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 ユーデクスは、左右で色の異なる瞳を眇めた。
 愛しい友の顔をその視界一杯に留めながら、思考は深く過去へ遡る。


 流石に、アイゼイヤをこの手で裁いたときは……討伐した時は、気が狂うかと思った。
 いや、実際に狂っていたのだろう。あの時の自分は、まるで別人のようだったと、何かの折に、部下が言っていたのを思い出す。
 役目とはいえ、己の半身を自らの手で絶ったのだ。
 役目を終えた後に襲い来た喪失感は、とても言葉で言い表せるものではなかった。
 手折られた翼よりも、裂かれて血を流す皮膚よりも、何よりも胸が痛くて、痛くて。
 ただ、彼が最期にいつもの微笑をくれたこと。
 それだけが、唯一の救いだった。けれど。

 それでも、あんな思いは、二度としたくはない。


 今此処で体に触れられる友の奇跡のような存在を確かめるように、ユーデクスは体を摺り寄せる。同時に、体に回された青年の白い腕に、ほんの少し力が込められて。
 求めに答えるような抱擁に、嬉しくて尾が揺れる。
 自分は此処に居ると伝えるために、彼は少し顔を上げて、その柔らかな頬に鼻先を摺り寄せた。
 起こさないように、優しく。
 安心したように腕から力が抜け、再び友は深い眠りについたようだった。
 それを確認して、ユーデクスも頭を寝台に預ける。


 君は、私が居なくなったら、どうなるのかな。


 あの時、問い返せなかった疑問。
 細めた眼差しに込めた声なき問いに、当然答えなど返るはずもない。
 変わりに、脳内で、もう一人の自分が同じ問いを投げかけてくる。


 もし、再びこの腕を……友を失ったら、自分はどうなるのか。


 ぱたり、ぱたりと思慮を示すように、柔らかな毛に覆われた尾がしなやかに揺れる。


 今度こそ、絶望の奈落へと堕ちるのか、はたまた再び一縷の望みをかけて友の姿を探すのか。


 ユーデクスは暫く友の安らかな寝顔を見つめた後、再び体を暖かな腕に委ねる。
 そして、とめどなく廻る思考を遮断するように、瞼を閉じる。


 そんな仮定の話など、想像が出来ない。したくも無い。
 あの身を切り裂かれるような激しい痛みは、二度と経験したくない。

 ただ……ただ一つ言える事は。
 その時は、恐らく。


 その名前を、もう、呼べない。



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