先生にお願い!
- 後編 -
「さて、スリーサイズ、スリーサイズ、と」
二階堂はぶつぶつ呟きながら、手元のメジャーを引いて引っ込めるを繰り返す。
対して豪炎寺はソファに背筋を伸ばして座って待っていた。
「豪炎寺!」
「!!?」
びくっ。急に呼ばれて目を丸くさせる豪炎寺。二階堂は彼女の前に立って放つ。
「す、スリーサイズだから、まず、その、あれだ。バスト、ウエスト、ヒップであるからして、バスト、からにするか」
「は、は、はいっ!」
真面目に返事をするが、声が上擦る。
「よし、測るぞ」
「はいっ!」
二階堂はメジャーを伸ばし、豪炎寺の胸の周りを囲もうとした。けれども胸が触れそうになると、離しては測り直す。
――――どうやっても触ってしまう。触らなければならないが。
触れなければ測れないのだが下心に自覚がある分、躊躇いに手が引っ込んでしまう。
「監督、早く測ってください」
恥ずかしそうに顔を背ける豪炎寺。
「わ、わかってる」
決意して豪炎寺の脇の間にメジャーを通し、背中で止めて数字を見ようとした。だが服のせいで正確な数値にならないのを悟っている。
「……ふぅ」
メジャーを戻し、その場に膝を突いて息を吐く。
こほん。軽く咳払いをして正直に話した。
「豪炎寺。実はだな、上手くいかないんだ」
「そう……なんですか……?」
豪炎寺は二階堂を見下ろす。
「服が……遮って、さ」
「は、はぁ」
「脱いで欲しい。それと、立って欲しい」
「ぬ…………………」
なにかを言いかけて薄く開いた唇は閉じた。
「……………っ!」
すっくと立ち上がり、制服のシャツのリボンに手をかけてほどく。はらりと二階堂の膝の上に舞い降りた。
「!」
びくりと肩を揺らす二階堂。どきっとした。
動揺を悟られないように立ち上がれば、豪炎寺は真っ赤な顔で俯いて制服のシャツのボタンを外している。ぷつ、ぷつ、ぷつ――――。首から鎖骨、胸元へと褐色の肌が露出されていく。じろじろ見てはいけないとわかっていても横目でチラチラと伺い、どぎまぎしていた。
女子中学生の脱衣姿に興奮など、あってはならない罪なのに。
「…………………………」
シャツを脱いだ豪炎寺は軽く畳んでソファに置いた。下着はスポーツブラで、スカートを履いたアンバランスな格好は男にとっては刺激になる。
「ど、どうぞ。測ってください」
細く言う豪炎寺に、二階堂はメジャーを背中から通し、胸の前で止めた。今度は測りやすい。
「よ、よし。…………センチだ」
「はいっ」
二階堂の告げた数値を書き込む豪炎寺。
「ふう……次はウエストか」
「…………………………」
豪炎寺はスカートのホックを外し、黙々と脱ぎだした。
「あっ…………ええと……」
あまりにもすぐ脱ぎだしたので、二階堂はかける言葉が見つからない。
「スカートも、脱いだ方がいいですよね」
「あ、ああ。そうだけど」
こくこくと頷く二階堂。
豪炎寺のショーツは真っ白で、小さなリボンがついている。下着にハイソックスも刺激的であった。
二階堂は豪炎寺から目が離せなくなり、視線に気付いている彼女は己を抱き締めるように胸元を隠して恥らう。
「じろじろ見ないでください」
「す、すまん。つい、可愛くて」
「…………………………」
頬を染めて顔を逸らす二階堂と豪炎寺。沈黙が走るが、二階堂が咳払いをして破る。
「さあ、ウエストを測るよ。キュッと締まってるな」
「や、やめて、ください。そんな言い方」
「次はヒップだ。いい形だよ」
「だから、いや、です」
「褒めているんだって」
「しかし、監督」
豪炎寺は羞恥で頭が沸騰しそうだった。
彼女がウエストとヒップのサイズを書いている最中も二階堂は褒めるのをやめない。
「ナイスバディじゃないか豪炎寺」
「もう、やめてください」
怒り出そうとする豪炎寺だが、二階堂に抱きすくめられて言葉を失う。
「……っ!」
「やっぱり……他の男に見せるなんて、嫌だよ」
「ですが監督、フィギュアですよ」
「…………柔らかいなぁ……」
抱き締めた感触を零す二階堂。この柔らかさと温かさは本当の彼女と愛し合う二階堂しか知らない。
「なぁ豪炎寺。お前はいっぱい有名になって、たくさんの男がお前に憧れていくんだ。なぁ、どうする?」
「どうもしません。私が愛するのは二階堂監督だけです」
二階堂の腕の中から顔を出し、豪炎寺は微笑んで見せた。その微笑に二階堂は魂もろとも射抜かれてしまう。真っ赤な顔で口をぱくぱくさせる二階堂に豪炎寺は彼の胸に身を委ねて抱き締め返した。
そうして抱擁を終えると、他のサイズ測定に入る。
「ええと、次は乳輪らしいが……」
「はい」
豪炎寺は二階堂の目の前でスポーツブラを捲し上げた。乳房が零れ、突起は果実のように色付いて浮き上がる。メジャーでは測り辛いが、押し付けるようにして測ろうとする。
「悪いな、こういう測り方しか思いつかなくて」
「い、いえ」
やや痛そうな反応を見せる豪炎寺に、二階堂は早めに切り上げようとした。
「乳輪はこれで良し、と。さて次はなんだ?」
「足の、サイズです」
「足か…………スリーサイズの前に測れば良かったな」
しゃがみこむ二階堂。彼女の足にメジャーをあてた時、もしここで顔を上げたのならかなりの絶景な予感に手が止まりそうになる。
「二階堂監督?どうかしましたか?」
「なん、でもない」
頭を振るう二階堂。初めは彼女をからかったものの、下心に囚われすぎている自分に罪悪感が沸く。
「悪いな。真面目に測らないとって思っているのに、普通に出来ない」
「平然とされたら、それはそれでショックです」
「そ、そうか……足は測れたぞ。次はなんだ?」
「い………………い、陰毛の、色だそうです…………。これが、最後です」
「わかった……」
立ち上がる二階堂。豪炎寺と見つめあい、放つ。
「豪炎寺も、わかったな」
豪炎寺は頷き、ショーツに手をかけた――――。
豪炎寺が用紙を提出してから数ヶ月後、彼女のフィギュアが出来上がる。かなりの出来栄えであり反応は好評、世に溢れるサッカーファンの男たちを魅了した。
二階堂の寝室の棚の上にフィギュアは飾られ、豪炎寺が遊びに来ると二人寄り添って眺める。
「これ、腕が回るんですよね」
「そうだぞ。ファイアトルネードは箱の写真を見ながらじゃないとポーズが決められないなぁ」
足を上げさせようとするとパーツが外れそうになり、ショーツが見えた。
「細かいところまで……」
「細かいのはパンツだけじゃないぞ」
ユニフォームを取れば、乳房が現れる。
「本物よりおっぱい大きいかもなぁ」
「監督?」
フィギュアを弄る二階堂の手をつねる豪炎寺。
「いや、まぁ、本物がいいけどな」
豪炎寺の衣服の手をかけようとする二階堂であるが、彼女に華麗にかわす。
「まだお風呂に入っていないから、駄目です」
「一緒に入るか?」
「…………………………」
言葉に詰まる豪炎寺に、すかさずつねられた手で彼女の手を掴んで捉えた。
頬を赤らめるが抵抗しない様子に、彼女の意図を悟る。
「お前はフィギュアじゃないから、洗って綺麗にしないと」
フィギュアを置いて立ち上がる二人は、手を繋いで浴室へ入っていった。
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