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 何故、その時に限って、彼に会いに行ったのかのかは解らない。
 ただ、何か予感めいたものを感じて、滅多に足を踏み入れない彼の領域に向かった。
「珍しいね」
 突然の来訪にも関わらず、いつもと同じ穏やかな微笑が迎えてくれる。
 まるで、来るのを待っていたように。予知していたかのように。
「また、地上に行くのかい? アイゼイヤ」
「どうしても、気になるんだ」
 何が、とは聞かなくてもわかる。例の、彼を苛む疑問。その答えを探したいのだろう。
 此処最近、彼が地上に降りる回数が増えてきている。けれど、その度に、彼の中で、昇華できない想いだけが募っているようで。
 真面目な彼にとって、それがどれ程の苦しみになっているのか。
 けれど、天界しか知らない自分が、その答えを彼に授けることなどできるはずもない。疑問を共有することさえ、出来ないで居る。
「止めないのかい?」
「どうしてだい?」
 表情を変えないまま、世間話の一環のように軽やかな口調で投げられる友の疑問に、ユーデクスは首を傾げる。
 左右で色の違う瞳を穏やかに細め、微笑んで。
「君は、私に黙って消えたりしないだろう?」
 言葉にしてくれただろう?
 何があっても、自分を置いていかないと。黙って、消えないと。
「そんな事もあったね」
 まだ、この疑問に囚われる前。無邪気に永遠を信じていた時間の中で。
 そんな言葉を、交わした。
 それでも、やはり姿が見えない時間は不安になる、から。
「アイゼイヤ」
「うん?」
「どれだけ時間がかかってもいい。
 ……答えを見つけたら、私のところに、かえってきてくれるかい?」
 その先の約束を求めるように、問いかける。
 微笑で平静を装っていても、その奥にある懇願の色は抜けない。そんなユーデクスの様子に、双生の友は何を思っただろう。
「私がかえる場所はひとつだ、ユーデクス」
 そう答えるアイゼイヤの、いつもと同じ温和な笑顔は、いつもと同じ純白の美しさを湛えていて。
 白色の結晶のような綺麗な瞳に映るのは、紛れもない自分。
 それを認識するだけで、ユーデクスの心は不思議と静けさを取り戻していく。
「そうか」
 安心した笑顔で、彼はそれだけを呟く。
 そうして、目の前に居る友の温もりを求めるように、静かに歩を進め距離を詰める。躊躇いがちな仕草で友の肩に額を寄せれば、迎え入れるように優しい手が頭を撫でてくれた。



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