儀式
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 二階堂が動くと、ベンチが軋む。豪炎寺も二階堂に合わせて揺らした。
 二人の結合部からは卑猥な水音が立ち、くぐもった息遣いが室内に響き渡る。
「あっ……は」
 豪炎寺は揺らされる度に乳房が揺れ、その間には玉のような汗が浮かぶ。首にはペンダントが絡み付いていた。二階堂の前に晒される素肌を尾刈斗の部室の明かりが浮かび上がらせ、情欲を掻き立てる。欲望を突き立てれば突き立てるほど、彼女は乱れた。
「豪炎寺」
 名前を呼ぶと、二階堂は豪炎寺の足を閉じさせ、膝裏を上げさせる。秘部が彼の目の前に丸出しになった。
「監督っ……こんな格好……!」
 羞恥に身を焦がし、豪炎寺は自分の顔を両手で覆う。だが両手首を押さえられて上げられて暴き、二階堂は容赦なく豪炎寺を貫く。深く深く二階堂は豪炎寺に入り込んでいく。
 いつも二人が誰にも知られずに交わしていた秘め事では、二階堂はいつも豪炎寺の様子を伺いながら接していた。時にもどかしさを感じてはいたが、二階堂はそういう人なのだと豪炎寺は思い込んでいた。
 けれども今、力任せに豪炎寺は抱かれている。今の自分は本当の自分ではない。しかし、二階堂はどうなのだろうか。何が本当で何が偽りか。男の身体とは異なる快感を一身に受けていた。
「……あっ……あ、あ、あっ……」
 がくがくと揺らされ、豪炎寺の唇から零れる音は善がるように抜ける。
 二階堂は額の汗が髪を張り付かせるが、気にもせずに情事に没頭した。豪炎寺の内は理性を吹き飛ばすほど気持ちが良く、全てを呑まれてしまいそうな危険性を持っていた。新たに湧き上がった欲望は、早くも限界の時を迎える。白濁の欲望が、豪炎寺の内に注ぎ込まれた。
「はあ、はあ……」
 二階堂は息を吐き、額の汗を拭う。気だるい腰を引き、豪炎寺から自身を抜いた。
 豪炎寺も、ぐったりと力を失う。そんな豪炎寺の秘部に二階堂は手を伸ばして指で開いてみせる。秘部は震えて二階堂の精を受け入れており、呑み込めなかった分が溢れ出ている。
「監督。何をしているんです」
 秘部を手で隠す豪炎寺。その格好に、目の毒だと二階堂はくらくらするのを感じた。
「いや、ちゃんと出せたか確かめなきゃと思って」
「本当……ですか」
 ベンチに座り直し、身体を寄せて顔を覗き込んでくる。


「どうだろう」
 とぼけてみせて後ろに手を回して抱き寄せ、膝の上に乗せた。曝け出されたままの二人の性器を擦り合わせ、抱き締める。
「お前はこれで本当に戻るのかな」
 豪炎寺を気遣うような事を言いながら、両手で乳房を揉みしだく。わざと怒られそうな、淫らな手つきで弄ってくる。
「豪炎寺。さっきはすまなかった。先生、大人気なかったな」
 後ろから首、耳の後ろに口付け、頬を摺り寄せた。
「俺も……本当は、監督に女扱いされるのが怖かったんです。俺はどうせ男だから……」
「どうせ、なんて事はないだろう」
 手を止め、目を瞑って温もりに浸る。だが正直にも自身は三度目の欲求を迎えてしまう。
「二階堂監督、今日は随分と張り切るんですね……」
「本格的にお前に搾り取られかねないよ」
 豪炎寺が腰を浮かせ、二階堂自身を呑み込みながら、もう一度膝に乗る。
 今度はゆっくりと揺らし、じっくりと味わうように抱く。
「監督。気持ち、良いです」
「俺もだよ」
 顔を見合わせ、はにかみながら快感に浸る。
 二階堂が何度も口付けをしてきて、こそばゆさに豪炎寺が身を捩じらせていると――――
 コンコン。扉から控え目なノックの音が聞こえた。
「あの。地木流ですが、まだですか?」
 二人は硬直して顔を熱くさせる。待たせている身だというのを忘れて、二戦目の真っ最中であった。
「は、はい!今着替えていますから!」
 二階堂は豪炎寺を立ち上がらせ、衣服を整え、情事の跡を掃除しだす。
 ほとんど裸同然の豪炎寺は着替えるのに時間が掛かった。
「豪炎寺、大丈夫か」
「はい」
「開けるからな」
 豪炎寺に確認を取って、扉を開ける二階堂。
「その……お待たせしました」
 にっこりと微笑む。
「……上手くいきました?」
「出来たとは思いますが」
「それは良かった」
 地木流は豪炎寺の身体を上から下へと眺め、ある事を思い出した。
「忘れる所でした。私のホイッスル、どうしました?あったでしょう?」
「何の事です?」
「あれ、私の物なんですが……返してもらえませんか」
「存じません」
 ははは。爽やかに笑い、二階堂は豪炎寺を引いて階段を上りだす。
 大事な人の大事な場所に入っていたホイッスルを返すつもりは無い。抗議しないだけでもマシだと思って欲しかった。
「……?」
 首を傾げながら、地木流も二人についていく。
 外へ出ると、涼しさに息を吐いた。
「お二人とも、中は暑かったですか?汗もかかれたようですし、シャワー室があるので案内しますよ」
「それは有り難い」
「はい」
 部室近くの建物の中に入る。その中は部室棟になっており、シャワー室があった。
 自然と寄り添う形で入ろうとした二階堂と豪炎寺に、地木流は釘を出す。
「今度は手短にお願いしますね」
「は、はい」
 いそいそと歩調を速めて扉を閉めた。


 シャワー室は個室ではなく、共同の流し場になっている。
 着替えようと上着を脱いだ豪炎寺は、思わず声を上げた。
「あ」
「どうした?」
 二階堂も“あ”と声を漏らす。
 豪炎寺の胸は元の男性らしい胸板に戻っていた。ハーフパンツのゴムを引っ張って下肢を見下ろせば、男性器が見える。豪炎寺は元の性別に戻ったのだ。
「良かったな」
「はい」
 二人は水場に入り、身体を流す。
 二階堂がシャワーを浴びている横で、豪炎寺はうがいをしてから彼の腰にしがみついた。
「ほら。地木流監督が手短に、と言ったろう」
 ホースを取り、頭の上にシャワーを浴びせて窘める。
「監督。俺は男で良かったと思っているんです」
「ん?」
「監督は男子サッカー部の監督じゃないですか。男じゃないと出会えなかった」
「そうだな」
 口元を綻ばせ、二階堂は豪炎寺の髪を額から後ろにすいてやり、背を屈めて顔を近付ける。
 豪炎寺は踵を浮かせ、目を閉じた。
 唇と唇が触れようとしたその瞬間、シャワー室の扉が一気に開かれる。
「そこの監督と生徒!ちゃっちゃと上がれよ!」
 地木流が豹変して怒鳴りつけ、扉を閉めた。
 シャワーを止めて、二階堂が一言言う。
「地木流監督ってよくわからない人だな」
「二重人格らしいです」
 豪炎寺がきっぱりと答えた。






「私はともかく、部員も待たせているのを忘れてもらっては困ります」
「反省してます」
 腕を組み、大股で前を歩く地木流の後ろで肩を落とす二階堂。豪炎寺も同じような反省のポーズを取った。
 グラウンドが見えてくると、何やら怪しげな陣のようなものが描かれており、三人は目を細めて凝視する。
「なんなんですか、アレ」
 二階堂が地木流の横に並び、指を差す。地木流は肩を竦めて手を上げた。
「あ、二階堂監督〜っ!」
 木戸川の部員の一人が手を振って駆け寄る。
 続いて他の部員も尾刈斗と一緒にやって来た。
 彼らは元に戻った豪炎寺を見て歓声を上げる。
「わ、凄い!戻ってる!」
「そっか、ヤっちゃったんだ……」
「あー、ヤったんだ……」
「こらこらこら」
 不謹慎発言する部員を注意する二階堂の横では、豪炎寺が質問責めに遭っていた。
「なあ、監督はどうだった?」
「上手かった?下手だった?」
「ふ、普通」
 無難な答えを述べるが、耳は正直に赤く染まる。
 地木流はというと、冷静にグラウンドの陣について尾刈斗部員を問いただしていた。
「あれは一体なんですか?」
「昨夜やった儀式を見様見真似で拡大しました」
「なんて事を」
「いや……木戸川と仲良くなったら、彼らも失敗して女の子になりたいと言い出しまして。俺たちも失敗したくなったので、皆で作ろうって話になって」
「儀式はね、遊びじゃないんですよ……全く」
 ふー。溜め息を吐き、額に手を当てる地木流。
 手を下ろすと、グラウンドに入って靴で陣を消し始める。
「ああ!」
「せっかく描いたのに!」
 部員は口々に不満の声を漏らすが、どこか明るく和やかだ。


 その少し後に、雷門へ豪炎寺から“今日は練習に行けない”とかなり遅めの連絡が入ったのだった。









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