままで尻の肉を掴んで揉む。
ぐにぐにと柔らかく、ショーツから肉がはみ出そうになる。
「は………っ、……んあ………」
激しさを増した二階堂の手つきに、豪炎寺は甘く息衝く。
どんな触れ方でも、二階堂の大きな手は豪炎寺に快楽を与えてくれる。
やがてじんじんと下腹部を疼かせてきた。
「次は、次は、胸を、触られて…………」
「胸、だな」
めくりあげたスカートが落ちないように身体を密着させ、後ろから豪炎寺を抱き込む二階堂。
どのように触れられたのかを説明する前に、乳房を包み込み、寄せて上げる動きで揉んでくる。
触れた瞬間、思っていたよりも膨らんでいて柔らかい乳房に二階堂は興奮を覚えた。
「あっ!」
大胆な手つきに豪炎寺はただただ驚く。後ろ頭が二階堂の胸に触れれば、彼の心音を感じる。
だが、足が震えてまともに立っていられない。気持ちが良すぎて、頭が変になって、身体の言う事が利かなくなる。
「は、あうぅ」
かくん。豪炎寺の膝が折れ、床に座り込んだ。二階堂は彼女を受け止めるように腰を置き、抱き込み直す。
ぷつん、とまだ脱いでいなかったコートのボタンが外された。
ぷつぷつと続けて外され、優しく招かれるように脱がされる。
次はブレザーのボタンを外してシャツのボタンも外される。
「すまん、豪炎寺。我慢、出来ないよ」
「ん」
二階堂の囁きに、豪炎寺は了承するように喉を鳴らした。
ブレザーとシャツは脱がされず、スポーツブラを探られて捲し上げられる。
ぷる、と乳房が零れて直接揉まれた。敏感な箇所の肌と肌の摩擦は豪炎寺には刺激が強すぎて、壊れそうな程の快感を心身に送り込んでくる。
「ひうっ……かん、とく。そこ、そんなに、触っちゃ…………や、です」
「そこ?」
嫌だなんて言っていても、彼女が心地良さそうに反応しているのが二階堂にはよくわかる。
たがの外れた本能は、愛おしさと同時に悪戯心まで湧き上がって、意地悪に責めてしまう。
「ここ、の事か?」
きゅう。両方の乳房の突起を指で摘み、軽く引っ張るように擦り付ける。
「ひぃ、んっ!」
びくびくと豪炎寺が震えて涙を滲ませ、足をばたつかせた。
「や、あ!そこ、いや、です!」
「嫌、なのか?じゃあ、やめよう、かな?」
「だめ、です」
「どっちなのかな?」
「んぅ、ぅ」
二階堂は強弱をつけて突起を責め続ける。つんと勃って触り心地が変わり、視線は乳房から腹へと下りてくる。
豪炎寺が足を動かせばスカートが乱れてめくれ、太ももにも目が離せなくなる。どこもかしこも美味しそうで、股間が張ってきた。ここでやっと、やりすぎな行為に理性が停止を訴えてくる。
「悪かった。やりすぎたな」
二階堂が乳房から手を離すと、豪炎寺はくったりと二階堂に寄りかかった。
「はぁ…………はぁ…………はぁ」
息衝きながら、呟くように豪炎寺は言う。
「監督の、痴漢は、いけませんね……立っていられなくなって、変な気持ちになって」
スカートの裾を掴み、自ら捲り上げた。ショーツの股間の辺りがしっとりと濡れてしまっている。
「ここ、じんじんします……」
「………………………………」
二階堂はまた生唾を飲み、声を潜めて囁きかけた。
「我慢、出来ない、か?」
「監督のことを考えると、こうなるのですが、今日は、特に変です……。濡れて、汚しちゃいました」
「豪炎寺だけじゃない。俺だって、変になりそうだ」
豪炎寺をきつく抱き締め、彼女の香りを吸い込む。
「我慢、しすぎて、隠すのは良くないな……。最期までは、出来ないが」
「えっ」
「豪炎寺、あっち、行こうか。もう、痴漢ごっこはやめよう」
「二階堂、監督?」
豪炎寺の呼びかけに応えず、二階堂は彼女を抱き上げて寝室に入った。
閉じられた扉の先から、ベッドに重いものが置かれる音、濡れた息遣いと布擦れが鳴り、ときどき軋む音が聞こえていた。
数日後の夕方。二階堂が家に帰ってくると明かりが点いていた。足音を立てないように台所へ向かえば豪炎寺が野菜を切っている。
「ただいま」
「あ、監督、おかえりなさい。気付かなくてごめんなさい」
「いいんだよ、わざと気付かれないようにしたから」
くすりと微笑みながら、二階堂は豪炎寺の衣服に目をやる。
エプロンから覗くのはパーカーに短いスカートだった。
「豪炎寺、またスカートが短すぎないか?」
「そんなのを見てばかりなのは監督くらいですよ」
「そうかぁ?さて、今日の晩御飯はなんなのかな」
豪炎寺の隣に立ち、腰に回すように伸ばした手は尻に触れてくる。
さわっ。豪炎寺は思わず手を止めた。
「今、料理中です。危ないじゃないですか」
「すまんすまん」
詫びながらスカートを捲り上げた。
ぴらり。ショーツが丸出しになる。
「今日は亀さんパンツか」
「怒りますよ」
豪炎寺はムッとした表情を二階堂に向けてきた。けれど二階堂は反省の素振りもなく、ショーツ越しに尻をやわやわと撫でてくる。
「怒りますからね。台所はいけません」
「台所じゃなければいいのか?」
「っ!」
目を丸くさせた後、そっと視線を避けて小さく頷く。
そんな彼女に二階堂は愛おしさが溢れて止まらなくなる。
やんわりと包丁をまな板に置かせて抱き締めた。
「どこならいいのかな?」
問いかけながら、両手で尻を揉みしだく。ショーツが尻の割れ目に寄って亀のバックプリントがくしゃくしゃに細くなった。
「あの……!もう!怒るって言っているじゃないですか!」
揉まれる肉は熱を持ち、秘部にまで伝わってくる。豪炎寺は"怒ります。怒ります"と真っ赤な顔で見上げて訴え続ける。
「だから、どこがいいんだって聞いているんだろ?」
尻から手を離し、ショーツの皺とスカートを戻してエプロンの肩紐を摘んで下ろす。
「こないだ、と同じ所、がいいです」
「居間?それともベッドの中か?」
ベッドの中。わざと刺激的な単語を出してきた。
数日前の、甘く気持ちのいいじゃれあいの思い出を呼び起こそうとしてくる。
「意地悪、しないでください」
遠慮のない二階堂の悪戯に、豪炎寺は涙目で哀願してきた。
「意地悪なんてしてないだろう?」
二階堂が豪炎寺を抱き上げ、目線の高さを合わせてくる。豪炎寺は彼の首に腕を回し“ふとん”と囁く。
「意地悪、ごめんな」
「ほら、意地悪だったんじゃないですか」
慰めるように瞼に口付けをして瞑らせ、唇と唇を合わせた。
痴漢に遭ったのは不運であったが、打ち明けた事により二階堂と豪炎寺の関係はより深まる。
「ん、ん、ぅ」
二階堂は豪炎寺の唇を逃さず、口内に舌を挿入した。
豪炎寺はひくひくと身体を震わせて強すぎる快楽に耐えながら、離れまいと手に力をこめる。
恋人たちの甘い時間は始まったばかり。
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