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 アイゼイヤの部屋で、お互い椅子に身を預け、他愛も無い話をする。
 地上に降りていた最愛の友であり半身でもある彼が天界に帰還したのを気配で察し、ユーデクスは自ら出向いて彼が管理する領域……いわば私室に足を踏み入れた。
 自分の領域にはない、彼の存在を色濃く感じる空間が心地よくて、結局今回は下層に降りることなく、そこに居座ることにする。
 それは、そんな会話の中で、ふと思い付いただけの、小さな疑問だった。
「ねぇ、アイゼイヤ」
「なんだい?」
「神は人間に姦淫を禁じているが、そもそも、性行為とは子孫を残すために行われるものだろう?」
 天使は子孫を残す必要が無いので、性行為という習慣……本能的な性欲はないに等しい。
 故に、天界しか知らないユーデクスは、前々から不思議に思っていた。
 同時に、良く地上へ降りる彼なら、その答えを知っているのではないか、という期待も抱いていた。
「何故、姦淫という行為が生じるのだろうか。子孫を残す為以外に、性行為を行う理由はないのに」
 子供のような無垢なる輝きを持って、橙金と青銀のオッドアイが友を映す。
 そこにあるのは、ただ純粋な疑問。穢れを知らない天使の、至極真っ当な疑問。
 そんな邪気の無い友の表情に、アイゼイヤは穏やかな笑みを浮かべたまま言葉を選ぶ。
「人間にとって性行為とは、子孫繁栄以外にも意味があるからだろう」
「意味?」
 穏やかだが好奇心を隠し切れないユーデクスの視線を、優しい眼差しが受け止める。
「人間にとって性行為とは、【愛を確かめあう行為】でもあるんだ」
「愛を、確かめ合う……」
 性行為で確かめあう【愛】とは何だろう。
 ユーデクスはじっと、目の前の友の顔を見つめる。
 世界中の白色を集めた結晶のような、美しい純白の智天使。偉大なる神によって自分と同時に創られた、双生の天使。
 唯一無二の、【最愛】の友。
 ユーデクスの視線を受けて、アイゼイヤの笑みが深みを増す。
 恐らく、二人は今、同じことを考えている。
「試してみるかい? ユーデクス」
 それは、質問と言うよりは、確認に近い。
 その予想通りの友の言葉に。
 ユーデクスは迷うことなく、ふわりと柔らかな微笑を返した。



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