<<RY>>
「あれ、おっさん目ぇ悪かったっけ」
声と同時に、後ろから延びてきた手がひょいとフレームをつまんで引っ張る。
突然視界に入った白い指にドキッとしている間に、その指はレイヴンの眼鏡をするっと奪っていった。
「あー、言うほど悪くはないんだけど、たーまにかけてるわよ」
「ふーん…」
「あれ、知らなかった?」
「初めて見た、かな」
細いフレームをもてあそぶように眼鏡を弄るユーリがふいと顔を背ける。
ほんの一瞬目を伏せたユーリに首を傾げ、
「どうし――」
「これ、老眼鏡か?」
絶妙のタイミングで投げられた問いに、レイヴンはつかの間絶句した。
「ちょ…おっさんまだそんな年じゃないわよ?!」
青年酷いーーー!
顔を覆って泣きまねを見せる。
いや、結構本気でショックではあったのだが。
だから――レイヴンはユーリがかすかに漏らした含み笑いに気付かなかった。
レイヴンが真顔で眼鏡をしている姿が別人のように見えて――気付かれていないのをいいことに、ユーリはしばらくぼうっとその姿を見つめていた。
軽く息を詰めて。
(髪…下ろしてなくてよかった)
間違っても当人に言えはしないが、そんな姿を見つけた日には……。
想像しただけで耳の先に熱が上るのを自覚する。
(ええい、くそっ!)
自分ひとりがこんなにうろたえるなんてあんまり悔しいから、気付かれていないのを逆手にとって背後から眼鏡を奪ってやった。
ついでに、老眼鏡かと憎まれ口も叩いて。
泣きまねをしてみせるレイヴンに、安心したのは内緒だ。
この姿なら自分の手の届くところにいてくれる、そんな勝手な自己満足だなんて――。
この男にそんなこと言ってやるもんか。