= 1 =
憎い。
脳内を埋め尽くす負の思考。
殺したい。
この世から消し去ってしまいたい。
何もかも全て。
俺の愛した天使も、師匠も、親友も何もかも奪われた。
残されたのは、この肉体と心だけだ。
無慈悲な神に、もう忠誠心などあろう筈もない。
人間一人救えない力など。
神の祝福など。
こんな無力な人間など。
いらない。要らない。
── 力が欲しいか
胸の内から悪魔が問う。
低級の悪魔なのは気配で分かる。
俺の負の感情に惹かれてやってきたのだろう。
普段なら気にも留めないような存在。
到底俺の願いなど叶えられよう筈もない。
否。
俺は思う。
この程度の低級なら。
得られるかもしれない。
あの憎く美しい悪魔を、倒す力を。
その基準となる魔力を奪えるかもしれない。
── 力が欲しいか
再度脳裏に響く声に、俺は手を伸ばす。
「あぁ、欲しい。
欲しいとも」
悪魔が寄りやすくするため、胸に下げる神の目を投げ捨て、俺は願う。
「来い。俺に力を与えてくれると言うのなら」
握りしめた懐中時計を手放せないのは、最期の良心だろうか。
それすら、どうでもいいと思った。
もはや、俺の中に神への愛など微塵も存在しない。
墜ちきった心は黒く淀んで、酷く滑稽で。
俺はただ、自分がやりたいことをやろうと思った。
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