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悪魔のイメージとは正反対の、真っ白な純白の髪。透き通るような白い肌。その身を包む、白い衣装。両の耳で揺れる長細いピアスだけが真紅の色を冠していて、それが酷く不気味に映る。
人型の姿を取った悪魔の、その氷のように冷えた純白の瞳に映され、フィリタスはふと、ある単語を思い出した。
「……白い、堕天使……」
呆然とした呟きを聞き取った悪魔が、形の良い眉を寄せて口端を上げる。
「堕天使とはいえ、天使から同族に喩えられるとは光栄だね」
「堕天使は同族ではありません!」
即座に反論する天使に、白い悪魔は嗤う。
その表情に、何故かフィリタスの脳裏に、寂しげに微笑んだとある天使の表情が浮かんだ。
目の前の悪魔とは、正反対の色を冠した、自分よりずっと位の高い天使の顔が。
「……白い堕天使を、知りませんか」
そして気がつけば、問いを投げていて。直前まであった警戒すら、忘れていた。
「白い堕天使、ね」
しかし、白い悪魔は穏やかな微笑を浮かべたまま、単語を反芻しただけ。
しかも、質問には答えず、逆に問いを返してくる。
「それを聞いて、貴方はどうするのかい?」
「探している方が、いらっしゃるのです」
呟くような返答に、悪魔はふっと笑みを深める。
「……堕ちた同族を気にかけるとは、随分と物好きな天使が居たものだ」
「失敬な!」
その嘲るような言葉に、フィリタスは激昂する。なぜならその方は、自分には遠く及ばないはずの。
「崇高なる智天使の位にあらせられるあの方のこと! きっとお考えがあっての……っ!?」
笑みを崩さないまま、ただ静かにスッと目を細めた悪魔。その表情に、フィリタスは思わず息を呑み、言葉が途切れる。
「智天使、ね」
どうして、そんな表情を浮かべるのか。
皮肉るような、嘲笑うような、そんな微笑の中で。どうして、内なる胸の痛みを堪えるような切なさを感じるのか。
そんな硬直したフィリタスの疑問を他所に、白い悪魔はふいにその口元を歪ませ、視線を向けてきた。
「貴方の口の軽さは、いささか問題ではないのかな?」
「えっ」
「天界において、智天使の位を預かるものは限られている。その中で、堕天使を探していそうな天使がいるとすれば……」
「……!!!? ああああああっ!!!!!!」
天使が、本来嫌悪すべき堕天使を探す。神への反逆にはならないだろうが、本来あるべき天使の姿から外れたそれは、その天使にとって小さな綻び……所謂、『弱み』になりかねない。
まして、それが智天使であると、今さっきフィリタスの口からばらしてしまったのだ。
天界から降りることのない方であるから、まず大丈夫だとは思う。しかし、力のある上級悪魔がその情報を元に、彼の智天使に揺さぶりをかけてもおかしくない。
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