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主に下位の天使が思い思いに羽を伸ばす、地上の四季を模した下層。
その夏の森の木陰で。
「ベ〜リスっ♪」
み〜つけたっと嬉しそうな声で、レイシオは無邪気に笑った。
人間にすれば10歳前後の幼い外見年齢。健康的な褐色の肌と対照的な、薄桃色のふわふわの髪。ぴょこんと髪の間から飛び出した、三角の獣耳。良く見れば、足の後ろで髪と同じ色のフサフサした尾がゆらゆらと揺れている。
明るく煌く大きな瞳は、鮮やかなエメラルドグリーン。何より目を惹くのは、その背に生えた、立派な四枚翼。
そう、彼は、上級天使に分類される、智天使の位にあるのだ。とはいえ、愛玩動物のような愛くるしい容姿と豊かな表情、良く下層に降りてきては下位天使にも気さくに声をかけるその性格は、他の智天使達より親しみやすいといわれているのだが。
「ねー、ベリスってば〜!起きてよー」
起きて起きてーと、彼は階級に反する子供じみた仕草で、横になった一人の天使を容赦なく揺さぶる。
青年に分類されるだろう、レイシオよりも年上に見える外見年齢。カラメルのような褐色の肌。長いみつあみを下げた髪は鮮やかな赤色で、まるで炎のように美しい。寝転ぶ背中から生える一対の翼は、天使には珍しい太陽を思わせる黄金色だ。
ベリスと呼ばれた天使は低く呻き、眠りを邪魔する相手に背を向けるように寝返りを打った。
「うるせぇ。俺は眠い」
「やだぁ!起きてよー!」
異論は認めない。しつこく揺さぶられ、とうとうベリスは観念したように瞼を開けた。
翼と同じ、美しい黄金色の瞳が幼い天使を映す。
「んだよ」
掛けられるのは、やや乱暴な口調。
だが、ようやく視線を向けてもらえたレイシオは、それに怖気づくこともなく、にっこりと微笑んだ。
「地上に行こうよ!」
「はぁあ?」
「あのね、ファルクスが、地上ですっごく綺麗な花を見つけたんだって! 桜って言ってたけど。
で、ほら、僕って地上に不慣れでしょ? ベリスに案内して欲しいなぁって」
ファルクスとは、レイシオが兄と慕う智天使の一人。ベリスの数少ない友でもある。
「桜、ねぇ。
案内も何も、俺はしらねぇぞ、場所なんて」
「えぇ〜!」
「ったりめーだろ。戦闘中にそんな余裕あるかよ」
ベリスの主な役目は対悪魔部隊である能天使の統括だ。後方で戦略的を立てるレイシオとは違い、他の天使達と共に前線で戦ながら指揮を取る現場担当。
当然、地上に居る間は悪魔と戦っていることが多く、花を愛でる優雅な時間など、あるわけがない。
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