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 憎い。

 脳内を埋め尽くす負の思考。

 殺したい。
 この世から消し去ってしまいたい。
 何もかも全て。

 俺の愛した天使も、師匠も、親友も何もかも奪われた。
 残されたのは、この肉体と心だけだ。
 無慈悲な神に、もう忠誠心などあろう筈もない。

 人間一人救えない力など。
 神の祝福など。
 こんな無力な人間など。

 いらない。要らない。


 ── 力が欲しいか


 胸の内から悪魔が問う。
 低級の悪魔なのは気配で分かる。
 俺の負の感情に惹かれてやってきたのだろう。
 普段なら気にも留めないような存在。
 到底俺の願いなど叶えられよう筈もない。

 否。

 俺は思う。
 この程度の低級なら。
 得られるかもしれない。
 あの憎く美しい悪魔を、倒す力を。
 その基準となる魔力を奪えるかもしれない。


 ── 力が欲しいか


 再度脳裏に響く声に、俺は手を伸ばす。

「あぁ、欲しい。
 欲しいとも」

 悪魔が寄りやすくするため、胸に下げる神の目を投げ捨て、俺は願う。

「来い。俺に力を与えてくれると言うのなら」

 握りしめた懐中時計を手放せないのは、最期の良心だろうか。
 それすら、どうでもいいと思った。

 もはや、俺の中に神への愛など微塵も存在しない。
 墜ちきった心は黒く淀んで、酷く滑稽で。

 俺はただ、自分がやりたいことをやろうと思った。



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