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 暫くして現れたのは、全身白色の智天使。
 ユーデクスと同時に創られた若い天使であり、レイシオのもう一人の可愛い弟分だ。
「お役目お疲れ様、アイゼイヤ」
「貴方も、レイシオ」
 可愛い弟の労いに、レイシオは肩を竦めて返す。
 そのやり取りにも、ユーデクスは一言も発しないまま。
 ただ、先程とは明らかに違い、己の半身を嬉しそうににこにこと眺めていた。
「ただいま、ユーデクス」
 アイゼイヤがにっこりと微笑んで言えば、ユーデクスもにっこりと微笑みを深くする。
「君の気配を感じる前から、ずっとここで待ってたんだよ」
 レイシオの報告に、アイゼイヤは形の良い眉を顰めた。
「休んでいないのかい、ユーデクス」
 己を心配する友の言葉に、ユーデクスは微笑んだまま首を左右に振る。
 それに対しアイゼイヤは安心したように肩の力を抜いた。
 そんな二人の様子を眺めていたレイシオは、大きな溜息を零す。
「なんだか、妬けちゃうな」
「何がだい?」
「同じように繋がってるのに、僕とベリスとは大違いなんだもん」
 ベリス……件の、問題児扱いを受けている天使。
 レイシオの役目上の相方であり、レイシオが兄として慕う天使。
 拗ねたようなその言葉に、アイゼイヤは不思議そうな顔をした。
「私から見れば、貴方達も十分上手くやっていると思うがね」
「そりゃ僕だって、ベリスが嫌いなわけじゃないし、仲が悪いわけじゃないよ。
 ただ……」
 レイシオは、言葉を切り、嘲るような、諦めたような、どこか歪んだ笑みを見せる。
「彼と繋がるのは役目の時だけだからね」
 役目の時。
 魔王軍が攻めてきた時。
 ベリスが、戦いの最中に、その内に秘めた狂気に飲み込まれる時。
 その狂気は、少なからずレイシオに影響を及ぼし、結果、どうしても彼らが落ち着くまでの間、その仲は穏やかから程遠いものになってしまう。
「私達は繋がっているといっても、意志の疎通が出来るわけではない。
 そういう意味では、貴方達を少々羨ましく感じるよ」
 物思いに耽るレイシオの思考を、アイゼイヤの言葉が引き戻す。
 見れば、物言わずただ微笑む半身を、切なげに見つめる白い天使の姿があって。
「結局、ないもの強請りってことか」
 レイシオはそう苦笑を零すと、伸びをするように大きく翼を広げた。
「さて、弟達のお陰でちょっと落ち着いたし、どーしようもないお兄ちゃんを宥めに行くかな」
「気をつけて」
「ありがとっ」
 弟の労いにウインクを返しながら、レイシオは4枚の翼を羽ばたかせて飛翔する。
 途中、クルリと緋色の羽織を翻して器用に回転しながら、その姿を普段の少年の姿から、戦闘用の青年のものへと変化させた。
 そして、意識を件の天使へと繋げれば、再び押し寄せてくる破壊衝動の狂気。
 その狂気を理性でコントロールしながら、レイシオはペロリと唇を舐める。
「覚悟してろよ、ベリス」
 呟いた彼の表情は、これから行われるであろう盛大な兄弟喧嘩への、密かな期待と歪な喜びに彩られていたのだった。



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