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「……コーティ、って、呼んでも、いいか?」
「…………」
 正直なことを言うなら、何を今更、だ。
 初めて会って、名前を交換したとき、コーティと呼んで欲しいと告げて、早数年。
 その間にも、愛称で呼んで欲しいと何度も言うたび、苦い顔で無視され続けてきたが。
「勿論だよ! 君にそう呼んでもらえたら、僕も嬉しいよ」
 自然な笑顔でそう応えると、ジュレクティオは再び幸せそうな笑顔を見せる。
 安堵と喜び。
 まるで、春のような鮮やかさ。
「コーティ」
「うん?」
「……初めて、なんだ」
「何が?」
「お前だけなんだ……一緒に、悪魔に対峙してくれた人間は。
 いつだって、俺の傍に居てくれたのは」
 いっそ執念とも呼べるほど、嫌がるジュレクティオにコンスタンスは付いて歩いた。
 祓魔師としての知識は全く無かったが、幸い魔力は強かったので、それなりに彼の役に立ってきただろうという自負はあるけれど。
 ささやかながら。本当にささやかながら、足を引っ張ってきた自覚も、無いわけじゃない。
 それでも。
「コーティが、居てくれて、良かった」
 酒が入っているとはいえ……だからこそ、ぽろぽろと涙を零しながら、無邪気に微笑んで本心を晒すジュレクティオに、コンスタンスは胸を突かれる。
 零れそうになる涙を飲み込んで、彼も笑う。
「僕もだよ、レッティ。 僕も、レッティに会えて……近くに居られて嬉しい」
 コンスタンスの言葉に、ジュレクティオは嬉しそうに笑って……そのまま横にフラフラと倒れこむ。
「レッティ!?」
 驚いて近づく親友の顔に、彼は真剣な眼差しを向けた。
 横になったせいで露になった赤い宝石のような瞳と、青い澄んだ空色の瞳が、コンスタンスを射抜く。
「何があっても、俺がお前を守る。
 だから……無謀なことはするな。俺から離れるな」
 上へと伸ばされた赤みを帯びた手が、柔らかなミルクティ色の髪に差し込まれる。
 その温もりを確認して、彼はホッとしたように呟く。
「お前が居るから、俺は……人間でいられるんだ……」
 縋る視線。
 それは、孤独に脅える子供のように見える。
「分かってるよ、レッティ。安心して?
 僕の要領の良さは、知ってるでしょ?」
 優しい夜の空のような深い紺色の瞳を和らげ、穏やかに微笑んでコンスタンスが返せば、ジュレクティオは満足したように身体の力を抜く。

 そして、そのまま深い眠りに落ちていったのだった。



 end...



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