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 アイゼイヤは突然の変化にも驚くことなく、無言でその様子を見守る。
 そんな白い片割れを映す、橙金と青銀のオッドアイは、酷く不安げに揺れていて。
 天使は、言葉を選ぶように、慎重に口を開いた。

「君が……今日、君が、見知らぬ誰かと並んでいて……胸が、痛くて……気が狂うかと……思った」

 そこは、私の場所なのに。
 そう、叫びたかった。

 天界では、こんな思いを抱いたことはない。
 彼の部下が並んでいても、他の智天使や、更に上の階級の天使が彼と肩を並べていても、これほど胸を焦がすことは無かった。

 彼の隣に並べるのは、対等な関係でいられるのは、自分だけだったから。
 それは周知の事実だったから。

 でも、此処では違う。
 自分は生徒で、彼は教師で、周りの人間から見れば、対等な関係とはいえないだろう。
 普段過ごす校舎が違うから、あんなふうに、それを意識したのは初めてで。

 とても、怖くなった。

「……私は、堕ちかけているのだろうか」

 崩れ落ちるように友の前に跪き、苦しげに吐き出される不穏な言葉。
 アイゼイヤは僅かに眉を動かしただけで、答えない。
 答えられるはずもない。
 それを決めるのは、彼ではなく、神なのだから。
 それは、ユーデクスもわかっている。

「それでも君の隣に居たいんだ。
 神の御許で、君と並んで居たい……」

 許して、くれるだろうか。

 縋るように懇願され、アイゼイヤは優しく微笑んで、ユーデクスの額に唇を落とす。
 注がれるのは、優しい温もりに満ちた祝福の力。
 魂で繋がるその感覚に、恐怖に震えるユーデクスの心が安堵を覚える。

「その感情に処罰を与えるかどうか、決めるのは私ではない。
 けれど、たとえ嫉妬を覚えようとも、貴方であることは変わらないし、私は変わらず貴方の隣に居られることを願うよ」
「アイゼイヤ……」
「私の隣に立てるのは、貴方だけだ、ユーデクス」

 だから、余計な心配などしなくていい。

 まっすぐな、真白の瞳に自身を映して微笑む、最愛の半身の言葉と存在。
 それに勇気付けられ、ユーデクスも漸く柔らかな微笑を浮かべる。

「私もだよ。私の隣に立てるのは、君だけだ、アイゼイヤ」

 神に造られたその瞬間から、ずっと。
 願わくば、その魂が燃え尽きる最期の瞬間まで。

 二人、一緒に。

 口に出すまでも無い、何度交わしたかわからない誓いを胸に刻むように、双子の智天使は夜の優しい闇の中でそっと互いの手を握り、微笑を交わしたのだった。



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