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「分かってるよ」
だが、俺の心を知ってかしらずか、事も無げにあいつはそう返した。
いつもの柔らかな微笑で、どこか醒めた……それでいて、縋るような瞳をして。
「でもね、楽しいんだ。君といると」
まるで、他に楽しみが無いかのような物言いで。
生きていく為に、必要だというような物言いで。
生きていく為に、必要なんだ。
俺は、息を吐く。
まるで、自分を見ている気分だった。
「お前が性格的にどっか変な理由が今、分かった気がする」
「ちょっと、それ、どういう意味?」
俺は質問に答えず、綺麗な藍色の宝石から視線を逸らす。
そして、纏めた魔術式の紙束をソファに腰掛けたままの、あいつの膝に投げ渡した。
「何?これ」
「防御結界系の魔術式の一覧だ。
その中から数個だけでいい。自分に合ったレベルの式を覚えろ」
授業では習わない中級レベル以上の術式が中心だが、恐らくこいつなら訓練すれば上級魔術も扱えるだろう。
それくらい、目の前の男の術力とセンスはずば抜けている。
だからこその、譲歩だ。
「読むの、めんどうだなぁ〜」
「これが、最低限の条件だ。
覚えられないなら、金輪際、現場には連れて行かない。学院内でも声を掛けるな」
これでもし、覚えられないというならば、本気で縁を切るつもりだった。
一人で、かつての様に、悪魔と対峙するつもりだった。
「えーっ」
だが、返って来たのは、拒否する気の無いブーイング。
そのたった一声に、俺の心が軽くなる。
「自分の身は自分で守れ。出来ないなら、ついて来るな」
自分の頬が緩んだと気付いたのは、言い終わってから。
俺は、気恥ずかしさに耐え切れず、言い捨てるるようにソファに背を向ける。
図書室を出る際、ちらりとソファを見れば、めんどくさそうに、だが確かに紙束に目を通す、夕日に染まった友の姿が、見えた。
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