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 黒い雲が空を覆う。
 風は刺すような冷たさで肌を掠め、吐く息すら凍りそうなほど、空気もキンと冷えている。
 そんな寒さの中、ユーデクスは一人、雪を踏みしめ宿舎の裏庭に足を運んだ。
 その姿はいつものスーツではなく、灰色のハイネックセーターに白い綿パンというラフなもの。その上から大判の薄灰色のストールをショールのように羽織っ ている。一見真っ白な服装だが、彼の豊かな長い黒髪が丁度良いアクセント代わりに背中を覆い、不思議な程しっくりと似合って見えた。
「……そろそろかな」
 橙金と青銀。二つの異なる色の両瞳で空を見上げ、彼はポツリと呟く。が、それに応えるものは誰も居ない。
 今宵は月を拝めなさそうだ。もうじき世界は闇に包まれ、何も見えなくなるのだろう。
 もっとも、この学園のあらゆる場所に防犯対策の灯が等間隔に配置されているので、厳密な闇ではないのだが。
 瞼を閉じれば、恋しい顔が脳裏を過ぎる。キラキラと月色の光を纏って、柔らかい微笑をくれる、愛しい友の姿が。
 この寒い中、彼はどこかで魔物と戦っているのだろうか。それとも、異空間で悪魔と戦っているのだろうか。
 どちらでも構わない。無事に、帰ってきてくれれば。
 ユーデクスは足元の雪に視線を下ろし、暫しその眩しいほどの白さに目を細めた。

 白。純白。
 連想されるは、今は遠い『友』の色。
 そういえば、雪が『降る』物だと教えてくれたのも、彼だった。

 ユーデクスは、闇に染まりつつある景色に目を向け静かに瞼を閉じる。
 その向こうにある、遠い過去へと想いを馳せるように。



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