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「…………ッ」
瞼を開くと同時に朝日に目を焼かれ、脳の混乱の中で視覚を調整する。
脳裏を掠める夢の名残に、こみ上げる吐き気。
耐え切れずシャワールームに駆け込み、えずきを繰り返した。
目覚めたばかりの胃は空っぽで、出たのはただ嗚咽に似た呻きだけ。
歓迎しない動悸で火照る身体へ冷水を浴びせれば、少しだけ、冷静さを取り戻して、俺は重い溜息を零した。
濡れた髪を掻き揚げ顔を上げると、シャワールームに設置された姿見の向こうの赤い目と視線が合う。
気のせいだろうか、青かった反対側の瞳も、心なしか紫がかって見える。
「下らないな」
天使だった頃を思わせる色に、未練を持つなど。
神から決別した身で、心で、まだ神に無意識に縋ろうとする自分に吐き気がする。
あいつなら、この瞳が紫になろうとも、きっと笑って言うに違いない。
『愛してるよ、レッティ』
ミルクティ色の髪を揺らして、あの綺麗な藍色の瞳を微笑ませて。
「コンスタンス……」
俺は、胸に下げる遺髪の入ったペンダントを握り締め、脳裏に浮かぶ笑顔に祈る。
神ではなく、悪魔でも無く、友の笑顔に。
俺は、誓おう。
「……ジュレクティオ……」
「止めるなよ、フィリタス」
様子を見来た最愛の天使に、俺は視線を合わせず言葉だけで牽制する。
かつて、翼を捨てて守った、大切な天使。
彼は今、俺の傍で立ってくれている。
たとえその想いが成就できなくとも、傍にいてくれる。
「そんな顔をするな。俺は、大丈夫だ」
愛らしい顔を不安げな色に染める天使に、俺は微笑んだ。
お前を取り戻したのだから、あいつだって取り戻せるはずだ。
俺の、『何か』と引き換えに。
「俺が、この手で終わらせる」
ペンダントを握り締め、俺は、何度も繰り返した誓いを口にした。
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