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 彼は、学園でも、かなり人気のある教師だ。
 天使の中でも飛びぬけて美しいその容姿は、人型になっても当然衰えることは無く。
 人当たりの良い笑顔も、上に立つもの特有のカリスマ性も、人の心を惹き付けるのだろう。
 休み時間には、いつも複数の生徒に囲まれると聞くし、その教え方も上手だという。
 それは今更確認するまでも無い当然の事実であろうし、彼が色々な人に好かれるのは、嬉しい。

 そう、嬉しい、と、思っていた……いや、思っている、のに。

「どうかしたのかい? ユーデクス。元気がないね」
「……アイゼイヤ……」

 リビングで寛ぐ件の教師に手招きされ、子供の姿をしたユーデクスは少し躊躇した後、素直に身を寄せる。
 いつものように膝の上に乗り、身を落ち着けて。
 いつもなら、それだけで幸福感でいっぱいになるのに、今日は心は満たされても、もやもやした気持ちは消えなくて。

 脳裏に過ぎるのは、昼間見た、見知らぬ教師と並んで立つ彼の姿。
 少し前までは……天界ではいつだって、あの場所に立っていたのは自分なのに。
 ちらりと見た二人の後姿は、酷く馴染んでいて、急に胸が痛くなった。

 衝動のままに彼に声を掛けなかったのは、人目があるからに他ならない。
 自分と彼がこうして一緒に暮らしているのは周知の事実だが、かといって変に親しくして互いの立場を悪くしては、お役目に差し支えるだろう。

 それでも、それでもやはり、思ってしまうのだ。
 自分以外の誰かが、彼の隣に立つのは……不快だと。

「……すまない、アイゼイヤ……」

 ぽつりと、ユーデクスは謝罪を口にする。
 その言葉に、憔悴したような口調に、アイゼイヤは僅かに眉を顰めた。

「私は、何も謝られることをされた覚えはないのだけれど。
 何か悩みがあるのならば話してくれ、ユーデクス。喜んで力になろう」
「…………」

 穏やかに微笑む、最愛の友の表情に、ユーデクスはますます泣きたい気持ちにとらわれる。
 制御できない感情が、まるで嵐のように胸の内を荒らしている。

 その溢れる激情を解放するように、ユーデクスは擬態を解いた。
 燃え上がる、熱の無い黒い炎。
 幼い身体を舐めるように、包むように燃え上がったそこから四枚の純白の大きな翼が生える。
 それが、ばさりと音を立てて羽ばたき黒い炎を吹き飛ばすと、後には白い衣装に包まれた黒く豊かな長い髪を持つ天使が姿を見せた。



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