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 俺に構うな。

 何度その言葉を口にしただろう。
 夜、寮を抜け出す度に、自宅生にもかかわらず、なぜか一緒についてくる男。
 神学の道を目指しているのか、同級生ということもあって、同じ授業を取ることが多く。
 気がつけば、いつも俺の隣にいることが多い、貴族の子息。

 こんな、忌み眼を持つ俺と親しくしても、害はあれど得など無いだろうに。

 あいつはいつも、俺を見つけると子供のように笑って寄ってくる。
 遠巻きに見る学院の生徒など眼に入らないかのように、親しげに隣に立ち、自然に振舞う。
 まるで古くからの友人のように。

「どうして、お前は俺に付きまとうんだ」

 疑問に耐え切れず、俺は問いただした。
 夕暮れに赤く染まる図書室。
 ソファに寝転がったあいつは、気だるげに身を起こして笑った。

「どうしてって……楽しいからだよ」

 裏を感じさせない、純粋な表情。
 ほんのり夕焼け色に染まったミルクティ色の柔らかな髪を揺らして、藍色の眼が、まっすぐに俺を映して。

 それ以外に理由なんて無い。

 そういうかのように、まっすぐに。
 俺の、赤と青のオッドアイを映して、笑っていた。

「……死ぬかもしれないんだぞ」

 無駄だと分かっていて、俺は忠告した。
 俺が相手にしているのは、人間じゃない。
 人間より遥かに力を持ち、狡猾な知恵を持ち、情や良識が全く通用しない、『悪魔』が相手なのだ。
 当然、気を抜けば……いや、抜かなくても、死の危険に遭遇することは珍しくない。
 生きていく為に、俺は奴らを相手にしているが、こいつはそんな事をしなくても、不自由なく生きていけるだろうに。



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