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 異変に気づいたのは、ボトルを半分ほど空けた頃。
 そう、お互いに、まだ一杯ずつ程度しか飲んでいない頃だ。
「レッティ? 大丈夫?」
 初めて見る赤い顔に、流石に心配になって声をかける。
 暫く呆然としていたジュレクティオは、深い紺色の瞳を見つけると、表情を変えた。

 それは、それは、嬉しそうに。
 花がほころぶように、ふんわりと。
 甘えさえ含んだ幼子のような笑みが、顔いっぱいに広がる。

 思わずコンスタンスは息を飲む。
 初めて見たのだ。こんな表情を。
 基本は不機嫌な仏頂面か、唇を歪めるだけの微かな笑み程度で、これほどまで素直な表情など見せた事が無い。
 故に、妙な緊張を見せるコンスタンス。
 そんな彼に、ジュレクティオは何かを言いかけ、しかし口を噤み、困惑し、終いには、迷子のような不安げな泣き顔になってしょげてしまった。
「どうしたの? レッティ」
 内心の動揺を押し隠して、コンスタンスは優しく問う。
 ジュレクティオはその言葉に少し顔を上げ、やはり口を開くが、言葉がうまく出てこないようで、不安げな顔が晴れずにいる。
「レッティ?」
「コンスタンス……その……」
 名前を呼んで、しかしその先が言えなくて。
 視線を泳がせ、口をぱくぱくと開いては閉じて。
 次第にコンスタンスはその豊かな顔の動きが楽しくなってくる。
「なぁに? レッティ」
 待つことしばし。
 優しい笑顔に勇気付けられて、ようようジュレクティオはその一言を口にする。
「……………………コーティ……」
「……え?」
 驚いたのはコンスタンスだ。
 その驚愕の顔に戸惑いつつ、それでも一度口にしてしまった以上最後まで告げようと、必死の覚悟でジュレクティオは願いを口にした。



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