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「それでね、今日は教会史の時間に、昔の司教の話が出てね」
 一日も終りに近い、寝る前のひととき。
 リビングで、ユーデクスとアイゼイヤはその穏やかで幸せな時間を、他愛もない会話をして過ごす。
 今日あったこと、明日の予定。
 変化が少なく穏やかな時間が流れ続ける天界と違い、地上は毎日変容に富んで退屈と言うものがない。
 ユーデクスが今、嬉々として話しているのも、そんな今日得た情報の一つだった。
「ローレンス司教という司教が特に凄かったそうだよ。当時の教皇の命を受けて、多くの悪魔を祓ったという逸話が残っているらしい」
「実際に良く働いたのは、司教よりも司祭の方だよ」
 穏やかな微笑を浮かべて、ユーデクスの情報を訂正するアイゼイヤの言葉に、左右色の異なる瞳が輝いた。
 歴史学に関しては、教科書よりもアイゼイヤの方が詳しい。
 何故なら、彼はその時、実際に地上に降りたことがあるからだ。天界に居る時分から、彼は良く視察と称して地上へと降りていた。今彼が語った話も、その時見たのだろう。
 ユーデクスは、教科書と友の口から語られる史実の違いを知るのが、何よりも好きだった。
「でも、司教の方が地位は上だろう?」
「地位が高いからと言って、優秀かどうかは別だ。……いや、確かに、あの司教も魔力は高かったし、術のセンスもあったね。だが、いかんせん怠け癖が酷かった。
 その下についていた司祭は、魔術のセンスはなかったが、知識が豊富で、特に祝福の力がずば抜けていたよ」
「祝福……私達の力に近いという、あれかい?」
「そう。あの司教の周りは、本当に楽しい人材が集まっていた」
 昔を懐かしむように目を細める彼の様子に、ユーデクスは先を促す。
「他に、どんな人がいたんだい?」
「人ではないよ。大悪魔が二匹……そのうち一匹は例の司教と契約を交わしていた。それから、司祭に憑いている能天使もいたね。あと、双子の精霊と終末の獣が二匹……」
「終末の獣? バハムートと、リヴァイアサンかい?」
「そう。二匹とも、本来の己の姿と存在意義を完全に忘れていたがね。
 人間の短い一生に、本当に多くの怪異に遭遇して……全く、飽きないメンバーだったよ」
「ふふ、本当に楽しかったのだね、アイゼイヤ」
 双生という、何よりも近い存在ゆえに、表情を見るだけで分かる。
 自分も、その時間を共有できたらよかったのだけれど。
 過去は、智天使にも遡ることは出来ない。



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