東京の空
休み時間、不二は菊丸の席へ遊びに行った。
「英二、何読んでいるの?」
「別に」
菊丸は読んでいたものを閉じ、鞄に仕舞おうとする。
「隠さなくても良いじゃない」
端を摘んで、仕舞われるのを防ぐ。
「英二、こういうのも読むんだ」
菊丸が読んでいたのはタウン誌であった。
「そういう時もある」
「見ても良い?」
「良いよ」
不二は雑誌を手に取り、パラパラとページをめくってみる。各スポットの紹介写真は、写真好きの不二にとって行く気が無くても興味深かった。
「………………」
あるページが目に留まり、開いたまま机に置く。
「これ、よくCMで流れるね」
「やっぱそうなんだ…」
「やっぱ……って何?」
「何でもにゃいにゃい」
菊丸はパタパタと手を横に振った。
「大石が手塚と行きたいって誘ったらしいけど、駄目だったって」
「素早いね」
「夜景を見に行きたかったらしいけど、大石を見ている方が良いからって」
「お疲れ様」
「うん」
パートナーにとって大石の惚気話の回避は難しい。
「………………」
不二は新名所の写真に視線を落としたまま思う。
タカさんと行って見たい。
ライバルのアイツに越されないように、思い立ったらすぐ行動と、昼休みに河村を誘ってみた。
タカさん、行ってみない?と。
しかし、河村が答える前に言ってしまう。
「タカさんは興味ないかな」
断られるのが怖くて、自分から話を振ってきたのに引き下がってしまう。
「え?行ってみたいよ」
「ほんと?」
「不二の行って見たい所、俺も行ってみたい」
ぱあっと不二の顔が輝いた。
「ほら、ご飯食べないと食べる時間なくなるよ」
河村は時計を気にして言う。
「そうだよね」
幸せな気持ちで腹が膨れそうだった。
そして河村と一緒に新名所へ行った不二であったが、入り口の前で立ち尽くした。
「……………は?」
見知った顔が、待ち構えていたからだ。その名は、やはり亜久津である。
「奇遇だな」
「奇遇だね」
のんびりと亜久津と河村は挨拶を交わす。
「タカさん!君は騙されているよ。奇遇なんて有り得ない。僕達は仕組まれているんだ」
河村の服の裾を引っ張って、不二は意見する。
「ええ?でもせっかく会えたんだし、良いじゃない」
良くないよ!ぜんっぜん良くないよ!1人騒ぎ立てても不利になるだけなので、抑えた。
「せっかくだ。一緒に行こうぜ」
「そうだね」
そうだね、じゃないよ!突っ込みたい気持ちが満載だが、河村のそんな所が好きな不二であった。
でかしたぞ、太一。
亜久津は心の中で壇を褒める。
彼の携帯のメールには、壇の送った捜査記録が入っていた。
当の壇は翌日、亜久津から昼食のデザートを奢って貰う事になる。
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