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「ところで、アイゼイヤ」
「なんだい?」
「話を変えるが、君は、いつもこうして私を膝抱っこするね」
そう、ユーデクスは、ほぼ毎日のように、アイゼイヤの膝の上に座って会話をしている。
今のユーデクスは小学生らしく、身長も外見も12歳程度になっている。膝抱っこにはやや年齢が過ぎている感があるが、天界にいる頃に比べれば、それほど違和感は感じない。
なにせ、実際のユーデクスの年齢はアイゼイヤと全く同じ……身長もやや高いくらいなのだ。
「嫌かい?」
アイゼイヤの問いに、ユーデクスは首を左右に振って否定する。そして、花が綻ぶようにふんわりと幸せそうな笑みを見せた。
「君にこうして触れるのは心地よいし、とても嬉しい。できることなら、ずっとこうしていたいくらいだよ。
ただ、最近、地上で流行っているのかと、疑問に思ってね」
「何かあったのかい?」
穏やかな微笑みを崩さないまま、アイゼイヤは問う。
その向こうの不穏な空気に気付かないまま、ユーデクスは首をかしげた。
「今日、生徒会の資料を集めに、社会科の先生に会いに行ったんだ。準備室だったのだけれど。
そこで、先生に膝に座るように言われてね」
「……座ったのかい?」
「いや。特に理由もなかったし、早く帰って宿題を済ませたかったから、断ったよ」
にっこり微笑む、邪気も穢れもない天使の表情に、アイゼイヤは目を細める。口元に、穏やかな笑みを浮かべたままで。
「そうか。賢明だったね」
「アイゼイヤ?」
「さぁ、夜も更けて来た。子供はもう寝る時間だよ」
強引な話題転換にも、ユーデクスは特に疑問を感じない。それどころか、子供扱いする友の言葉に楽しげな笑いを漏らす。
「ふふ、子供といっても、君と歳は変わらないよ?」
「いつお役目を頂くか分からないんだ。休める時に休みなさい」
微笑みと共に放たれる、諌めの言葉。それが、心配から来るものだと分かっているから。
「はい、先生」
クスクス笑いながら、ユーデクスは素直に答えて、アイゼイヤの膝から降りる。
そして、愛しい友の頬に唇を寄せた。
「おやすみ、アイゼイヤ」
「おやすみ、ユーデクス。良い夢を」
同じように口付けを返してもらい、ユーデクスは機嫌よく寝室へ向かう。
そして、大きなキングサイズのベッドの右側に潜り込んだ。
(あぁ、そういえば、結局疑問の答えを聞いていないな)
布団に収まったところでそう気付いたが、別に、そこまで急いで解決したいものでもない。
また今度聞こう……そう思いながら、ユーデクスは静かにその瞼を閉じたのだった。
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