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夜の帳が下りる頃、扉を叩いて現れたのは、笑顔を浮かべた友。
ジュレクティオは、それを見てただただ呆れる。
「今何時だと思ってるんだ」
「会いたかったから、きちゃった」
悪びれもせずそういうコンスタンスに、溜息しか出ない。
祓魔師として密かに活動するジュレクティオは夜中、外出することが多い。
故に、門限を過ぎても人に見られず抜け出せるよう、宿舎も一階の端の部屋にあって。
抜け出しやすいということは、当然、隠れて忍び込みやすいわけで。
極たまに、こうしてお勤め(と言っても見習いだ)帰りの友が現れる事もある。
「そもそも、俺が居なかったらどうするつもりだったんだ?」
「なんとなく、今日は居る気がしたから」
「…………」
お前は預言師か。言いかけた言葉をジュレクティオは飲み込む。
その代わり、盛大な溜息を落として、部屋に招きいれた。
質素な部屋。大量の本に埋もれている以外は、必要最低限の家具しか置いていない。
コンスタンスは勝手知ったるなんとやら。床を占拠する本を避け、持ってきた袋を置く。
ごとり、という音は、何か重いものが入ってるのだろうか?
「あ〜重かった」
「一体何を持ってきたんだ?」
「いいワインが手に入ったから、レッティと飲もうと思って」
その言葉に、呆れるやら怒れるやら。
「俺達は、一応、修行僧の身なんだが?
それに、酒に弱いんだ」
「大丈夫大丈夫。
物は試しだよ。レッティ、いつもミサの時殆ど飲まないじゃないか」
「だから弱いからだと……」
目の据わった信仰心の深いジュレクティオの表情に、コンスタンスは笑う。
「ワインは神の恵みだよ。どうせなら、愛する人と分けあいたいじゃない?」
この場合の愛とは、親愛であって、変な意味ではない……と思いたい。
そして、そこまで言われてしまうと、流石に断れなくなる。
ジュレクティオは諦めて部屋を横断する。
持参したクロスを拡げてグラスを並べ、オープナーで手際良く栓を開けるコンスタンスを横目で見ながら、彼は机の奥から乾パンと干し肉を出す。
簡素だが、無いよりはマシ、程度のつまみだ。
「用意が良いね」
「非常用だ。このために置いてあるわけじゃない」
「分かってるよ」
その非常用を出してくれた事が嬉しいのだ。
そう言わんばかりの笑顔でグラスにワインを注ぐコンスタンスに、ジュレクティオはそれ以上言うまいと口を噤んだ。
「神の恵みを友と分けあえる幸福に」
「「乾杯」」
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