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「別に、殺してくれたって全然構わないよ。僕を君だけのものにして?」
目の前で、悪魔が嗤う。
ほんの少し悲しそうな色をした、深い闇色の瞳を揺らがせて。
吸い込まれそうな程暗い虚無の瞳に映るのは、黒い髪と赤い瞳を持つ一人の司祭。
その形相は、激しい憎しみと殺意に歪み、とても聖職者には見えない。
「……ほら、早く」
悪魔が両腕を広げ、その胸を無防備に晒す。
俺ならば、その心臓を、聖剣で一突きできる。
聖水に浸したナイフで、なけなしの聖なる力を、その胸に叩きつければ。
この悪魔は、消滅する。
友と同じ魂を持つ、悪魔が。
友の魂は、永遠に失われる。
生まれる迷い。
躊躇う腕を、悪魔が掴む。
「優しいね」
至近距離で、藍色の瞳が微笑む。
一瞬女に見まごう程の美しい顔立ち。
甘く柔らかな微笑みは、記憶の中の友と寸分違わぬもので。
「愛してるよ、レッティ」
懐かしい言葉と共に、花の様に甘い香りに包まれる。
同時に、濡れた破裂音が耳に入り、胸が熱くなる。
咽喉をこみ上げる液体を吐き散らしながら、俺は自分が殺されたことを知る。
せめて一撃と持ち上げた腕は、しかし、視界に入った表情を前に、ただ、力なくナイフを床に落としただけだった。
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