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-後編-



 上を見上げると、多い茂る葉が見えた。その隙間から、青い空と流れる雲が見える。
 翌朝、ジャミル一行は宿を出て森の中を横断して、目的地へ向かっていた。
 だが、アクシデントというものは旅には付き物である。


「さて、どうしたもんか」
 ジャミルは背を幹に付け、短刀を片手に深呼吸をした。
 森の中という狭く、足場の悪い場所で大型の魔物2体に出くわしたのだ。初めて見る、一癖も二癖もありそうな魔物が2体。2手に別れて、1体ずつ倒すという作戦に出た。
 ジャミルとバーバラ、そしてダウドと他2名という組み合わせ。バーバラはジャミルが身を潜める木の上で待機している。武者震いか、歯がガチガチと鳴った。短刀を咥えて震えを抑える。
 魔物の足音が徐々に近付いて行き、もうじき攻撃できる範囲に入ってくる。
「よし!」
 ジャミルが前に出て、姿勢を低くして魔物へ立ち向かう。続いてバーバラが葉の群れから飛び出し、魔物の頭に足を付け、ステップを踏んだ。そうして舞うように高く飛び上がり、背後に着地する。
「バーバラ!」
「わかった!」
 大型剣を振るい、胴を目掛けて斬り付けた。ジャミルはさらに屈めると、剣が彼の背の上を通過する。魔物の身体は体液を噴き出しながら真っ2つに切断された。
「ジャミル!」
「任せとけ!」
 バーバラの声に応えてジャミルは前もって組んでおいた印を完成させ、術を叩き込んだ。魔物は沈黙したようで、ぴくりとも動かない。
「先手必勝だね」
 安堵に息を吐き、バーバラは武器を下ろす。
「だな」
 ジャミルも武器をしまった。


「ジャミル、ダウドの方へ行かなくて良いのかい」
「大丈夫だろ」
「ちょっと、驚いたよ。ジャミルはダウドと組むとばかり思っていたから」
「そうだなぁ。盗賊業の時だったら、そうしていたかもな。あいつ、一人にしておくと危なっかしいから。今も変わらないけどな」
 昔を懐かしむように、目を細める。
「じゃあどうして組まなかったの」
「今は、心配よりも信頼が上回るからか。いや、信頼していないって訳じゃなくて……」
「そこまで言わなくても良いよ。わかったから」
 言い訳を始めようとしたジャミルを、バーバラは柔らかい笑みで止めた。
「どうしたの、今日は随分とお喋りじゃないかい」
「そうか?」
 決まり悪そうに、手を頭の後ろへやった。


 ジャミルとバーバラは合流場所へ行くと、ダウド達も別の道からやってくる。見た所、特に大きな怪我はないようだ。リーダーとして、ジャミルがまとめる。
「皆、無事のようだな。不調があったら言ってくれ。またいつ襲われるかわかんねぇから、このまま突っ切ろう。途中、湖があるらしいから、休憩はそこでする」
 仲間達はジャミルに従い、目的地へ向かって歩き出した。やがて道の先が明るくなると、湖に出て、彼らは休息を取る事にした。
 ある者はほとりへ座り込み、ある者は水に足を付けて浮腫みを癒す。ダウドは仲間達から離れ、草のベッドに寝転んでいた。




「ダウド」
 呼ばれて目を開けると、ジャミルが見下ろしている。逆光を浴びて、表情は良く見えない。
「おねんねか?」
「そ、仮眠」
 寝返りをうって、目を逸らす。ジャミルは苦笑して、横に座った。
「何か用?おいら怪我してないよ」
 背を向けて、身体を丸め、くぐもった声で言う。
「何も言ってないだろ」
「おいらヘマしてないよ」
「わかってるよ」
「皆に迷惑かけてないよ」
「わかってるって」
「じゃあ何?」
 ダウドは身を起こし、ジャミルの方へ向き直る。
「何って、ただ話しがしたかっただけだけど」
 きょとんとして、ジャミルは言う。


「どうしておいらに任せたのさ」
「任せた?」
「さっきの、アレ」
「ああ」
 魔物との事を言っているのかと、理解する。
「ダウドなら出来るって」
「本当に?」
「ああ、認めてるよ」
 認めている、その言葉にダウドは目頭が熱くなるのを感じた。
「ダウド?」
「ジャミル、今の本当?」
 ダウドは手を突いて、ジャミルに迫る。
「え?ああ、お前、頑張ったな」
「……………………」
 ずずっ、ダウドは鼻を啜った。涙ぐんでいるらしい。
「ダウド?」
 ジャミルにはダウドの涙の理由はわからず、戸惑うばかりであった。
 やや泣きの交じった声で、ダウドはぽつりぽつりと語り始める。
「皆がね、おいらを褒めてくれるんだ。強くなったって。嬉しいはずなのに、しっくりこないんだ。おいらね、頑張ったんだよ。ヘマしないように。ジャミルに言われて、今初めてホッとした」
「……………………」
「皆がいるはずなのに、ジャミルがいないとね、おかしいんだ。今までたくさんの人に出会って、ジャミルともたまたま一緒にいて、そのまま来たんだって思ってた。でも、違うみたい。上手く言えないけれど、違うみたい」
「あ」
 何かを思い出したように、ジャミルは声を上げた。
「どうしたの?」
「今、言葉が浮かんだ」
「え?」
「俺、お前とだから、ここまで来れたんだ」
 そう言って、ダウドの頬に手をあてて、顔を近付ける。


「お前だったから、だよ。他でもないダウドだから、俺は信頼できて、こうして話がしたかったんだ」
「おいらも、今ジャミルと同じ事が言いたかったって思った」
「なんだか、えらい普通の事みたいだけどな」
「そうだね。どうして気付かなかったんだろう」
 視界がぼやける程まで、密着させて喉で笑う。笑い声を止めたのは、どちらが仕掛けたのかはわからない口付けであった。

 唇を合わせて、一度離すと吐かれる吐息が、やけに熱い。もう一度合わせる時は角度を変えて、舌を挿入させる。
「ふ」
 口の隙間から、音が漏れる。そこから水のように飲み込めない唾液が伝う。
 ジャミルの舌がダウドの歯列をなぞり、割って侵入してくる。ダウドは舌先でジャミルの舌に触れるだけで、絡めようとはしない。瞳は互いの姿しか映っておらず、盲目なものであった。
 場所が離れており、ジャミルが仲間達の方向へ背を向けているので、愛の囁きは見えはしない。
 口内を味わったジャミルの舌は、ダウドの開かれた瞳を綺麗に際立たせる下まつ毛をなぞる。反射的に瞑った瞼に、音がするように口付けを落とす。
「くすぐったい」
 ダウドは半眼を開き、ジャミルの中心へ視線を落とし、そっと手を伸ばした。指先が、布越しに自身に触れる。
「せっかちだな」
「だって休憩なんてあっという間だよ」
「忘れてた」
 指先が腰布を通って中へ入る前に、ジャミルはダウドの腰を引き寄せ、肩口に顎を乗せて身体の距離を縮めた。ダウドもジャミルの肩口に顎を乗せるが、仲間達の様子が見えてしまい、頬を一人染める。思わず手が止まってしまった隙に、ジャミルの手がダウドの腰布を潜って、下着を通り、直接自身に触れた。

「待って待って」
 ダウドもジャミル自身に直接触れようとするが、見えないので場所がわからない。その間にもダウド自身はジャミルの手によって愛撫を施される。箇所を捕らえ続けられると、自身は変化して、蜜が零れだす。
「うぁ…」
 快感に、前屈みになりそうになるが、体勢からジャミルにしがみつく形になってしまう。
「おいおい、怖気づいたか」
 なかなか触ってこないので、そっと囁きかける。
「ち、ちが………見えないんだって」
「しょうがねえなぁ」
 ジャミルはまた、喉で笑った。
「ダウド」
 身体を離させ、ダウドの腰を浮かしてズボンと下着をずり下げると、欲望を吐き出させる。そのまま力が抜けたように、へたり込むダウドを見ながら、手に付着した蜜を見せ付けるように舐め取った。
「ジャミル様はお優しいから、次の機会を待ってやるよ。夜になりゃ、時間はたーっぷりあるんだし」
 そう言って、ニッと笑う。何かを含むように、目はスッと細められる。
「全然、優しくない……」
 溜め息混じりに呟くが、ダウドの口の端は上がっていた。










エロスシーンは本当にいらなかったですね!
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