<<DY>>

 人の顔を見るなりポカンとした顔をするものだから、その原因になっているだろうブツを外して相手に押し付けてやる。
「うわっ?! なにすんだよ!」
「それはこちらの台詞だ」
「や、オレ何するって言われるようなことしてねぇぞ」
 突然強引にかけさせられた眼鏡のフレームを指で支え、ユーリは目の前の男に呆れた顔を見せる。

「顔をみるなり間抜けな面とはご挨拶だな」
「ああ…、いや、ちょっと驚いて…」
 謂れのない非難だと思っていたが、そうか、驚いた顔がバカにしているように見えたのか、とユーリは軽く口ごもった。
 自分はただ――
(初めて見るけど、妙に似合うなって…)
 人間離れした風情が、少しは人間っぽい気配になったような気がして…今思い返すと少し嬉しいかもしれない。
 そう思えはするが、デュークに面と向かってはなんとなく口に出せない。
「気にしたなら悪かったよ」
 斜めになった眼鏡を支えたまま、レンズ越しに目の前の美貌をちらと窺う。
 表情が読みにくいが、長年の付き合いでなんとなくわかるようになってきた。勘で。
 今は――どうやら機嫌が浮上したらしい。
(…なんでか、っていう理由はあんまりわかんねぇんだよな)
 眼鏡を取り返しもせずなぜか至近距離に迫ってきた赤い瞳に、ああキスされるんだな、と悟ったユーリは抗いもせず静かに瞼を閉じた。


 以前、あまり度の入っていない眼鏡をひとつだけ作ったことがあった。
 確か仕事の付き合いだったか…気分次第でかけてみるのもよかろうと、たまに引っ張り出して使っていたような気もする。が。
(そういえば、これを見せるのは初めてか)
 ユーリの眼鏡というのも自分は見たことないな、と些か損ねた機嫌のついでに、かけていたものを外して押し付けてやったのだが……、………。
 新鮮さというのは得てして良いスパイスになるものだが、今回も例外ではなかったらしい。
 度のない眼鏡のレンズ越し、上目遣い気味に見返してくるユーリの視線がたまらなく――。
(なぜこうも、誘っているような…)
 不思議に思いながらもデュークはその吸引力に逆らいもせず、ユーリの唇に自分のそれを静かに重ねていった。