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「ユーデクス様、失礼します!」
息せき切って駆け寄り、膝を付く一人の天使。
部下を連れ立って歩いていたユーデクスは、静かに足を止めた。
「おや、君はアイゼイヤのところの天使だね」
良く連れ立って歩いているのを見た事がある。アイゼイヤの部下の一人だ。
「なんですか、急に……ユーデクス様は今お役目を終えられたばかりで……」
突然の来訪に眉を寄せる部下を、どこか冷たい雰囲気さえ漂う微笑で制する。
どうもこの部下は、自分に心酔しすぎており、そのせいで他の天使への当たりが強くなることがある。仕事は有能だし、とても真面目で良い天使なのだが、人付き合いというか……天使付き合いは苦手なようだ。
ユーデクスは同じように微笑をアイゼイヤの部下に向け、来訪の理由説明を促した。
「構わないよ。それで、どうしたんだい?」
「あつかましいお願いで恐縮ですが、アイゼイヤ様の居場所を探して頂きたいのです」
膝を付く天使の言葉を聞いたユーデクスの中に、驚きは無かった。
とうとう、この時が来たのだな、と納得したような、寂しさが過ぎっただけで。
表情を変えず、ユーデクスは会話を続ける。
「戻っていないのかい?」
「……はい。地上に向かわれたまま、長く帰還されておりません。
気配を辿ってみましたが、隠伏されているのか、私共の力では感知できず……ユーデクス様なら、とお願いに参った次第です」
「解った。やってみよう」
「ユーデクス様!」
あっさりと頷くユーデクスに、部下が顔色を変える。
地上に留まる天使の探索は、ユーデクスの役目ではない。
越権行為とまではいかないが、役目を終えたばかりの体で広範囲の……まして、気配を隠伏している智天使の捜索は負担が大きいと思ったのだろう。
「大丈夫だよ。それに、私も彼の居場所が気になるからね」
見つからないだろうけれど。
半ば確信に近い呟きは口に出さず、ユーデクスは長い黒髪を優雅に翻し、足を踏み出す。
「私の部屋に行こう。流石に、媒体が無ければ私にも難しい」
「お手を煩わせて、申し訳有りません」
「彼が戻らなければ、役目が回らないのは此方も同じ。気にしなくて良いよ」
不自然なほどの落ち着いた穏やかな笑顔で、ユーデクスはそう答えた。
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