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 己の失態に涙目と共に顔面蒼白になる天使。それを楽しげに眺めながら、白い悪魔はにっこりと、まるで天使のように微笑んだ。
「おや、貴方の愛しの司祭が戻ってきたようだ」
「え、えぇっ!?」
 更にパニックに陥る天使に嗤いながら、白い悪魔は再び白い炎と共にその姿を変化させる。白梟となった彼は、バサリと羽音を響かせながら、宙に舞い上がった。
 そして、わざわざ部屋を一度旋回し、天使の横を通って囁きを残す。
「今の事は、秘密にしておいてあげよう。……貸し一つだ」
 驚いて視線で追うフィリタスを振り返ることなく、純白の梟は窓の外へと羽ばたいて消えた。
「フィリタス、いたのか」
 間を置かず、部屋に入ってきた司祭。その聞きなれた声に、呆然自失の状態で窓を見ていた天使は振り返る。
 見慣れた顔。その顔を見た瞬間、安堵と共に言いようの無い切なさを覚えて、表情が歪んだ。
「ジュレクティオ……!!」
「? おい、どうし……うわっ」
 悲鳴のように名を呼びながら、飛び掛るように愛しい人間を抱きしめる天使。
 突然の事に、司祭は受け止めることも出来ずに、されるがまま押し倒されてしまう。同時に、彼の腕の中で山になっていた大量の書類が、盛大な音と共に宙を舞った。
「フィリタス、いきなり抱きつくな!……おい、聞いてるのか?」
 当然、文句の一つも出てくる。しかし、すぐにそれは気遣うような、訝しげなものに変わる。
 何故なら、その原因は、ひっくひっくと子供のように泣きじゃくっていたからだ。
 尋常ではない様子の天使に、ジュレクティオは状況説明を問うことも出来ず、ただ呆然と眺めるしかない。
「……っ、てぃ、おっ……!」
 請うように、縋るように漏れた名前は、自分を抱きしめる腕の主か、はたまた遠い昔に失った最愛の友の名か。
 何も知らない司祭は、その真意を当然知る良しも無い。ただ、諦めたような、慈しむような溜息と共に、ただポンポンと、あやすように天使の頭を優しく叩く。
「俺は此処に居る」
「……っ……」
 優しい言葉に、更に息を詰まらせ、天使は人間にしがみ付いて泣きじゃくる。
 しかし、何時までもこうしているわけにはいかない。
「あいつらが戻ってくるまでには、落ち着くな?」
 確認を取る低いが優しい声に、天使は泣きながら小さく頷きだけを返す。
 その返事に小さく安堵の笑みを浮かべた司祭は、あやすような手つきで、優しくその頭を撫でたのだった。



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