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「ううう……見たかったのに……」
 未練タラタラに呻くレイシオの様子に、ベリスは上半身を起こしながら、溜息を零す。
 そして、しゅんと耳を下げる小さな頭を無造作に撫でた。
「大体、役目もないのに、地上に降りられねぇだろ」
「それは大丈夫!」
 尤もな言葉に、レイシオは顔をあげ、自信満々に自分の胸をドン、と叩く。
 そして、自慢げな……所謂ドヤ顔で言った。
「地上の地形の下見をしとけば、次の戦闘時に有利な戦略を立てられるでしょ?」
 つまり、それを言い訳に地上へ降りようというのだ。
 さすが知略の天使……という割には、肝心な所が抜けているのだが。
「ファルクスから聞いたんだろ? だったら、あいつと行けばいい」
「あ、そっか。さすがベリスっ」
 そうと決まれば、れっつらごー!と、鼻歌を歌い出しそうな陽気さで、レイシオは翼を広げる。
 やれやれ、これで静かに眠れる……といわんばかりに再び体を横にしようと思ったベリスの首が、ぐぎりと嫌な音を立てて曲がった。
「うおおおおおい!」
「うん?」
「髪をひっぱるんじゃねー!」
 可愛らしく小首をかしげるレイシオの小さな手に握られていたのは、ベリスのみつあみの先端。
 手綱のようにしっかりと掴まれている。
「だって、放したら一緒に来てくれないでしょ?」
「ったりめーだ。俺は寝る」
「駄目」
 一刀両断。
 いっそ清清しいまでの拒絶に、ベリスは心底呆れた顔を見せる。
「おい」
「やだやだやだやだ。ベリスも一緒に行くの行くったら行くの」
 文字通り、子供のワガママ。ふわふわの髪を振り乱し、首を左右に振って主張する。
 【神の理性】の意味を冠する名が泣くのではないかと、あらぬ心配をしてしまうほどの、欲望への忠実っぷり。
「……俺は上層に行きたくねぇ」
 ベリスは顔をしかめ、呻くように呟いた。
 レイシオは少し顔を曇らせ、宥めるように微笑む。
「大丈夫だよ。今ならまだファルクスも自室に居るだろうし、直接移動すれば誰にも会わないよ」
「そういう問題じゃねぇっての」
 降格された身で上級天使の居る場所に行くのは、気が引けるのだろう。
 上級天使ともなると、既知の間柄ならば気配で簡単に居場所が分かる。
 いくら古くから親しくしている間柄だろうと、上級天使と中級天使が懇意にするのを良く思わない天使もいる。
 自分が知らないだけで、他の天使から色々小言を言われているのかもしれない。
「……でも……僕はベリスと、見に行きたいな……」



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