= 10 =
デコレーションを施したケーキは、生クリームの雪が全く気にならない程美しい出来栄えになった。
もっとも、ユーデクスはそのアクセントが目立たないことを、非常に残念がったのだが。ホーリィが説得して、とにかく失敗を無き物にさせた。
ケーキの側面には、緩やかなカーブを描く生クリームのライン。上部には、苺やブルーベリー、ラズベリーなどのベリー系が所狭しと並び、その隙間から絞った生クリームが顔を出している。
テーブルにケーキとグラス、皿を並べ、二人掛けのソファに並んで腰掛ける。
「一応地上では未成年だからね」
そう言ってユーデクスが景気良い音と共に栓を開けたのは、琥珀色のシャンメリー。
それをグラスに注ぎ、蝋燭を灯した薄明かりの中で二人の天使は乾杯を交わした。
「メリークリスマス、ホーリィ」
「あぁ、そういえば、今日はクリスマスなのか」
日付が変わり、丁度クリスマスになったばかりの時間だ。
何故、友が突然ケーキを作ろうと言い出したのか、漸く理解したホーリィは、納得した顔でグラスを掲げた。
「メリークリスマス、ユーデクス」
グラスを傾ければ、炭酸が喉で弾ける。喉を潤すというよりも、気分を高揚させる効果のほうが高そうだ。
「切れ込みを入れるのが、勿体無いくらいだね」
そう笑いながら、ユーデクスがケーキにナイフを入れる。ホーリィもそう思うが、折角作ったものを食べないのも勿体無い。
柔らかなケーキに器用に刃を入れたユーデクスは、一切れずつ皿に取り分ける。
二人で小さく神に祈りを捧げ、ほぼ同時にフォークを入れた。
「美味しい」
「たまには、こうして甘いものを摂るのも悪くないね」
甘酸っぱいフルーツと生クリームが良く合う。
何より、こうして友と食べることが、ケーキの味を引き立たせているのだろう。
「贅沢だね」
ケーキに舌鼓をうつホーリィをじっと見つめながら、ユーデクスはしみじみと呟く。
その様子に、見つめられる側は首をかしげた。
「何がだい?」
「聖なる夜に、君をこうして独り占めできるなんて、私はとても贅沢者だよ」
「何時だって、こうして二人でケーキを作ることぐらいできるだろう?」
別に、クリスマスという名分がなくとも、友が望むならケーキ作りぐらい何時でも手伝える。
だが、ユーデクスの感激しているところは、そこではなかったらしい。
「ふふ、今日はホーリィ・ナイトだよ。綴りは異なるが、君の名を冠した夜だ」
「……随分単純な言葉遊びだ」
それも、親父ギャグと呼ばれる類の。
呆れる若い友に、ユーデクスは気分を害した風なく楽しげに笑った。
「来年も、再来年も。こうして君の夜を祝えたらいいね」
二人で肩を並べて、笑みを交わしながら。
その言葉に笑顔でホーリィも頷いた後、不意に真面目な顔を作る。
「……来年は失敗しないように、私もケーキ作りを練習しておくよ」
顔を見合わせる二人の脳裏に過ぎるのは、先ほどのケーキ作りの最中に降り出した、生クリームの雪。
ほぼ同時に相好を崩して、彼らは肩を震わせた。
「ふふふ、楽しみにしてるよ、ホーリィ」
ユーデクスの言葉にホーリィは、努力するよ、と楽しげに笑った。
なんて楽しく愉快な時間だろう。
友との新しい記憶は、とても明るく甘美な物で、いつだってこの幸せを神に感謝しているのだ。
窓の外では、生クリームのように真っ白で大粒の雪が、空から舞い降りている。
それを愛しい友越しに見たユーデクスは、その美しさと幸福感に酔いしれるように、目を細めて微笑んだのだった。
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