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目を開けると、其処は暗闇。
完全な闇ではなく、気だるい疲労を包み込んでくれる、穏やかな夜の闇だ。
耳を擽るのは、優しい寝息。少し目を凝らせば、月色の金糸が視界を過ぎる。
「…………」
ユーデクスは無言で目を細め、少し身じろぐ。
「……ん……」
抱きしめる腕に振動を感じたのか。目の前の青年が小さな声を上げるのを聞いて、彼は内心笑みを浮かべた。
今、ユーデクスは狼に擬態している。黒い艶やかな毛並みを持つ、大きな狼だ。
以前ひょんなことからこの状態で友に会い、正体を明かせないまま交流を持ってしまった。
それは今も同じで、未だに正体を明かせていない。隠しているわけではないが、何となく言えないままだ。
正直、バレた時の彼の怒りを想像すると、流石にタイミングを計らなければと思ってしまうのだ。
そして、結局正体を明かせないまま、時折こうして擬態して彼と夜を共にしている。
勿論、卑猥なことなど無い。どちらかというと、抱き枕に近い。
布団の中で抱きしめられて眠るのは、ユーデクスにとっても酷く心が落ち着くので、半ば習慣と化しつつある。
ユーデクスは自由にならない体を横たえたまま、顔だけを僅かに上げる。
どんなに見ても飽きることの無い、美しい容姿。その中にある、眩しく輝かしい光を放つ魂。
愛しい、愛しい、唯一無二の友。
アイゼイヤが天を去った時、実はさほど絶望を感じなかった。
勿論、寂しさや空虚は感じた。
彼の疑問を共有できなかった、己の無力さを嘆きもした。
けれど、彼が堕天し、己の周囲のどの天使もその気配を感じ取れない状況でも……彼が誰かに討伐されているかもしれないと言いつつ、心のどこかで、彼は確かに生きていると知っていたように思う。
だからこそ、自分は堕ちなかった。
心無い同胞の言葉に心を痛めつつも、自我を保ってきた。
再び彼にまみえる為にも、堕ちる訳には……己を捨てるわけにはいかなかった。
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