ドキドキハラハラ。トキメキが欲しい貴方へ。
漫研がお送りする、サッカーラブコメディ。
[恋の稲妻☆ラブズマイレブン]
桜舞う雷門中。長い艶やかな髪をなびかせた女生徒・風丸(仮名)は校門をくぐった。丁度、スカートの中身が見えるアングルで。踏み込む太股は勇ましくも悩ましい。
彼女はテニス部の二年生で、朝練に入る前にいつも遠回りをする。友人の円堂がいるサッカー部の様子をそっと眺めるのだ。サッカー部は部員不足で廃部寸前。風丸としては助けてやりたいのに、女の身ではそれも出来ない。
「あっ」
風丸は何かにぶつかり、その場に尻をつく。股を開いて中身が見えるアングルで。
「どこ見てんだよ」
上から聞こえる男の声。見上げようとするが、丁度落ちてきた桜の花びらが邪魔をする。
払ってもう一度見れば、既に後姿。花びらと共になびく色素の薄い髪が印象的であった。一瞬、目を奪われそうになる風丸。我に返って立ち上がった。
「おい!そっちがぶつかってきたくせに」
「なに?」
男は振り向き、鋭くも美しい視線で睨む。モロにカメラ目線だ。
二人の間に春特有の強い風が吹いた。
無言で視線を交差させる二人に円堂(仮名)が駆け寄ってくる。
「何やっているんだ。風丸、豪炎寺」
「豪炎寺だって」
声を上げる風丸。豪炎寺(仮名)といえば、最近サッカー部に入部したプレイヤーだ。かなり強いとの噂で円堂が加入を喜んでいた。
「会うの初めてだっけ。コイツは豪炎寺。で、コイツは風丸だ」
「ふん……」
豪炎寺は鼻を鳴らし、風丸を上から下へと眺める。もちろん胸とスカートのアップはかかさない。
「文句があるならサッカーで勝負しよう。俺はサッカーでしかやりあわん」
背を向けて去る豪炎寺。
「円堂。いくら強いたってあいつはなんなんだよ」
「ごめん。後で言っておく。そうだ、聞いてくれよ。あと一人でメンバーが揃うんだ」
「ホントか。良かったな。あと一人のあてはあるのか」
「あー…………」
ははは。笑って誤魔化す円堂。
「あと一人、揃えば試合が出来るんだよな」
己の胸に言い聞かせるように風丸は呟く。すかさず胸のアップ、強固な乳首の形がくっきりしているのは忘れない。
豪炎寺の言葉で、風丸の中で何かの決心が生まれていた。
その日、サッカー部に11人目を名乗る少年が現れる。
「俺を入れてくれ」
己を指で差す。
「お、おま…………」
円堂は少年を指差し、震えた。彼には正体はとっくにわかっていたのだ。
「俺の名前は風丸。宜しくな」
「うわあ」
頭を抱えてしゃがみ込む円堂。他の仲間たちはメンバーが揃い、喜んでいた。
風丸はテニス部を辞め、サッカー部に男装して入ってきたのだ。胸は何かで押さえているのか平たい。
「円堂。試合をしたいだろ。気にすんなよ、なんとかなるさ」
とびっきりの笑顔を円堂に向ける風丸。豪炎寺はというと、部室の端でクールに見詰めていた。
「あ」
豪炎寺は目を丸くした。突然、原稿が奪われたのだ。
奪い取った本人、横に座る風丸の原稿を持つ手はぶるぶると震えている。
「こ、この女……何かあるたびにチラッチラッチラッチラッチラッチラッパンツを見せやがって……」
風丸は足を閉じた。
「落ち着け。読みきらん事には文句はつけられないぞ」
原稿の位置を二人の間に戻す豪炎寺。
「なんかお前、楽しんでない?」
「まさか」
風丸の瞳がぎろりと豪炎寺を見据える。
「そりゃ豪炎寺さんは二枚目で描かれてるもんなー。事あるごとにパンツ丸見え胸バーンの俺なんかとは違うさ」
「あのな落ち着けよ。いちおう、主役なんだぞ」
受け止め方によっては突き放したような物言いだ。
「さてと、続きは」
続きのページを読み始めた。
メンバーが揃い、すぐに試合となった。
熱く、燃え上がる戦い。大地を蹴る臨場感も伝わってくる。
しかし、やはりお色気は逃さない。
風丸は相手のジャッジスルーを胸に受け、ボールの摩擦によってユニフォームに裂け目が出来る。隙間からは白い下着が覗いた。
「な!」
反射的に胸元を手で隠す。幸い、見られてはいないが、これでは試合が出来ない。
――――はっ。
背後にかかる影、肩に何かが覆いかぶさる。
豪炎寺が自分のジャージを風丸に羽織らせていた。
振り向く風丸の瞳は恋する乙女のものであり、視線に応える豪炎寺の顔はまさしくヒーローであった。
ページをめくる度に青春の日々は過ぎていく。
着替えを見られるドッキリ、偶然押し倒されるドッキリ、妹を恋人と勘違いするドッキリ。ありとあらゆるアクシデントがお色気と混ぜ合わせられ、風丸と豪炎寺の恋は加速を増す。けれども恋焦がれながらも、なかなか素直になれない二人。じれったく、もどかしく、甘酸っぱい。
そして、フットボールフロンティアを制覇した日。あの日、二人が初めて出会った桜の木の前に、風丸は豪炎寺に呼ばれた。太陽は傾き、季節は過ぎ去った桜は紅く色付いた葉を纏う。
先に訪れた風丸は、豪炎寺がまだ来ていない事に腹を立てる。
「なんだよアイツ。自分から呼んでおいて」
腕を組んで待つものの現れず、帰ろうとした時、豪炎寺はやって来た。
「おせえよ!」
怒りながら振り返る風丸は、豪炎寺の抱えたサッカーボールに気付く。
「ここで交わした事を、急に思い出してな」
「え?」
「俺はサッカーでしかやりあわん、と」
豪炎寺は後ろへ下がり、距離を取って風丸に向かって叫ぶ。
「受け取れ!これが俺の気持ちだ!!」
ボールを高く蹴り上げ、飛び上がる。
回転する足は炎を呼び起こし、燃え上がった。
「ファイアトルネード」
ゴッ!炎を纏ったボールは風丸目掛けて飛んで行く。
風丸は動じず、静かに構えを取り、見事に受け取る。
しかし、受け取った炎の衝撃が風丸の胸を貫いた。
「これは……!」
どくん。胸が高鳴る。稲妻のようにそれは体中を駆け抜け、血潮を騒がせた。
そんな風丸の前に華麗に降り立つ豪炎寺。
「風丸!」
「豪炎寺!」
抱擁を交わし、どこか遠くを見上げる二人。
そこには一番星が輝いていた。
おしまい。
「……悪夢が終わった」
風丸はソファの背もたれに寄りかかり、大きく息を吐く。このまま魂まで口から出てしまいそうだった。
「ちっ。散々やらしかった割には普通に終わりやがって」
豪炎寺は不満を零しながら原稿をまとめる。
「なんだよお前!」
風丸はいきなり復活して豪炎寺の胸倉を掴んだ。
「ほら見ろ、楽しんでいたんじゃないかっ。そりゃお前は楽しかっただろうさ」
「おいおい。漫画だろ。気軽に楽しめよ」
「気軽、だあ!?」
風丸は掴んだ手を引き上げて、立ち上がった。
「この裏切り者!」
風丸の拳を拳で受け止める豪炎寺。次は蹴りを蹴りで受け止める。
この動きは――――!
直感しても無駄であった。身体に染み込んだ動きは理性では抑えきれない。
「こんな漫画!」
風丸が原稿を宙に放り投げ、蹴り上げた。豪炎寺もつられて同じ動作をする。
「こんなヒロイン!」
風丸が飛び上がれば飛び上がった。
「燃えてしまえ!!」
ガッ!同時に蹴り込むと炎が舞う。
炎の風見鶏によって、ラフ原稿は塵と化した。
「あ〜、僕はまだ読んでいないのに」
手をかざす漫画の指の隙間を灰が流れていく。
「ふふふ。厳しいね、キミは」
早乙女はにこにこと笑う。他の漫研の部員にも大した痛手は感じられなかった。
まるで、こうなる結果を予想でもしていたかのように。十分ありえる事態なので、凄さは感じないが。
「俺たちの戦いは終わらないからね。良い参考になったよ。完成、楽しみにしていてくれ」
「この期に及んでまだ描く気か!」
「キミたちだって、試合に負けても何度でも挑戦するだろ?」
「ふん。這い上がったら、その様を見ても良いぜ」
豪炎寺は不敵な笑みを浮かべ、風丸の首根っこを引っ張って店を後にした。
店を出るなり、風丸は豪炎寺の手を引き剥がして抗議する。
「おい!あいつらをやめさせないと!」
「無駄さ」
「もう豪炎寺は帰ってくれ。俺一人でも」
戻ろうとする風丸を豪炎寺は止めた。
「だから無駄さ。何をしても奴らは諦めない。あくまで予想だが、あれは宣戦布告だ。何が何でも戦うってな」
「うるせえ。あいつらが完成させて配ってきたら、今に見てろよ」
風丸は大股で帰路を歩き出す。
「必殺技が追加されているかもなあ」
後ろで豪炎寺は呟き、頬を掻いた。
「そうだ。しまっ……」
立ち止まり、額を叩いて振り向こうとした時である。
風丸と豪炎寺の前を歩いていた女生徒の短いスカートがひらりとめくれた。
下着の柄はしましま。つい視線は釘付けになってしまう。
「…………見たか」
「おお」
女生徒が行ってしまった後でこっそりと話し合う。
「その、ほら。スカートがめくれるのは大事なのさ」
「うーん…………いや、いやいやいやいや」
頷きかけた頭をぶんぶんと振る風丸。
いつの間にか豪炎寺が横にいて、二人は並んで帰った。
「嫌なもんは忘れて、明日もサッカーするぞ」
伸びをするように、風丸は両腕を上げる。
「俺、男で良かったー……っと」
「サッカーするだけなら男でも女でも。……なんでもない」
怒りの気配を察し、首を振った。喧嘩をするつもりは無い。苦し紛れの適当な話題を振って、他愛の無い雑談に持ち込んだ。
歩く二人の背は、サッカーをする時よりも心なしか疲労している。風丸のポニーテールがその名の通り、尻尾のように揺れていた。
ニューヒロイン誕生
- 後編 -
風丸と豪炎寺が帰ったメイド喫茶では、反省会という名の打ち合わせが行われていた。
早乙女は中央に立ち、ときどき顎に手を添えて語る。
「いやあ素晴らしい必殺技だったね。俺たちの漫画は男女のラブコメを基本とし、戦いによって芽生える男同士の友情も描いたけれど、決定的に欠落していたものがあったよ」
「はい」
漫画で大笑いをさせるのが夢の、男子生徒が挙手した。
「男女、男同士とくれば、女同士ですね!」
「ご名答」
早乙女が指を差し、まばらな拍手が鳴る。
「ラブコメに集中するあまり、女同士だからこそ入り込めるディープな世界を見落としていたよ」
ははは。早乙女が笑えば部員も笑う。
風丸たちは漫画に詳しくないので気付かなかったが、もはやラブコメではなくエロコメだ。
「シャワーで一緒に洗いっこしたり、身体を触りあうんですね」
「いきなり胸をもみしだく身体検査もお忘れなく」
「おっと、うっかりしていたよ」
和やかな雰囲気ではあるが、内容はえげつない。
「これこそマネージャーの出番かな」
日高が呟く。
その隣で黙々とスケッチブックに向かっていた漫画が顔を上げた。
「こんなのを考えてみた。どうかな」
皆に見えるようにかざす。
そこには長髪外ハネ眼鏡のお嬢様という、誰かと誰かと誰かを足して三で割ったような娘が描かれていた。
「良いね。この娘は何かやってくれそうな夢があるよ」
「風丸くん、豪炎寺くん、見ていてくれよ。完成版・ラブズマはもっと凄いぞ!」
早乙女が拳を掲げると、部員たちは立ち上がり、同じく天に向かって拳を上げた。
漫研の戦いは終わらない。
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