儀式
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「有難うございました」
 握手を交し合う尾刈斗と木戸川清修。
 1−2という結果で練習試合は木戸川の勝利で幕を閉じた。
「さて、と」
 地木流は手を合わせ、豪炎寺の肩を持って木戸川の方へ向かせる。
「木戸川が勝利しましたので、貴方がたのご希望通り豪炎寺さんの意思を尊重して戻る相手を選ぶ、という事で良いですね」
「はい」
 頷く二階堂。次に木戸川の部員も頷く。
「俺は」
 豪炎寺が口を開く。顔をしかめて木戸川から視線を外し、肩に乗った地木流の手に自分の手を重ねた。
「俺は……地木流監督が良いです」
「…………………………」
 二階堂の目が一瞬見開かれ、傷付いた顔をする。すぐさま戻すが、衝撃を受けたのは彼だけではない。
「おい豪炎寺!てめえいい加減にしろよ!」
 屋形が前に出て声を荒げる。
「そうだよ!誰の為に俺たちが勝ったんだと思ってるんだ!」
「そんなに地木流監督が良いってのか!?」
 他の部員も意見した。
「頼んだ……覚えは無い」
 言い放つ豪炎寺。
 豪炎寺に回りくどい事は出来ない。直球な言い方は直球に胸にぶつかる。
「あの、地木流監督」
 西垣が挙手をして地木流を見据えた。
「勝利した木戸川に選択権がある、という事で宜しいでしょうか」
「ええ、そうですね」
「では、条件を変えても良いですか」
「はい、お好きに」
 地木流は豪炎寺の肩から手を離す。
「なら、地木流監督……いや、尾刈斗以外…………いやいや……」
 西垣の顔が二階堂を見上げる。


「二階堂監督、ヤっちゃってください!」


「…………え?」
 二階堂の顔が思いっきり引き攣った。
「そうですよ!もうこんな奴ヤっちゃってください!」
「滅茶苦茶にヤっちゃって良いですよ!俺たちが許します!」
「豪炎寺なんか!豪炎寺なんか!」
 騒ぎ出す木戸川に、二階堂が一喝する。
「お前たち!言葉を慎みなさい!それに先生が生徒に……」
「あ、尾刈斗の校則では呪いなどを治す為の性交は許可されていますので、校内でしたら構いませんよ」
 二階堂の後ろでぽつりと呟く地木流。
「しかし…………」
「ウチに勝利した貴方の生徒たちは、貴方を望んでいる。もう決まっていると思いますが」
 二階堂が振り向くと、地木流が手招きをする。
「さあ、来てください。幽谷くん、私がいない間、木戸川の方たちのお相手をして差し上げなさい」
「はい」
「二階堂監督、豪炎寺さん、こちらへ」
「…………………………」
「…………………………」
 歩き出す地木流の後を、二階堂と豪炎寺はついていった。






 グラウンドを離れると、地木流は口を開く。
「場所はどこが良いですか。ベッドは生憎、保健室にしかありません。部室は地下にありますので、隠れてしたいのなら、そこが良いですね」
「部室にしてください」
 豪炎寺が言う。
「豪炎寺が良いのなら、そうしてください」
「わかりました。部室はこちらです」
 サッカー部・部室に繋がる地下への階段の前で地木流は立ち止まる。二階堂と豪炎寺も足を止めた。
「この下が部室……?」
 あまりにも独特で不気味な場所に二階堂は呟く。
「豪炎寺さんは先に行っていてください。私は二階堂監督と話があります」
「はい」
 階段を下りていく豪炎寺。二階堂は横目で心配そうに彼の背中を見つめていた。
「二階堂監督」
 地木流に呼ばれ、二階堂は視線を彼に移す。
「貴方にお任せするとなった以上、説明する必要がありますね」
「説明?」
 地木流は語る。
 今の豪炎寺は人ならざる存在、夢魔に近いものになっていると。夢魔は対象の理想の姿で現れる。豪炎寺のままで女性化した彼女はまさしく、二階堂の理想の姿。豪炎寺も彼を愛するからこそ、避けた行動を取っていた事を――――。
「豪炎寺さんを許してやってください」
「……そ、それはその、最初から怒ってなどいませんが」
 口ごもる二階堂。柄にも無く顔は熱い。
 豪炎寺との関係を悟られた上に、隠された感情まで暴かれては平生などいられない。
「部室の鍵をお渡ししておきます。これで誰にも邪魔されないでしょう」
 二階堂の手に部室の鍵を握りこませる。
 近付いた地木流の瞳が二階堂の瞳を捉えた。
「あ、ちゃんと膣に出してくださいね。そうしないと戻れませんから」
「わかってますよ……」
 奪い取るように鍵をジャージのポケットに入れ、二階堂は階段を下りて行った。
「愛が恋人を救うのでしょうか」
 一人残った地木流が天を仰ぎ、頬を掻く。愛だなんて痒くなる。
 自分で言ったものの、虫唾が走ったのだ。


 階段を下りた二階堂は重い扉を開けた先にある、おどろおどろしい内装の部室を反射的に引き下がりたくなるが、踏み出して中に入ると幾分かマシなベンチに豪炎寺が座っていた。
「…………………………」
 扉に鍵を閉め、二階堂が隣に座る。
 二人きりだなんて今までもたくさんあったが、隣の女性が自分の理想の姿だと言われれば、どうしても緊張してしまう。
「豪炎寺」
「はい」
「その、大変だったな。先生、あんな風に避けられるとさすがに傷付いたが、地木流監督から話を聞いたよ」
「はい……」
「あのな、豪炎寺……俺……」
 二階堂が豪炎寺の方を向く。その首の角度で彼は固まってしまった。
「…………………………」
 豪炎寺の視線はずっと二階堂の下肢に注がれており、頬を上気させて聞こえるくらいの呼吸をしている。
 先程まで“女性としての豪炎寺を抱く”という課題をどう彼である彼女を傷付けずに行おうか考えていた。だが実際、危険なのは自分自身ではないのかと、漸く二階堂は気付いたのだ。
 夢魔というからには、自分の男としての精を全て絞り尽くされかねない。もはや、危険な猛獣の住む檻に入り込んでしまったのも同然であった。
「豪炎寺。どうしたんだ?ん?」
 優しく話しかけるが、どうもこうもないのは二階堂自身がよくわかっている。
「監督……俺……もう……」
 ぺた。豪炎寺の手がベンチにつき、乗りかかるような体勢になる。
「我慢できない!」
「ち、ちょっと!待ちなさい!待ちなさい豪炎寺!」
 手を前に出して待ったをかけるが、そんなものをおかまいなしに豪炎寺は二階堂のズボンに手をかけた。
「うわ、おい!やめなさい!」
 下ろされたズボンから見えた下着も下ろされ、簡単に取り出されてしまう自身。
 豪炎寺はそれを掴み、下肢に顔を埋める勢いでしゃぶりだした。
「……んっ………は…………」
 舌に唾液が絡んで、ぴちゃぴちゃと音を立てる。豪炎寺の熱い息もかかってくる。
「こら……やめ、なさい……!」
 豪炎寺の髪を押さえ、引き剥がそうとした。
 だがそこには、色に呑まれた瞳でうっとりと二階堂自身を愛でる愛おしい人の姿――――
 ごくり。二階堂の喉が鳴り、言葉を失う。
「……あっ……」
 湧き上がる快感に二階堂は身を震わせた。
 豪炎寺は的確に二階堂の気持ちの良い箇所を刺激してくる。愛撫し、高め合った事はあるが、自身を舌で舐らせる事などさせた覚えは無い。
「…………ふ、………うう」
 豪炎寺は二階堂自身の先端を舌で器用に突いて、ときどき上目遣いで彼の様子を伺う。
 感情が昂っているのか、目元には涙が浮かんでいる。拭いもせずに、先端から滲み出る蜜の方をいじらしく舐め取るのだ。
「こら、豪炎寺……そんなもの……どこで覚えた……」
 息を乱し、途切れ途切れに二階堂は言う。頭が快楽の波に押し流され、淫らな思考が沈殿していく。残った理性が豪炎寺から視線を逸らす。
「お前は、そんな事、する必要は無い。離れなさい……」
 髪を掴んだ手を揺らす。そろそろ本気で顔を離させないと、吐き出した欲望をかけて汚してしまう。
「二階堂監督、そろそろ出るんですか」
「いい加減にしなさい」
 厳しい口調で豪炎寺を見据える。欲求を必死に耐えているせいか、睨みつけるような目つきになった。
「監督の、こんなになって……」
 豪炎寺は嬌笑を浮かべ、限界寸前の鈴口に口付ける。わざと音を立たせて、いやらしく唇で吸い付けた。
 相手の気持ちを知ったうえで、わざと試す行為をしている。その姿はまさしく悪魔であった。
「俺の口に出してください」
 口を大きく開けて、ぱくりと咥える。まんまと嵌り、二階堂は果ててしまう。
「うあ……っ……」
「んん」
 どくどくと豪炎寺の口の中へ二階堂の精が溢れ、端から顎を伝い、流れ落ちる。
「ん」
 豪炎寺が目を硬く閉じると、溜まった涙が伝い、喉を鳴らして精を飲み込んだ。
「んう」
 零れてしまった分も指で掬い、舌で舐め取って胃に納める。
 こんな淫らな姿、こんな卑猥な行為を、今まで豪炎寺は見せた事は無い。これも儀式のせいかのかと思うと、二階堂は怒りさえも湧いてきた。


「やめなさいっ!」
 豪炎寺の手首を掴み、口から離させる。
「なんてはしたない!豪炎寺、お前はそんな子じゃないだろう!」
 圧し掛かり、ベンチに組み敷いた。
 二階堂のいつになく怒りに満ちた、強引な態度に豪炎寺は目を白黒させている。
「すぐに俺が元のお前に戻してやる……!」
 二階堂のもう一方の手がハーフパンツのゴムを掴む。その途端、豪炎寺が抵抗を始める。
「やめてください!嫌です!」
「何が嫌なんだ。戻れないんだぞ!」
「しかし!」
 豪炎寺はハーフパンツを押さえ、取られないように身体を丸めた。しかし空しく、剥ぎ取られて下着も脱がされてしまう。
「…………っ」
 秘部を見た二階堂の動揺が、空気で伝わる。
 豪炎寺の秘部は既に溢れた蜜で濡れそぼっていた。だが問題はそこではない。秘部に何かが入り込んでいるのだ。それは太股にかけられた紐に繋がっている。
「監督…………」
「…………………………」
 二階堂が紐を引っ張り、取り出す。それはホイッスルであった。
 中までたっぷりと豪炎寺の蜜で満たされ、とろりと滴る。
「豪炎寺。これはなんだ。説明なさい」
 ホイッスルを握り締め、命令口調で二階堂は放つ。
「俺が……後半戦が耐えられないからと……地木流監督が……」
「地木流監督のなんだな」
「はい」
「豪炎寺が自分で入れたのか」
「いいえ。入れてもらいました」
 正直に答える豪炎寺。
「いけないだろう。さすがにそれは……先生……俺は、許せないぞ」
「ごめんなさい」
 謝るのだが、秘部は二階堂を求めて物欲しそうにひくついている。
 二階堂もまた怒りと嫉妬が入り混じるのに、戻って来た欲求の波が自身に血液を集める。
「豪炎寺」
 二階堂の手が豪炎寺の顔の横に置かれ、見下ろしてきた。
 その下では上着が捲し上げられ、胸元に巻かれた包帯を解かれる。
「今日は、おいたが過ぎるな。いくら、事情があっても……だ」
 口調は落ち着いているのに、手つきは荒々しい。豪炎寺は腕を動かし、二階堂が上着を脱がし易いように袖を通させる。ペンダントと靴下以外を取り払われてしまった。
「お前には優しくしたいのに、大事にしたいのに、そんな事されたら出来なくなりそうだ」
 大人の男の手が乳房に触れる。揉む動作で手を僅かに下げ、指が突起を転がした。
「……う……っ……」
 ひくりと肩が揺れ、小さく震える。今度は摘ままれると、堪らず声を上げた。
「あ!」
「豪炎寺。お前は男の子だろう」
 随分と、酷い言い方に聞こえる。
 手はさらに下りて腹を伝い、秘部に触れた。指を蜜壺に這わせ、浅く抜き差しする。
「……は………っ、………は……っ……」
 胸を上下させ、熱い息を吐く。二階堂は豪炎寺の身体を舐めるように眺め、反応を冷静に伺う。
 一瞬、躊躇うような動きを見せるが、肉芽をきつめに擦りつける。
「いっ!」
 腰が浮き、ぽたぽたと蜜がベンチに落ちた。愛撫を止めない二階堂に豪炎寺は哀願する。
「二階堂監督……挿れて……早く……挿れてください…………」
 足を震わせ、閉じるようにして耐えながら訴える。
「……またそんな事を言って」
 体勢を変え、腰を掴んで自身を秘部にあてがう。合わせるだけで、入り込もうとしない。
「悪い子だ」
 擦りつけ、焦らせる。
「では、どうすれば良いんですか」
「もっと言うべき事があるんじゃないのか」
「監督が…………二階堂監督が、好きです。抱いてください」
「ああ、良いよ」
 二階堂が腰を沈めだす。二階堂自身が、豪炎寺の内へ入り込んでいく。
「あ、あ…………」
 息を大きく吐き、豪炎寺は二階堂を受け入れた。
 二人の視線は自然と互いを映す。ただでさえ速い鼓動が、さらに鼓動が高鳴った。










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