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下層の秋の湖の畔。
その木陰に、寄り添うように翼を休める二人の智天使の姿があった。
一人は、白の化身のような、容姿も衣装も純白の天使アイゼイヤ。もう一人は、黒の化身のような、漆黒の髪を持つ白い衣を纏った天使ユーデクス。
そして今、ユーデクスは、隣で熟睡するアイゼイヤを瞬き一つすら惜しむ程の熱心さで眺めていた。
静かな寝息。
一見、息絶えているのではないかと錯覚するが、少し低めの体温も暖かな気配もちゃんと感じられる。
そして、初めて見る、この天使の無防備な寝顔。いつも浮かべている穏やかな微笑みとは違う、あどけないと言ってもいいほど、警戒心の無い表情。
安心しきっているのだろうその身体はすっかり弛緩し、頭をユーデクスの肩に預けている。ふわふわとした、柔らかな白い髪が頬を掠めて、少し擽ったい。
ユーデクスは、無言のまま、暫くその顔を不思議そうに眺めていた。が、不意にその表情を硬くし、深い眠りについている友の身体を抱き寄せる。そして、近くに感じた他の天使の気配を避けるように、その場から瞬時に姿を消した。
飛んだ先は、ユーデクスに割り当てられた領域。所謂自室。しかし、そこは家具も何もない、ただの白い空間が広がるばかりの、殺風景な場所だった。
アイゼイヤの身体を横抱きに抱き上げて立っていたユーデクスは、いつまでもそうしているわけにもいかず、しばし視線を彷徨わせて記憶を辿る。
確か、数回導かれて足を踏み入れたアイゼイヤの部屋には、机と、ベッドが置かれていた気がする。人間は、そこで休息を……眠るのだと言っていた。
ユーデクスは記憶の中の物体を思い出しながら、術でシンプルだが柔らかく上質の大きなベッドを作る。そして、そこに腕の中の天使の身体を横たえた。
これだけ動いても起きないのだから、今回の眠りは相当深いのだろう。もしかしたら、疲労が溜まっていたのかもしれない。
ユーデクスはベッドの真横の床に跪くと、横たえた愛しい友の顔に己の顔を近づけ、再び無言で観察を始めた。
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